第196話 UNICORN?

 「お兄ちゃん! 大変なの!」



 探知魔法で反応のあった物体は、まさかのブランとソフィであった。レイは、目の前の光景に暫し困惑する。連日の魔物の襲来で常に臨戦態勢だったこともあり、思考の切り替えが遅れる。レイは、自分自身にも落ち着けと言い聞かせるように、優しくソフィに尋ねた。


 「ソフィ、一体どうしたんだ? 何故一人で戻ってきた? リディーナとシャルはどうした?」


 「あ、あのね、お兄ちゃん…… お姉ちゃんが……」


 『やだなー、アニキ! 一人じゃなくて、オイラも一緒ッスよ?』



 「「「なっ!」」」



 『リディーナの姉御が大変みたいなんで、急いで来たんスよ~? 結構ダッシュして頑張ったっスよ、オイラ?』



 「「「「……」」」」


 

 『ほら、ソフィちゃん、訳して訳して! オイラ頑張ったって、ちゃんとアニキに伝えて!』



 「「「「……」」」」



 「お、お兄ちゃん…… ブランがね、喋ってるの…… も、もしかして、私だけ変になっちゃったのかなぁ……?」



 「「「……」」」



 レイとイヴは、揃って口を開け、暫し放心状態で何も言えずにいた。アンジェリカはブランを指差し、口をパクパク開閉しているが、声は出ていない。



 「お、落ち着け、俺。馬が喋ってる。いや、一角獣ユニコーンか、いやどっちでもいい、とにかく、喋ってる……。やばい、疲れてんのか俺。おかしい、確かにあまり寝てないが、幻覚や幻聴がでる程じゃなかったはずだ……」


 「レ、レイ様……。わ、私も疲れてるのでしょうか? いや、寝ぼけて……?」


 「う、馬、馬、馬が喋ってる……」



 『失礼っスね! 馬じゃないっス、一角獣っス!』



 「「「やっぱ、喋ってる!」」」

  


 「よかったぁああん! 私だけじゃなかったぁあああ!」



 ソフィの慟哭に、その場の全員が、疲れからくる幻聴や、夢じゃないことを認識した。


 「お、おい、ブラン、いや、ブランでいいのか? 何故喋れる?」


 『やだな~ ブランっスよ~ ソフィちゃんがくれた名前♪ 本気嬉しいッス! てか、アニキもオイラの言葉が分かるんスか?』


 「分かりたくないが、分かる。なんで人の言葉が話せる?」


 『いや~、分かんねっス。ここへ来る途中に、ソフィちゃんと話せるようになったんスよね~ まったくビックリっスよ~」


 「「「おいおい、びっくりはこっちだよ!」」」


 レイは、はっとして腰の黒刀、クヅリを見る。そもそも、ただの刀が話せるのだ。魔物が喋っても不思議じゃない(いや不思議だけど)。それに、メルギドで『龍』も喋っていたのだ。そう思い直し、ブランを見る。


 『ん? なんスか、アニキ?』


 馬の顔で流暢に話す姿は、なんとも不気味だ。


 「アニキって誰だよ……」


 『やだな~ アニキはアニキっスよ! オイラの突進を受け止め、傷も治してもらった、オスなら惚れるってモンっすよ~ それに、アニキの魔力っつーんすか? なんかこー ものがあるんスよね~!』


 微妙に眉が八の字になって、さも当然といった表情は、やはり不気味だ。


 「イヴ、コイツを『鑑定』しろ」


 「は、はい!」


 「「「……」」」



『UNICORN(Male)/Age224/Element: wind・water・lightning/Condition:Abnormal(curse)』


 ―『一角獣ユニコーン(雄)/224歳/属性:風・水・雷/状態:異常(呪)』―


 「ただの一角獣ですね。ですが、なんか呪われてるみたいです」


 「「「呪い?」」」


 「呪いの詳細までは視えませんでした。それと、224歳ってありますけど……」


 『ノロイとか224サイってなんだよ、イヴちゃん?』


 「イヴ……ちゃん……」


 最早、どこから突っ込んだらいいか分からない程、一同混乱する。


 「それより、お姉ちゃんが……」


 「そ、そうだ、ソフィ! さっきのそれ! リディーナがどうした?」


 「偉い人に連れてかれちゃったの!」


 「連れてかれた?」


 「オウゾクって人に、お姉ちゃんが、倒れちゃって、その……」


 あの場でリディーナに起こった事が上手く説明できないソフィ。だが、ニュアンスでおおよその察しがついたレイは、目を細める。


 「安心しろ、ソフィ。俺が連れ戻してくる」


 「「「……」」」


 レイの放つ重い雰囲気に、この場にいる者全員が息を呑む。


 『じゃあ、早速行きましょう、アニキ!』


 「リディーナの居場所は分かるか?」


 「ブランが匂いで分かるって」


 『いや、姉御の匂いはちょっと……』


 「「「「え?」」」」


 

 『なんでか分からないんスけど、ちょっと受け付けられないんスよね……なんか臭くて』


 

 「テメー ぶっ殺すぞ?」

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