第241話 不法入国
結局、ベックの首はレイの
(それにしても、リディーナの弓の腕は凄いな……。飛翔魔法で上空から攻撃すれば、殆ど一方的に攻撃できるぞ……)
レイは、リディーナの弓の腕に感心するも、佐藤優子が飛翔魔法を使えるようになれば、脅威が跳ね上がることを懸念する。
(こちらも飛べるが、空中であの『弓聖』の矢を躱すのは無理だからな……)
上空では、地上の様に素早く動くことは出来ない。空中では三次元的な動きが出来る反面、現状では出せる速度に限界があった。
(まあ、対策が無い訳ではないが、飛翔魔法も改良しないといけないな……)
…
「ブラン、そのまま真っ直ぐ東に進んでくれ」
『了解ッス』
レイは地図とコンパスを片手にブランに指示を出す。普通なら、御者が常に手綱を握って馬をコントロールしなくてはならないが、言葉の通じるブランにはその必要は無かった。
(まるで自動運転みたいで便利っちゃ便利だなコイツ。それに魔物が一切襲ってこない。ホント、不思議な奴だ……)
一行は街道を離れ、草原を抜けて森に入る。ここからは馬車が通れないので歩きになる。馬車を
(ここからは徒歩か。俺とリディーナでアンジェリカとクレアを抱えて飛べばすぐだがブランがいるからな。流石にこのデカい馬を抱えて飛ぶのはキツ過ぎる)
…
森が浅くなり、遠目に麦畑が見えてきた。
「もうラークの領内に入ってるようだな」
「そうね~ でもあまり開けた場所を進むのも気が進まないわね」
「そうだな……」
問題はブランだった。普通の馬よりも大きく、真っ白な体躯。それに、
「どこかの馬具屋か鍛冶屋で、ブラン用の鎧を新調しては如何でしょう?」
イヴの提案に、レイは装飾過多な西洋の騎士が乗る馬が浮かぶ。映画か何かで見た、馬に鎧を着せて一角獣に見立てた装飾を施したものを想像する。
「それいいわね。それなら街に入っても一角獣だとバレないだろうし……」
「目立つことには変わりないぞ?」
「「……」」
『オイラなら森にいるッスよ? アニキ達の匂いは覚えてるんで、近くの森で待ってるッス』
「待ってるって言ったって、何日掛かるか分からんぞ?」
『大丈夫ッス』
何が大丈夫なのか、今一理解できない一行だったが、ブランを連れて街に入るのはかなり目立つので、今回はそうすることにした。ブランがつきまとって来た当初は、いついなくなっても構わないと思っていたレイだったが、どこかへ消えたら消えたで気になる存在になってしまっていた。
(誰かに捕縛されたりしても寝覚めが悪くなるしな)
「そう言えば、お前は魔法も使えるのに、なんで最初傷だらけだったんだ?」
『イイ匂いがすると思って、黒髪の人間のメスに近づいたら、いきなり斬られたッス。慌てて逃げたんスけど、あの時は死ぬかと思ったッス!』
「「「……」」」
(白石響か……)
「マネーベルの方で一角獣の群れがいたそうだが、仲間じゃないのか? 群れに帰らなくていいのか?」
『う~ん、仲間って感じじゃないんスよね~ 気づいたら群れにいたんスけど、ずっと仲間外れだったっつーか……』
「それは……なんか、すまんな……」
(コイツ、虐められてたのか?)
