第218話 会談①
――『エタリシオン 長老院会議室』――
レイは『勇者』二人を始末した後、リディーナ達と合流し、今は王都内の長老院内の会議室にいた。
レイ達が王都に来た目的は二つ。一つはシャルとソフィの引き渡しとその後の安全保証。それと『勇者』が要求していたモノの詳細を知ることだった。王が飲み込んでまで『勇者』に渡したくなかったモノは一体何なのか、同様のモノをレイは持っており、イヴの『鑑定』では女神由来の
レイがリディーナとイヴ、シャルとソフィ、アンジェリカと聖女クレアを連れて王都に訪れた際、城門の兵士達に案内され、この部屋へと通された。街中では住民のエルフ達から様々な視線を向けられたが、レイは無視して案内に従った。リディーナとシャル、ソフィにフードを羽織らせ、その顔を隠させている。三人からは文句を言われたが、自分達がいなくなった後に、人間に連れてこられたとシャルとソフィを中傷させない為のレイの配慮だ。
兵士達に案内された部屋では、サリム王とシリル、数名の側近と近衛達の姿があった。それに、見知らぬ一人のハイエルフ。
「やあ、やっと会えたね~ キミがレイ君か~」
「「「?」」」
「初めまして、ボクの名前はトリスタン。一応、血縁上は、そこに座ってるサリム王の兄にあたるんだけど、今日ボクは、王族としてではなく、冒険者ギルド本部のグランドマスターとしてここに来ているから、第三者の立場ってことで宜しく頼むよ」
「「本部のグランドマスター?」」
「あ、貴方が……?」
「ああ、キミはイヴ君だったかな? その節は申し訳なかった。キミのことはダニエから頼まれてたんだが、「S認定」への派遣を知ったのはキミが出発した後だったんだ。守ってやれなくてすまなかった」
トリスタンはそう言うと、イヴに深々と頭を下げた。
「「「ッ!」」」
サリム王達がその様子に驚く。仮にも王兄が、誰かも知らぬ小娘に頭を下げたのだ。普段であれば、到底容認できることでは無かったが、
リディーナが訝し気な顔をしてトリスタンを見る。レイだから良かったものの、「S等級」冒険者へ派遣するのに不相応な護衛をつけた本部のやり方を、頭を下げたぐらいで許すつもりは無かった。
「レイじゃなかったらイヴは殺されてたかもしれないのよ? 謝って済む問題かしら?」
「リ、リディーナ様……」
「キミがリディーナだね? 噂通りの美人だ。一応、姪ってことになるのかな? 同族だし、キミのことも気には掛けていたんだよ? まさか「S」認定されるほど強くなってたとは思わなかったけど……」
「気に掛けてた? 一体何のことよ?」
「今まで『エタリシオン』に連れ戻されなかったことを不思議に思ったことはないのかい? 要請を握りつぶ……いや、放置したりと色々と手を回してたんだよ?」
「あ、兄上っ! まさか、娘の所在が分かっておったのかっ!」
「サリム……。一応、僕ら『冒険者ギルド』は営利団体で、慈善団体じゃないんだよ? 「要請」じゃなくて「依頼」しないとね~」
「くっ! それでも王族かっ!」
「さ~ね~」
とぼけるトリスタンに対し、リディーナは複雑な心境だ。今まで何十年も国に連れ戻されるような気配は無かった。居場所を転々としていたからと思っていたが、考えてみれば同じ冒険者の同族にも今まで出会っている。エタリシオンからの要請が周知されていたら、同族に捕まっていてもおかしく無かったのだ。
「まあ、冒険者として期待してたのもあるけど、ずっとソロのままB等級だったからね。どうしてるかなと思ってたところに「S」認定の推薦だ、驚いたよ。……彼の影響かな?」
トリスタンはそう言ってレイを見る。
「さあな、俺は何もしてない……」
((嘘つきー!))
リディーナとイヴがレイをジト目で見る。日々の講義と鍛錬は、二人にとって、もはや修行だ。何もしてないと平然と言うレイに二人は突っ込みたくなる。
「それより、俺はそこの王様に用があるんだが?」
「余にか?」
「まずは、ジルトロ共和国で保護したそこのシャルとソフィを引き渡したい。違法の奴隷業者に捕まってたところを保護した。首謀者は捕縛し、今も調査が行われてる。詳しくは向こうの議会から書状を預かってるからそれを見てくれ」
レイはそう言うと、リディーナに目配せする。リディーナは鞄からジルトロの議長から預かった書状を取り出してサリム王に渡した。
「むう…… どうやらジルトロ共和国の議員が首謀者だったようだな。書状には国を挙げて全容を解明し、この件に関して全面的に謝罪するとあるが……」
「一応、冒険者ギルドが主体で調査してるはずだ。調査の進捗は俺に報告がくることになってる。中途半端に有耶無耶にしたら、誤魔化したヤツは俺が始末すると念を押してある。もし、首謀者の首が欲しいなら有料で依頼を受けてやるぞ?」
「「「……」」」
「ははっ! そりゃ、必死に調査するだろうね~ それに、首を持ってくる依頼なんて、それ、冒険者じゃないよ?」
「俺は元々、殺し屋だ。それに、女神からは『勇者』を排除すれば後は何をしてもいいと許可は得ている」
「「「なっ!」」」
トリスタンとレイの発言に、サリム王達の顔が一層青くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます