第180話 ラーク王国③

 ―『城 直樹ジョウナオキ』―


 召喚された『勇者』の一人である城直樹は、『探索組』とは別に、単独でこの世界を生きてきた。クラスメイト達からの印象は「不良」。硬派なイメージの川崎亜土夢と違い、髪を金髪に染め、軟派でチャラチャラしたイメージを持たれた男だった。だが、川崎も含めて、高い偏差値を誇る高校に、一般入試で入学した者達は、全員が頭が良かった。しかし、勉強が出来ることと、頭が切れると評される者では、同じ学力でも頭の良さの質が違う、そう思わされる男だった。


 城直樹は、この世界に召喚され、チート能力を得てはしゃぐクラスメイト達を尻目に、自分の能力を隠して、たった一人でこの世界に飛び出した。『探索組』と同様、オブライオン王国でC等級の冒険者になってから、単独で他国へ渡り、僅か数か月でA等級まで上り詰めた。城直樹は、『王都組』のように国を治めたり、『探索組』のように日本へ帰ることに興味は無かった。


 ただ、人生を楽しむこと。それだけが城直樹の行動理念だった。それが日本だろうと、異世界だろうと関係なかったが、こちらの世界の方が制約も無く、チートや魔法のおかげで自由にできた。日本に還れば、チートや魔法が使えないかもしれない、そういった懸念がクラスメイト達からあがった時に、城直樹はこの世界に留まることを選択した。またあのつまらない日常に戻るなんて考えられなかった。



 エルヴィンが帰った後の高級宿の一室で、城直樹は一枚の依頼書を見ながらほくそ笑む。


 「あのおデブちゃん、いつ破滅するかと楽しみにしてきたけど、中々面白い案件を持ってきたな~」


 城直樹は、チラリとベッドにいる裸の奴隷三人を見る。


 「奴隷の首輪だって万能じゃないんだよねー。しかも侯爵の暗殺話だよ? 他に漏れたら大変だと思わない?」


 「い、言いません!」

 「誰にも話しません!」

 「お、お願いします……」


 涙目で城直樹に訴える女達。それを無視して城直樹は、無言でベッドに近づく。


 「いやっ! 助けて!」

 「命だけは……」

 「何でもします!何でもします!何でもします!」


 「おっ! いいね~ その「何でもします!」ってフレーズ! 気に入ったよ。キミはキープしておこう」


 「「えっ?」」


 …

 ……

 ………


 「さて、久しぶりにパーティーを集めるか……。あいつらちゃんとこの街にいるだろうな?」


 二つの死体の側で、城直樹は窓から眼下の街を見る。ベッドには泣きながら震える一人の女奴隷。


 「服を着ろ。これからギルドに行く。……まったく、スマホがあれば態々動かなくて済むのにな。連絡手段の無さだけが、この世界の不満なとこだよなぁ~」


 何を言ってるか、あまり理解できずに困惑した女奴隷だったが、主人の気分を害することを恐れ、慌てて服を着る。城直樹はその間に二つの死体を自分の魔法の鞄マジックバッグに入れる。


 「これももうすぐになりそうだな~ 後でどっかに捨てに行かなきゃだな……」


 …


 ラーク王国、王都フィリスにある冒険者ギルド「フィリス支部」。近年の好景気により、増改築がなされ、王都でも比較的大きな建物と敷地を有している。その大きな建物の中に、城直樹は、女奴隷を引き連れて入っていく。


 入ってすぐの大ホールには、百人以上の冒険者達で混雑していた。城直樹は、空いているカウンターの受付嬢に声を掛け、自身のパーティー宛に、待ち合わせの連絡を頼んだ。依頼とは別に、冒険者ギルドでは冒険者同士の連絡用に、掲示板が利用される。掲示板に知らせる内容を掲出し、連絡に使用するのだ。待ち合わせの連絡や伝言、仲間募集など、冒険者なら誰でも利用できるシステムだ。なので、何も用事が無くても、日に一回はギルドに顔を出すのが冒険者には当たり前のことだった。


 「じゃ、その内容でお願いするよ」


 城直樹は、仲間への伝言内容を受付嬢に代筆してもらう。基本は無料で利用できる掲示板だが、城は、お礼にと金貨一枚を受付嬢にそっと渡す。


 「ッ♪」


 満面の笑みで、金貨を懐に仕舞う受付嬢。城直樹は、こういった些細なことにもケチらず、横柄な態度も取ることはしない。特に受付嬢などは、冒険者として出世するのに、印象良くしておくに越したことは無いからだ。有益な情報や、融通など、コネを作っておくことは有利になる。だが逆に、嫌われるようなことになれば、最悪命を失う事態にもなり兼ねない。インターネットですぐに情報を集められ、性善説が前提で皆が行動する日本とは違うのだ。


 それに、召喚されたクラスメイト全員がそうだったが、城直樹も会話はできるが、文字の読み書きが出来なかった。いくら頭が良くても、他言語の習得は容易ではない。それに、なまじ会話が出来てしまうので、どうしても優先順位は低くなってしまうのだ。


 (まあ、必要な時は代筆も頼めるし、仲間にやらせればいいんだけどな……)


 城直樹は、ざっとホール内を見渡し、仲間のパーティーメンバーがいないか確認し、いないと分かるとそのままギルドを後にした。

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