第207話 勇者暗殺

 泊まっていた家の前で焚き火を囲み、昼食の準備をしていた一行の前に、レイが起きてきた。


 「レイッ!」


 それを見たリディーナがレイに駆け寄り、勢いよく抱き着く。


 「リディーナ、目を覚ましたか。……良かった」


 「うん。助けてくれてアリガト。……ごめんね」


 「謝るな。リディーナの所為じゃないだろう? それに、礼はシャルとソフィに言え。二人が頑張って、リディーナのことを俺に教えてくれたんだ」


 「オ、オレは何もしてないよ!」

 「そうだよね~ 普通に捕まっちゃっただけだもんね~」


 「ば、ばか、ソフィ!」



 『オイラも頑張ったっス!』



 「「「「……」」」」


 

 「ねぇ、レイ。あの馬、喋ってるんだけど……。 ど、どうなってるの?」


 『馬じゃねッス、一角獣ユニコーンッスよ~ 姐さん! あと、もうちょっと離れてくださいッス』


 「ね、姐さん? 離れて……?」


 「き、気にするなリディーナ。無視だ。おい、ブラン、離れるのはオメーだ! あっち行ってろ!」


 『そんなぁ~ 酷いッスよ、アニキ!』


 「「「「……」」」」


 「シャル、ソフィ、ちょっとブランをあっち連れてってくれ」


 「「?」」


 …


 シャルとソフィが文句を言うブランを連れ出し、離れたのを確認したレイは、リディーナ、イヴ、アンジェリカに話し出す。


 「子供に聞かせる話でもないからな……。いいか、簡単に説明する。昨夜、王のいる城で『勇者』が二人現れた」


 「勇者が?」


 「一人は、白石響シライシヒビキ。もう一人は恐らく東条奈津美トウジョウナツミだ。女神から貰った画像よりだいぶ人相が変わってるが、間違いないだろう。だが問題は、その能力が分からんということだ」


 「白石響って、前にレイが斬った女よね?」


 「ああ。両目は潰したはずだったが、復活してたな……。どうせ何かの能力チートだろう。問題は東条奈津美の方だ。外から見てたが、いきなり王の寝室に現れた。メルギドで遭った吉岡莉奈ヨシオカリナと同じような『空間魔法』か、その類だろう」


 「吉岡莉奈……」


 リディーナの脳裏に、ゲンマを殺した吉岡の顔が浮かぶ。


 「転移できる能力持ちなら尋問する為に拘束するのは無理だ。魔法なら魔封の手錠で魔力を遮断して防げるが、『聖剣』みたいな特殊能力だったら意味が無い。今回は現れる時間と場所が分かってるから、即殺すことにする」

 

 「わかったわ。準備する!」


 「いや、リディーナ、今回は俺一人で行く」


 「「「え?」」」


 「相手の一人は魔術師系というぐらいしか分からんが、『剣聖』は近接戦闘系だ。現れる時間と場所も分かってる。まあ余裕だろ」


 「二人もいるんでしょ!」


 「よ、余裕ですか?」


 リディーナが数の不利を指摘し、イヴがレイに恐る恐る尋ねる。


 「普通、暗殺なんてのは、こちらが有利な状況、確実に殺せる状況を整えてから実行するのが当たり前なんだ。今まで、能力も分からない相手と偶然の出会いや襲撃で正面からやる羽目になったが、正面からガチンコなんて、本来の俺のスタイルじゃない……。今回は殺し屋として普通に仕事ができるだろうから問題ない」


 「「「え?」」」


 リディーナ、イヴ、アンジェリカの三人が、レイの言葉に疑問を覚える。


 (((今までの戦闘が本来のスタイルじゃない? ウソでしょ?)))


 「まあ、今回は俺に任せてくれ。それより、吸血鬼が王都周辺に結構な数が残ってる。ブランがいるから大丈夫、って考えも危ういかもしれん。シャルとソフィ、聖女を頼む。油断はしないでいてくれ」


 「わかったわ。……でも、今回だけだからね! 次は私も一緒なんだから!」

 「承知しました。ご武運を」

 「わ、わかった(……吸血鬼?)」


 一人でやると言ったレイに内心不服なリディーナだったが、レイの余裕な態度を信じた。自分が助けられたばかりで、ついていくと言っても説得出来る自信も無かった。


 (レイ、絶対死んじゃダメなんだから……)


 …

 ……

 ………


 夕刻。


 「どうやら伝言は素直に受け入れられたようだな……」


 王都上空から、強化した視力で王宮を見つめていたレイは、見える窓から人影が一切見られないことから城に人がいないことを確認する。王宮のみならず、周辺にも人の気配は無く、忠告通りに避難しているようだった。


 「まあ、あまり時間に余裕は無いから、残ってても知らんがな……」


 レイは、そう呟くと、王の寝室へと向かった。


 …

 ……

 ………


 「さて、そろそろ行きましょうかね~ 響?」


 「了解よ。面倒だから今日で最後にしたいわね。もし、奈津美が探してる物が無かったら、全員殺しちゃっていいんでしょ?」


 「いいわよ? でも、宝物庫の中身を全部確認しなきゃならないから、出来れば王様が見つけてくれてるのを期待したいところね~」


 「なら王様は残しておく?」


 「う~ん、なんかいつもゲホゲホ言ってるから、あんまり一緒の空間にいたくないのよね~ 別にいらないかも?」


 「じゃあ、殺すわね。……イリーネは、今日もお留守番?」


 「はい」


 イリーネは無表情のまま、響に軽く会釈をする。最近は、このオブライオンの王宮の地下室で、奈津美の手伝があると言って殆ど外に出ていない。


 「じゃあ、行ってくるから後はお願いね、イリーネ」


 「畏まりました」


 …


 『エタリシオン』王宮。王の寝室に転移した東条奈津美と白石響は、いつもベッドに横たわる病弱のサリム王がいないことを不審に思う。


 「あら、誰も……」

 「えっ……」


 部屋が無人と思った途端、二人の視界は急に暗転し、二人揃って意識を失いその場に倒れ込んだ。

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