第240話 盗品
「リディーナ、後の処理は頼んだ」
両手両足を切断され呆然としているベックを、レイは尋問の為に建物内に引きずっていった。
野盗の殲滅を確認し、馬車で待機していたイヴ達も合流し、リディーナとイヴは、手分けして野盗達の武具と魔導具を回収し、保管していた金品などを根こそぎ
「リディーナ様、私の鞄はあまり余裕が無いので、後はお願いできますか?」
「あら、どうしたの?」
「魔の森で討伐した魔物が処理しきれずに大量に入ってまして……」
「そうなの? じゃあ、一緒にやりましょうか。とりあえず盗品らしき武具と魔導具、金貨や美術品は全部入れるわよ」
「了解です」
「しかし、随分装備が良いわね……。魔導具もそこらに出回ってない物も多いし、第一、野盗が魔導具を使ってるとか羽振り良すぎない?」
「後で詳しく『鑑定』してみますが、集落や商人を襲ってたにしては高価な物が多いような気がします」
「まあ、後でレイと相談してどうするか決めましょう」
「承知しました」
野盗の死体から武具を剥ぎ取り、魔導具を鞄に入れていくリディーナ達。それを複雑な表情で見つめるアンジェリカ。
目を覆いたくなる惨状にも関わらず、リディーナとイヴは平気な顔をして武具や金品を回収している。裕福な貴族家に生まれ育ったアンジェリカには、二人の行為が理解できなかった。
「二人共、卑しいとは思わないのか?」
耐えかねたアンジェリカが二人に苦言を漏らす。
「なら、ここに捨てておく? コイツらの武具は勿論、金品なんかは他の誰かの持ち物だったのよ? このまま放置しておいたら、元の持ち主や遺族は永遠に取り戻すことはできなくなるけど?」
「そ、それは……。では、これは持ち主に返すのだな?」
「野盗を討伐した私達がこれらの所有権を持つことになるから、自分達で使おうが、ギルドに売却しようが、基本的には自分達で自由に決められる。けど、この品を取り返したい人に返すのにタダって訳にはいかないわ。騎士達と違ってね。私達は「冒険者」よ? それも、高位の冒険者がタダで野盗から盗られた物を取り返してくれたなんて広まれば、野盗に襲われた者や遺族は、冒険者に無償で取り返すことを要求してくる。そうなれば、冒険者は依頼以外で野盗を討伐なんてしなくなるわ」
「……」
アンジェリカは言い返せなかった。確かにリディーナの言うとおりだ。民の税収で活動し、国を守る義務のある騎士と違い、リディーナ達は冒険者だ。本来なら野盗の討伐は国を守護する騎士団の仕事だ。騎士の場合、野盗から回収した金品は、無償で持ち主に返却され、持ち主が分からない物は国庫に納められる。国に属さない冒険者とは根本的に立場が違うのだ。
「まあ、気持ちは分かるけどね。私達だって別に何とも思ってない訳じゃないのよ? こうして死体から剝ぎ取るのだっていい気分じゃないし、被害にあった人や遺族には同情の気持ちもある。ただ、こういったことは、感情で処理しちゃダメなのよ。特に武具や魔導具に関しては、放置しておくと逆に危険なの。この後、誰がここを発見するかわからないし、よからぬ人間に持っていかれたら、また被害が出ることにも繋がりかねない。一応、これもギルドの規則どおりよ?」
「き、規則というなら、ラークの検問で衛兵に通報すればよいではないか!」
「「……」」
「どうしたのだ?」
「確かにアナタの言うように、ここから国境の検問まで近いから、ここをこのままにして、衛兵に任せるのも一つの手だけど……」
「けど?」
「不思議に思わないの? ここから国境検問所まで、馬で一日ぐらいの距離しかないのよ?」
「?」
「んもう、鈍いわね! 巡回の衛兵とグルか、賄賂でも渡して見逃してもらってないと、こんなに堂々と野盗が拠点を築けてる訳ないでしょう? 街道にあんな検問まで作って、まるで巡回の衛兵が来ても平気みたいじゃない」
「あっ……」
「国の衛兵と共謀してるなら、通報して任せても意味無いわよ。そこの全身鎧にある紋章、ラークのでしょう? 国の兵士が襲われてるのに国が討伐に動いてないっておかしいでしょ。まあ、不正や癒着してるのは一部かもしれないけど、今はラークの衛兵は信用できないわ」
「まさか、そんなことが……」
「そのまさかみたいだぞ?」
レイが建物から出てきて、二人の会話に加わる。
「何かわかったの?」
「まあ、色々とな。リディーナの推測どおり、コイツらと検問所の衛兵はグルだ。正確にはラーク王国の奴隷商を通じて賄賂を渡して見逃して貰ってた。連れ去られた女と子供はその奴隷商が買い取ってたみたいだな。王都フィリスの奴隷商人アマンダって中年女らしいが、違法な奴隷を扱ってるのは勿論、どうやら色んなコネを使って売り捌いてるらしい。マネーベルのピアースと同じだ」
「じゃあ、どうするの?」
「国境の検問所は通らない。迂回してラークに入り、王都フィリスに向かう」
「国境の検問所を通らずに、どうやって入国するのだ! 不法入国する気か?」
「森を突っ切って行く。俺達はS等級冒険者だから違法にならないから問題は無い。王都には『勇者』もいる。今まで以上に目立たないよう隠密でいくぞ」
「了解よ。ところで、その手に持ってるの何かしら?」
リディーナはレイの手に持つ布袋を指差す。ジワリと血の滲む様子から大方察しがついていたが、聞かずにはいられなかった。
「ここの野盗団の首領の首だ。確か、ベックとか言ってたな。一応、証拠ってことと、奴隷商への土産だな。悪いがリディーナの鞄に……」
「嫌よっ!」
「「「……」」」
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