第234話 王都フィリス③
―『冒険者ギルド フィリス支部』―
冒険者ギルド、フィリス支部の執務室。ギルドマスターであるクライドの前には、「S等級」冒険者である『大地のゴルブ』が座っていた。ゴルブの手には木製のジョッキが握られており、手酌でテーブルの上の酒瓶から琥珀色の液体をドボドボ注いでいた。
「それは、そうやって飲む酒じゃないんですがね?」
「あん? 酒の飲み方に決まりがあんのか? 堅ぇこと言ってっと、ハゲるぞ? てか、うめーなコレ! ガッハッハッ!」
「グランドマスターから、貴方がいらっしゃると聞いて用意させた物ですが、お気に召して頂いて良かったですよ……」
「『ういすきー』がこの国にあるとはな~ 随分羽振りがイイみてーだな?」
「……ご存じでしたか。あの『マネーベル』でもまだ市場には流通してない酒なんですが……。まあ、最近この国は景気が良いですからね。それより本題ですが、ウチの冒険者が『勇者』? だとか……」
金髪を七三分けにし、鋭い目つきをしたこの男。クライドは、この世界では珍しい眼鏡を掛け、物怖じしない態度でS等級冒険者のゴルブと対峙していた。年は三十台半ば、ギルドマスターとしてはかなり若いが、元A等級冒険者として優秀な経歴を誇る男だった。
一方のゴルブは、一般的なドワーフ族と同じような小柄な体躯だ。しかし、その身体は筋骨隆々で、背中に背負う巨大な
「おう、その件だがよ? ジョウナオキとかってA等級の冒険者が『勇者』だっつー話だ。オメー、ソイツ知ってるか?」
「ジョウナオキ…… さあ? 冒険者は大勢いますし、最近は近隣の支部からも冒険者が流れてきてます。すぐには浮かびませんね。それにしても『勇者』ですか……。にわかには信じられませんねぇ」
クライドは眼鏡をクイッと直し、城の存在をはぐらかして『勇者』の存在を疑った。
「ヘッ! すっとぼけやがって……。まあいい、ワシの方で勝手に探す」
「お好きにどうぞ。とは言え、何か要望があれば都度仰って下さい。協力は惜しみませんので」
ジョウナオキの情報をはぐらかしながら、協力は惜しまないなどと茶番の様な物言いのクライドに、露骨に気に入らないといった顔をするゴルブ。仮にもギルドマスターが、己の管理する支部で活動する高等級冒険者を知らないなど有り得ない。
だが、元々細かいやり取りが嫌いなゴルブは、それ以上の問答をせず黙って部屋を出て行った。グランドマスターから受けた依頼は、『勇者』の存在を確認するだけであり、冒険者とギルマスの癒着を調査することでは無いからだ。
ゴルブが部屋を後にするのを見送ったクライドは、引き出しから一通の便箋を取り出し、筆を執った。
「フフフ……。城君、一つ貸しですよ?」
…
……
………
高級宿の一室。
城直樹は、冒険者ギルドの受付嬢から届けられた一通の手紙を読んでいた。部屋には藤崎亜衣と、城直樹の冒険者パーティー、『シックス』の四人が揃って、各々寛いでいる。
「ふ~ん、「S等級」のドワーフね~ 誰か知ってる? 『大地のゴルブ』ってジジイ」
「さあ? 私は知らない」
「「「同じく」」」
藤崎とパーティーメンバーは揃って知らないと答える。そもそも、「S等級」というA以上の等級があることすら、一般の冒険者には知られていない。城や藤崎を含めて、若いメンバーが知らなくても無理は無かった。
「てか、「S等級」って何よ?」
「Aより上の等級らしいぜ? なんでも『龍』と同じ扱いなんだと」
「『龍』? ドラゴンってこと?」
「多分『古龍』のことで、「竜」じゃねーよ。「竜」なら一回やったことあるしな。鉱山に棲んでた「
「「「……」」」
パーティーメンバーは、城の発言に何とも言えない表情になる。「竜」を大したことないと言えるのは、A等級の冒険者でもそうはいない。鉱山で遭遇した「竜」も殆ど城が一人で倒したのだ。城抜きで自分達でやれと言われても断るだろうというのが四人の感想だ。
「ふーん、私は、デカい魔物は苦手だなー」
「まあ、そのジジイが探してるのは俺だけだから、暫くギルドに行かなきゃ、その内諦めて帰るだろ。どっから聞きつけたか知らねーが、俺が『勇者』か調べに来たんだとよ。面倒くせぇ。それより、そろそろ亜衣ちゃんの能力を知っときたいんだけど?」
「……」
「さっきも話したとおり、侯爵家の当主と次期当主を殺るんだ。計画は完璧にしておきたい。亜衣ちゃんの能力の名前から予測は付くけど、具体的に何が出来るか知っとかないと、協力してもらうも何もないだろ?」
「アンタの能力を先に話してくれれば話すわ」
「いいよ~ ただ、他言は無用ね。俺の能力は『
「六属性って嘘でしょ? 高槻の『大賢者』並みじゃん」
「まあね。遠距離特化の魔術師に対する、近距離特化って感じ? 炎を放ったりして遠くの敵に攻撃できないのが弱点っちゃー弱点かなー」
「アンタがいれば、遺跡探索も楽だったかもね。てか、アンタ、日本に帰りたくないわけ?」
「別に~? つーか、帰ってどうすんだよ? こんなおもしれ―世界に来たんだぜ? しかもチート持ちで。地球に魔素が無かったら、帰ったって普通に戻るだけじゃんよ。仮に魔素があって向こうでも魔法が使えたとしても、俺みたいな攻撃系は意味なんて無いんだしよ。身体強化で格闘家にでもなるのか? ハハッ、勘弁勘弁」
「でも、家族とか、会いたい人とかいないの?」
「家族とか別にだな、俺は。うざってー親に会うよりこっちで面白おかしく暮らす方が何倍もいいね。ネットも何もねーけど、慣れりゃどうってことねーしな。それに、日本に帰って、ここでの経験を話せないヤツと今後仲良くできると思うか? 異世界で魔法使ってました~ とか、痛いヤツ扱いは間違いねーだろw 魔法が使えなきゃ尚更だしよ。ずっとここでの経験を秘密にして生きてくってキツくね?」
「じゃあ、何でオブライオンに残らなかったの? あっちなら態々A等級にならなくても好き勝手できたでしょ」
「あんなクソ田舎に残ってどうすんだよ? てか、アイドルの高槻と陰キャの九条が仕切ってて、良くまあ、皆残って従ってるよな~ 南も
「ま、まあ、それはあるかも。それに、外の国に出て分かったけど、あの国の文明の低さはちょっと引くしね」
「そんなことより、俺の能力は話したんだから次は亜衣ちゃんの番だぜ?」
「……分かったわよ。私の能力、『
「マジかよ……。それってズルくね? 食堂でのあれがその能力だろ? あんなに素早く出入りできるなら、マジ無敵じゃん。俺、そっちの方が良かったなー」
「別にそんな便利なモンでもないわよ。人に見られたら面倒だし」
そう言って、藤崎は城のパーティーメンバーを見る。暗に他に漏らすなと言うつもりだったが、メンバー四人は、只、黙って聞いていた。城の能力も常識では考えられない能力だ。他言無用という制約が成されてなければ、こうしてパーティーを組んでないであろうことから、藤崎も敢えて注意することはしなかった。
城と藤崎。二人の特殊能力がとんでもないものだと認識していた四人だったが、二人がお互いを信用しておらず、話していない別の能力があることは想像すらしていなかった。
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