第219話 会談②

 「め、女神から許可だと……?」


 「女神様も、とんだ男を『使徒』に選んだもんだね~」


 「そんなことはどうでもいい、それより、シャルとソフィのことだ。二人が不自由することは無いだろうな?」



 サリム王が、シャルとソフィに笑みを向け、力強く発言する。


 「勿論だ。サリム・エル・エタリシオンの名に懸けて誓おう」



 「悪いが、丁重に扱われているはずだと言っていたリディーナは、婚約者とやらに暴行を受けてたからな。話半分に聞いといてやる。こっちの用事が済んで落ち着いたら、二人が平穏に暮らしてるか様子を見に来るぞ?」


 「ッ!」


 顔が引き攣るサリム王と側近達に対し、パァーっと笑顔を見せるシャルとソフィ。


 「「お兄ちゃん、ホントにっ?」」


 「ああ、用事を済ませたら必ず会いに来るさ」


 …


 その後、王の側近達により、シャルとソフィの出身村であるメナール村の者達と両親に使いが出され、二人は無事、両親と再会、レイ達と別れた。


 涙を浮かべて手を振るシャルとソフィを見送りながら、レイ達は再びサリム王達と向き合う。


 「さて、ここからは子供はいないからな、遠慮無しで話そうか……」


 (((さっきまで、首とか始末とか言ってたけど? 遠慮、してた?)))


 誰もがレイにツッコミたかったが、それを言える者はいない。



 「『勇者』が要求していたモノ。あんたの腹の中にあるソレは一体なんだ?」


 「……」


 サリム王の沈黙に、シリルと側近達がサリムを見る。腹に飲み込んだ物とは一体どういうことなのか、シリルを含め、誰も知らぬことだった。


 レイは、自分の鞄から表面に模様の入ったゴルフボール大の球体を取り出す。以前、スヴェンという冒険者から奪った物だが、イヴの『鑑定』でも何か分からなかった女神由来の物だ。

 

 「そ、それはっ!」


 サリム王は、それを見て、慌てて自分の腹に手をやる。


 「コレと同じ物を『勇者』に渡すまいと、あんたが飲み込んだところは見ていた。自国の民を犠牲にすることを覚悟していたこともな」


 「くっ……」


 

 「それは『鍵』だよ」


 黙っていたサリムに代わり、トリスタンが口を開いた。


 「鍵?」


 「兄上っ!」


 「サリム、黙っていても事態は好転しない。それに、レイ君が知っていた方がボクは良いと思うけど? 『勇者』は全員で三十二名だっけ? 何人かはレイ君が殺ったみたいだけど、まだ十名以上が残ってる。未確定だけど、オブライオン王国を乗っ取ってる可能性もあってね、事態はかなり深刻なんだよ。彼らがどうして『鍵』の存在を知ってるのか謎だけど、それを集めてるってことは用途も知ってるってことだ」


 「勿体ぶってないでさっさと話せ。大事なモノのようだが、また他の『勇者』が来たらこの国の人間で守れるのか? 言っちゃあ悪いが、外の吸血鬼ヴァンパイアに手間取ってるようじゃ、『勇者』には勝てないぞ?」


 「それに関してはボクも同感だね。『真祖』ならまだしも、第三世代以下の吸血鬼に手こずるようじゃね……。まったく、これじゃあ結界も考えものだよ。もっと外にも目を向けるよう、百年前に警告したじゃないか」


 「「「くっ……」」」


 シリルと近衛達が歯を食いしばりながら俯く。事実だけに何も言い返せない。


 

 「……わかった、話そう。……この『鍵』は、約千年前から代々王にのみ伝わる物だ。何故兄上が知ってるのか…… まあいい、これは世界にいくつかある内の一つで、この世の全てを破壊するモノの『鍵』だ。だが、それがどういったモノかは分からない。女神様が直接降臨され、封印の『鍵』であるコレを如何なる犠牲を払ってでも守れと初代の王に仰られたそうだ」


 「『封印』ね……」


 (大昔のRPG、ゲームかよ……。そんな危ないモノなら封印なんかせずに処分しろよ。仮にも神なんだから他にもやり様はあっただろ。あの女神、頭悪いのか? 『鍵』を集めれば、解除できるようなシステムなんて、何故作ったんだ?)