「「ブラン、カワイソー」」
リディーナとイヴが揃ってブランに同情する。
「もうウチのコでいいんじゃない?」
「そうですね。是非、馬屋で馬具を新調しましょう」
『姐さん……。イヴちゃん……。オイラ、嬉しいッス』
ブランの身体は普通の馬に比べてかなり大きいので、レイ達が持っていた馬用の装具は合わず、今もアンジェリカとクレアはそのまま素の背中に乗っている。体が大きいことと、ブランには手綱が必要ないこともあって、そのまま乗るのは問題無かった。
『でも、背中に姐さんが乗るなら、なんか敷いて下さいッス。臭いキツイんで』
「ちょっ! アンタ、やっぱどっか消えなさいよ!」
『えー! なんでー?』
「「……」」
「コイツ、マジで空気読まんな……」
…
……
………
「あれが王都フィリスか……」
麦畑を回り込むように森の淵を歩いていた一行の前に、城壁に囲まれた街が見てきた。それに、街を横断するように魔導列車の線路が敷かれているのが見える。魔導列車は『ジルトロ共和国』以外の国には首都などの大都市にしか駅が無いので、王都に間違いないようだ。
ここからは、レイの光学迷彩と飛翔魔法で、上空から城門を通らずに街に入るつもりだ。
『じゃあ、オイラはこの辺りで待ってるッス』
「まあ、何日街に滞在するか分からんからな。適当にしてていいぞ」
「別に帰ってもいいわよ?」
『姐さん、ヒドイっす』
…
体格差を考えて、レイがアンジェリカ、リディーナがクレアを背負い、イヴは単独で飛翔魔法を使って空を飛ぶ。光学迷彩を掛けると、互いに見えないので、上空から街中の目立たぬ場所を差して集合地点にし、レイがリディーナとイヴに光学迷彩を掛けてそれぞれが街に向かった。
街に降り立ったレイは、自身の光学迷彩を解除し、リディーナとイヴの到着を待つ。自身の魔法は任意に解除できるが、他人に掛けた魔法は込めた魔力が尽きるのを待つしか解除方法が無い。
「レイ、着いたわ」
「私も側にいます」
「よし、もう日が暮れるから、早めに宿を確保しよう」
「「了解」」
レイは外套のフードを深く被り、修道服の上から外套を羽織ったアンジェリカと街中を歩いていく。リディーナとイヴは、それぞれ透明なままレイの背後につく。街の露店で宿の情報を聞き、フィリスで一番と言われている高級宿に向かった。
…
まるで宮殿の様な高級宿に着いたレイは、受付で空室を確認すると、迷わず最上階の部屋を全て押さえた。
「最上階、全部の部屋を使うのか?」
「警備の為だ。最上階の部屋は四部屋しかないみたいだから、念の為、全部押さえる。これで受付の者も俺達がどの部屋で寝てるかは分からないし、俺達と従業員以外はフロアに来ることはない。一般客が入ってきたら不審者確定だ。だが、一応、フロアの従業員の顔は覚えておいてくれ。急に知らない顔の従業員が現れたら要注意だ」
「わ、わかった……」
アンジェリカがぎこちなく頷く。後ろにはリディーナ達がいるとは言え、傍から見れば、男と二人で宿に泊まるように見える。フードを被っているとは言え、万一、知り合いにでも見られたら大変だ。
(これではまるで、私が男と逢引してるようではないか……)
フードの下で顔を赤くしているアンジェリカと共にレイ達は階段を上がる。この宿は五階建てで、最上階の四部屋は全て角部屋だ。五階とは言え、階段の上り下りはキツイと思われるが、このような高級の宿に宿泊する者は、頻繁に上り下りする者は少ない。大抵は使用人が用事を済ませるし、宿の中では従業員がメイドの様に働いてくれるからだ。
レイは、部屋に駐在するメイドや使用人を全て断り、食事など用がある時だけ呼ぶことを受付で頼んでいる。貴族や商人でも専属の使用人を連れてる者が殆どなので、特に珍しい要望ではない。
「やっと、ゆっくり出来るわね~」
部屋に入ったタイミングで魔法の効果が切れたリディーナが、クレアをソファに座らせて、伸びをする。
「今、お茶を用意しますね」
同じようにイヴが姿を現し、備え付けのティーセットに手を伸ばす。レイは部屋の構造を確認し、窓の外を見て周囲を観察する。
「『エタリシオン』で一息ついたとは言え、ずっと野営が続いたからな。数日はゆっくりして疲れを取ろう」
「「「賛成!」」」
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