第188話 魔の森③

 リディーナ達がエルフ国『エタリシオン』へ向かった後、レイ達はその場で野営の準備をはじめた。リディーナがシャルとソフィを送った後に、戻ってくるのはこの地点だ。地球のように個人が携帯できるような通信機器がないこの世界では、待ち合わせをするのも簡単ではない。時計が無いので時間もアバウトになるし、場所も固定しておかなければならない。携帯電話を持って、お互いに探し合うことなど出来ないのだ。


 レイ達は、リディーナが帰って来るまで、この場所から動くことは出来ない。



 「ちっ、やはり魔物が近寄って来なかったのはブランのおかげだったか?」


 レイの探知魔法に複数の動体反応が感知される。三つの大きな反応が、真っ直ぐ野営場所まで急速に接近してきた。


 (速いな……。それに、空を飛んでるのか?)


 三つの反応は、立体的な動きをしながら向かって来る。レイが今まで遭遇したことのないパターンだ。


 「イヴ、二人を頼む」


 「了解です」


 イヴは短剣を抜いて、アンジェリカとクレアの前に出る。レイの向いている方へ視線を向け、接敵に備える。


 クワァァァアアア


 レイとイヴ、アンジェリカとクレアの前に現れたのは、鷲の翼と上半身、下半身が肉食獣の魔獣、『鷲獅子グリフォン』だった。


 「お、大きい……」


 イヴが小さく呟く。


 レイは、探知魔法で大きさの把握は出来ていたが、その魔獣を見るのは全員が初めてだ。


 (一角獣ユニコーンに続いて、鷲獅子グリフォンか……。地球の神話に出てくるイメージそのままだが、ギルドの資料には詳細な情報は無かったな……)


 一頭は地面に接し、残り二頭は翼を羽ばたかせ宙に浮いている。飛竜ワイバーンと同じく、馬より大きな巨体でどう飛んでいるか疑問に思ったレイだったが、三頭の鷲獅子は、レイ達に目もくれずにそれぞれが繋いでいた馬を鷲掴みにして飛び上がった。


 「「なっ!」」


 てっきり、レイ達に襲い掛かって来ると思って構えていたので、反応が遅れたレイ。慌てて、風の魔法『風刃』を複数放つが、鷲獅子に当たる直前でその真空の刃が消え去った。


 「なにっ!」


 三頭の鷲獅子は、それぞれ一頭づつ馬を前足で掴んだまま、森の奥へと飛び去って行った。


 「う、馬が……」


 アンジェリカが呟く。


 「……」


 レイは、馬を無くして困ることより、魔物に対して魔法が効かなかったことに驚きを隠せない。今まで、魔導具や結界などで魔法を防がれたことはあったが、生身の魔獣相手には初めてだ。それに、どういうことか理由の見当がつかなかった。


 「レイ様、あれはどういうことでしょうか……?」


 「わからん。魔法が効かなかった魔物は初めてだ」


 

 『鷲獅子は、風の属性持ちでありんす』



 「「「ッ!」」」


 レイの腰にあった黒刀から声が上がる。『魔刃メルギド』もとい『黒源龍クヅリ』だ。


 「剣がしゃべった!」


レイは、驚くアンジェリカを無視してクヅリを問い詰める。


 「お前、今まで散々無視して急にどう言うつもりだ?」


 クヅリは、聖女クレアを救出後、レイが何度呼びかけても応えることなく沈黙したままだった。レイはクヅリに、大聖堂に現れた『悪魔』のことや、自身を闇属性だと言ったことなど、聞きたい事が山程あった。


 『魔石に蓄えられた魔力が無くなりんした ので 、休眠していんした 。ここは魔素が豊富なんで 回復できていんす 』


 「休眠?」


 『レイさんからの供給が無くなってしまいんしたので……』


 (そう言えば、コイツには魔力を流すということはしてきて無かったな……。ゲンマの爺さんからは魔力が通らないって聞いてたし、闇属性の魔力しか通せないとはこの間知ったばかりだ)


 「そう言うのは早く言え」


 『言う前に、搾り取られてしまいんしたので』


 「……」


 (聖女の治療のことを言ってんのか? 刀相手に何言ってんだとも思うが、もう少しコミュニケーションを取らないと色々拙い気がしてきたな……)


 「と、とりあえず、今は話せるんだな? 先に聞くが、あの魔獣は何だ? 何故、魔法が効かなかった?」


 『魔石が核となってる生物の中には、属性に特化した者がいんす 。さっきの鷲獅子は、風の属性特化でありんす。 なんで 、風魔法は通用しんせん』


 「魔石……。属性特化? 『龍』の様にか?」


 『そうでありんす』


 「なら、逆に相反する属性なら通用するのか?」


 『はい。でありんすが、同じ属性でも放出する力が大きければ、無力化はできんせんよ』


 (なるほど。さっきの鷲獅子の場合だと、土属性が最も有効で、風属性でダメージを与えるのは、その得意な属性を突破する魔力が必要ってことか。確かに前に倒した『炎古龍』に、炎の魔法を放っても効かなそうだ。鷲獅子みたいに、普通の獣は見た目だと、属性のイメージが分からないから厄介だな……)



 「クヅリ、今日はお前にたっぷり聞きたいことがある」


 『それはいいでありんすが、お客さんでありんすよ ?』


 クヅリが言うと同時に、レイの探知魔法に、動体反応が感知される。



 「くそっ、これが『魔の森』か……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る