 「あの女神、遊んでんじゃねーだろーな……」


 レイは、一瞬、女神から依頼を受ける際に聞いた「異世界転移技術」のことかと思ったが、その技術がこの世の全てを破壊するような大袈裟なものとは思えなかった。それに、女神が自分の力で転移させられるようなことを言っていたし、態々地上にそんな施設を残しておく理由も思いつかない。


 「それを求める『勇者ヤツ』に聞いた方が早いか……。くそ、白石響じゃなく、東条奈津美を残しておくべきだったか」


 この話を、先に聞いてれば、尋問するのは東条奈津美の方だったとレイは後悔したが、過ぎたことは仕方ない。能力が不明な者を残すリスクを考えれば、すぐに始末したことは、あの場では正解だったはずだ。レイは、すぐに思考を切り替える。


 「白石響は『王都組』だった。オブライオンにいる『勇者』達は、何か知ってるかもしれないな……」


 「『王都組』? 何のことだい?」


 トリスタンがレイの言葉に反応して尋ねる。


 「さっき、アンタも言ってたろ? オブライオン王国を乗っ取ってる『勇者』達のことだ。『勇者』を何人か尋問して聞いたが、アイツらは王国に残った連中と、元の世界に帰る方法を探して国外に出た連中とに分かれてるらしい。国外に出た連中は『冒険者』として古代遺跡の探索をしているらしいが、この『鍵』を探してるかは分からん。だが、先日始末した二人は『王都組』だったから『鍵』とそれに関した情報を知ってたかもしれん……」


 「では、オブライオン王国が『勇者』に乗っ取られてるのは確定という訳か……。実は、向こうの冒険者ギルドの支部と連絡が取れなくなったんだよ。まいったな…… これはいよいよ拙い事態だよ? 『勇者』だけでも厄介なのに、国が丸ごと『鍵』の捜索に乗り出すことになれば…… レイ君、今後オブライオンに行く予定なんかは……」


 「まだ当面先だな。居所の分かっている『勇者』は後回しだ。ヤツらが拠点にしている国があるなら、滅多なことではそこから動かないだろうからな。今は『探索組』を優先する。その為にマリガンに情報を流したし、『聖女』を保護したんだからな。まずは『探索組』の情報を集めるのが先だ」


 トリスタンはチラリと聖女クレアを見るが、クレアは無表情のまま座して動かない。隣のアンジェリカが何やら挙動不審にしているが、それだけでは聖女を取り巻く状況は分からないだろう。何よりレイは、会ったばかりのトリスタンという男をまだ信用していない。帝国の『聖女』が正常か分からない現状では、聖女クレアが精神を病み、聖女としての役割を全うできない事実はまだ知られる訳にはいかない。


 それに、マネーベルでの『悪魔』騒動に聞いた謎の男の件もある。まずは聖女を確保し、『神託』の信憑性と女神の思惑を調べる必要があった。



 「『勇者』共が何を企んでるのかは気になるが、ここに二つあるんだ。焦って乗り込んで、態々持っていってやる必要も無いだろう」


 「一つは、サリムが飲んじゃったみたいだけど?」


 「吐き出すか、それが無理なら取り出せばいい。そのままにしてたらいずれ奪われるのは間違いない。勇者の一人は洗脳の能力を持ったヤツもいたんだ。飲み込んだのは拙かったな。この小さい球と、病気で弱ってる人間一人じゃ、守る難易度が桁違いだ。まあ、俺が一つ持ってるから、そこの王様が洗脳されようが、殺されようが、俺には関係ないけどな」


 「くっ……」


 「あーあ、どうすんの、サリム? 『勇者』はまだ何人もいるから、このままだとホントに鍵が奪われちゃうよ? レイ君に預けた方が安全じゃないかな~ そしたらまた勇者が来ても、レイ君に預けたーって言えば、この国もそんなに被害は出ないと思うし、レイ君も『勇者』自ら来てくれた方が殺しやすいだろうし? 頑張って吐いちゃお? ね?」


 (別に殺しやすくはねーよ…… 何言ってんだコイツ)



 「うぐ……」


 「吐き出すのが無理なら、俺が腹を切って取り出してやろうか?」


 「……」



 (((コイツら悪魔だ……)))


 サリム王とシリル達は、顔を引き攣らせながらレイとトリスタンの発言にドン引きした。

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