第238話 偵察と破壊
ベック野盗団。熊獣人ベックを首領として、獣人と人間が混成した総勢四十人ほどの大型野盗団だ。戦闘と索敵、斥候に優れた獣人達が中心となって組織された野盗団で、今まで討伐されずに生き残り、旅人や荷馬車、集落を襲って金品や食料を奪っていた。今では魔導列車のおかげで街道を通る商人が激減し、奴隷商人と繋がりを持って違法な人身売買に手を出し、勢力を拡大してきた。
この集落は、ラーク王国の南西、国境検問所に近い位置にあったが、街道を利用する者が少なくなった所為で、国の騎士達の巡回が激減しており、偶にある巡回も賄賂を渡して見逃されていた。
「あいつらを殺った連中はまだ見つからねーのか?」
「へい。検問からはまだ何も連絡はありやせん」
一つの集落を襲った後、マネーベル方面に偵察に出した五人が消息を絶った。捜索に人を出したところ、死体は発見できなかったが、大量の血の痕跡を発見したと報告を受けたベックは、全員殺られたと判断した。匂いを辿って追跡させたが、『魔の森』に入ってからはそれ以上の追跡を断念した。
(あの森には、本隊で入らなきゃならんからな……)
ベックにとって、人間の兵隊がいくら殺されようが何とも思わなかったが、同じ獣人の二人が殺されたことには危機感を持っていた。偵察に出した二人は手練れだった。そう簡単にやられはしない。二人共殺されたのなら、騎士の部隊か、高等級の冒険者ということになる。馬の足跡の数から、騎士の線は考えられず、高等級の冒険者の可能性が高かった。それに、『魔の森』に消えたということはB等級以上は確実で、もしこの集落に現れることがあれば、かなりの被害を出すことが予想された。
ベックは古参の部下達を集め、今まで売らずに取っておいた魔導具や武具の使用許可を出し、集落の警備を強化するよう指示を出した。
「ヤラれて堪るかよ……」
…
……
………
(ふーん……)
集落を眼下に、その遥か上空にレイはいた。街道の検問で捕らえた連中を尋問し、ここの場所を知ったレイは単独で偵察に来ていた。リディーナとイヴは、馬車にて待機しアンジェリカとクレアを守っている。検問からの連絡が途絶えれば、人が送られて来ることは間違いなく、鼻が利く獣人がいれば隠れていても見つかるので、迎え撃つ体制のままレイの帰りを待っている。
レイは、強化した視力で集落を観察する。一見、普通の村だが、要所に見張り小屋を設置し、一人一人の装備も冒険者並みだ。
(検問にいた連中とは違って随分装備が良いな。騎士の全身鎧を着込んでるヤツも多い。それに、あれは魔術師か? 弓兵とセットで豪奢な杖を持ってるヤツまでいる。獣人と人間の混成野盗団か……。あの指示を出してるデカイ奴がリーダーだな)
「しかし、気分は
レイは、壊滅していた集落に子供の姿がなかったことが気に掛かっていた。死体は老人と大人だけ。村の規模から十~二十人は子供がいてもおかしく無かったが、子供の遺体は一つも無かった。連れ去られたと考えられたが、この集落にそれらしい人影は見えない。建物の中に捕らえられていた場合、ここから魔法を放てば子供諸共殺すことになる。それに、いなければ子供の行方を聞き出す必要があった。
「潜入して調べるしかないか……」
前世のレイならこのような判断はしなかった。任務である『勇者』の暗殺に関係の無い寄り道や、脅威の排除に犠牲は考えなかった。
仲間の存在や、シャル、ソフィと過ごした日々が、レイに変化を与えていた。
…
……
………
強化した視力でなんとか検問を視界に収められる距離に馬車を止め、リディーナとイヴが御者席に座って切断された草の茎に魔力を流していた。
「本当にこんなので元に戻るのかしら?」
「レイ様は治してましたけど……」
二人はレイから教わった回復魔法の練習中だ。検問で捕らえた野盗を使ってレイは回復魔法の講義を行った。捕虜の一人の腕や指を使ったが、上手くいかなかったので、まずは草木の茎を使っての練習を言い渡されたリディーナとイヴ。二人は捕虜の切断された腕と草の茎を見せられ、説明を受けたが、細胞や神経など聞き慣れぬ単語に困惑し、中々イメージできずにいた。
「そんなモノが本当に回復魔法の練習になるのか?」
そこへ、アンジェリカが馬車の窓から二人を見て苦言を呈す。アンジェリカからすれば、回復魔法は神への祈りを以って行うものであり、そのような練習法は聞いたことが無かった。教会で育ったイヴも同じ考えを持っていたが、レイが神に祈ってる姿は見たことが無い。にも関わらず、教会の誰にも真似のできない治療を数多く行っている。
「アンジェリカ様も、レイ様の魔法は見ておられるはずです」
「それはそうだが……」
『姐さん、くっさい臭いの人間が近づいて来るッス』
ブランが鼻を引く付かせてリディーナに警告する。
「あら、意外と早かったわね~」
リディーナは強化した視力で検問を見て、野盗達が検問を調べているのを確認すると、魔法で手元の紐に火を着けた。
「これで本当に大丈夫なのかしら?」
「「さあ?」」
紐は火花と煙を出しながら検問へと伸びていった。
ドンッ
暫くすると検問が爆発し、野盗達を含め、まとめて吹き飛んだ。遠目から男達がバラバラになって飛散するのを見ていたリディーナとイヴは、その大きな音と爆発に驚き、「火薬」の威力を目の当たりにした。
「な、なんだあれはっ! 何をしたんだっ!」
突然の轟音と衝撃に驚くアンジェリカ。
「「かやく」って言うらしいわよ?」
「「ばくだん」では? リディーナ様」
「そうだったっけ? どちらにせよ凄い威力よね。『エタリシオン』のお城を吹き飛ばしたのもあれなんでしょう?」
「そうですね。使用した量は違うみたいですが……。道を塞いでた丸太も一緒に破壊されてますから、あれなら馬車も通れますね」
「「いっせきにちょう」って言うらしいわよ?」
「どういう意味でしょうか?」
「さあ?」
「……」
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