第239話 殲滅

 (ドンッ)


 

 光学迷彩を施し、集落の建物に子供がいないか調査していたレイの耳に、僅かに爆発音が聞こえた。


 (リディーナか……。意外に早かったな)


 レイは、野盗が設置したバリケードを破壊することと、連絡の途絶えた検問の様子を見に来るであろう野盗をまとめて吹っ飛ばすのに、『エタリシオン』の王宮で使用した火薬の余りを仕掛けていた。糸やロープを使った仕掛けブービートラップでも良かったが、リディーナ達に「火薬」の威力を体験させたくて、導火線を使った直接的な方法を取った。導火線自体は黒色火薬があれば作ることは難しくないので、『メルギド』のマルクに言って作って貰っていた物だ。


 レイが潜入している集落に聞こえてきた音は非常に小さく、意識して聞かなければ分からない程で、野盗達が気づく気配は無かった。


 (まあ、騒ぎになったらなったで、野盗が出払ったらこっちの調査が捗るし、野盗が検問に殺到してもリディーナ達なら問題ないからな。だが、検問に行かせた連中が戻って来ないことにコイツらが不審に思うのは時間の問題だな)


 レイは、一通り建物の調査を終え、子供がいないことを確認してリディーナ達の下へ戻った。


 …


 「で、どうだったの?」


 「子供はいなかった。リーダーらしき奴に聞くのが早いだろうな。集落にいた野盗は二十八人。このまま検問に来るヤツを削っていくか、一気に殲滅するか、どうするかな……」


 レイは、チラリと馬車の脇に捕縛している野盗達を見る。検問でブランが魔法で感電させた後、意識を覚醒させて尋問したところ、この野盗達は先の村の襲撃には加わっておらず、子供のことは知らなかった。あの集落で留守番だったようだが、見るからに昨日今日、野盗に身を堕とした風貌ではない。あの集落は襲ってないかもしれないが、同じようなことはしていたはずだ。特に、匂いを嗅いで処女かどうかを確認していた下種な獣人は間違いなく前科がある。


 野盗達は、レイの姿を見て怯える。レイによる回復魔法の実演の為、獣人の指や腕を切断した実験を見て、震え上がっていた。


 「コイツらを使うか」


 レイはそう呟くと魔法の鞄マジックバッグから何やら色々取り出しながらリディーナ達と作戦会議を行った。


 …

 ……

 ………


 「なんだありゃあ……」


 野盗団の集落にて、見張りの番をしていた男が、集落に近づいて来る男達を見て目を細める。男達は小走りに走って来るが縛られているのか走り方がぎこちない。それに、奇妙な袋を全員が首から下げている。


 ピーーー


 見張りの男は、慌てて笛を吹き、異変を知らせる。集落の入り口には警笛を聞き、武器を構えた野盗団がぞろぞろと集まってきた。


 「おい、ありゃあビリーの奴じゃねーか?」

 「てか、あいつ等全員両腕ねーぞ?」

 「一体どうしたんだっ?」


 集落に辿り着いたビリーと呼ばれた獣人は、猿轡を仲間から外され、息を切らしながら叫ぶ。


 「検問が襲われたっ! 仲間を殺っ……」


 獣人の男が言葉を最後まで言う前に、首から下げられた袋に一筋の電撃が落ちる。


 ドンッ


 ドドーンッ


 ドーン

 

 集落に駆け込んだ野盗達から次々と爆発が起こり、近づいてきた集落の野盗達を巻き込んで一帯を吹き飛ばした。爆発と同時に無数の鉄球が四方に飛散し、爆風と共に周囲の野盗達や建物を襲う。


 レイの作った簡易的な爆弾だ。皮袋内には火薬と小さな鉄球が無数に入れられており、大型の手榴弾のような効果を周囲に及ぼしていた。


 爆発に巻き込まれた野盗は十数人。爆発音と衝撃波に、慌てて建物や他の見張り小屋から出てきた野盗達を、今度はリディーナの矢が襲う。


 上空から太陽を背にしたリディーナから、次々と魔銀ミスリル製の弓で矢が射られる。頭上からの弓矢の攻撃に、射貫かれた者はどこからの攻撃かも分からぬまま、頭を貫かれて即死していく。


 一際大きい建物から飛び出してきた野盗団の首領ベックと側近二人の獣人は、その光景に目を疑う。自慢の野盗団が、一瞬で壊滅状態だ。爆音が響いた集落の入り口付近では、バラバラになった肉塊が散乱し、周囲には脳天を矢で射られた者があちこちに倒れている。


 「な、なんだこれは……」


 

 「か、カシラぁ…… 助け……はごぉ」


 「「「ッ!」」」


 鉄球を全身に受け、這いつくばって助けを求めていた男の頭に、真上から矢が突き刺さる。慌てて上を見る三人だったが、太陽を背にしたリディーナの姿は見つけられない。


 一瞬、太陽を見て目を背けたベックが、目を瞬きしながら地上に目を向けると、側近二人の首が転がっていた。


 「なっ!」



 「これで後はお前だけだな」



 ベックは何も無い空間からの声に周囲を見渡すも、誰もいない。匂いも気配も何も無かった。


 ふと、一歩足を踏み出すも、その場でバランスを崩し、前に倒れた。


 「うぐっ」


 いつの間にか、両足は膝下から切断されており、気づいた時には肘から先の腕も無かった。


 「そ、そんな…… バカな……」


 いつの間にか切断されていた両手を見ながら、ベックは何が起こったか理解できず、ただ茫然とすることしか出来無かった。



 ベック盗賊団は、僅か十分でレイとリディーナに殲滅された。

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