第178話 ラーク王国①
ラーク王国、国境検問所の手前付近の、ある集落に数台の馬車が訪れていた。
「ちょっと、派手にやり過ぎじゃねーのかい?」
見るからに成金のような派手な格好をし、肥えて厚化粧の中年女が、野盗団の頭領、ベックに苦言を言う。その背後では、若い女や子供達が、首輪を嵌められて、格子付きの馬車に次々に乗せられていた。
「ジルトロでヘマしたヤツが出たんだろ? コイツらを売ったら、ほとぼりが冷めるまで暫く様子見するつもりだ」
「相変わらず、情報が早いじゃないか。確かにマネーベルでピアーズが捕まったらしい。こっちも商売上がったりだよ。悪いけど、今はあんまり値が付けられないよ?」
「は? ふざけんな!」
「仕方無いさ、ピアーズは顧客リストまでゲロしたらしくてね。違法奴隷を仕入れても買い手がいないんだよ。寧ろ、買い手がいないのにアンタから買い取るんだ。感謝してもらいたいくらいだよ?」
「……ちっ」
「ただ、エルフか獣人の若い女がいれば、言い値で買うって客がいるんだけど、今日はいないみたいだねぇ……」
「前回のエルフのガキは偶々だ。もう一度、あの辺りを探ってみてぇが、森が騒がしい。今は魔物が多いから、そっちももう暫くしてからだな。それよりアマンダ、今日はゆっくりできんだろ?」
アマンダと呼ばれた中年女は、ベックの言葉に頬を上気させて頷く。ベックはアマンダの肩を抱いて、自分の寝ぐらの建物に入って行った。
「
「おい、新入り、長生きしたきゃスルーしとけ。頭は、ああいうのが好みなんだよ……。バカにしてっと頭潰されるぞ?」
「ひえぇ~ 道理で捕まえた女に手ぇ出さない訳っすねぇ~」
「頭はサイズがサイズだからな。普通の女だとすぐに壊れちまうんだよ。それにあのバ……、いや奴隷商人の女は、かなりのやり手だ。俺達がこうして所帯がデカくなったのも、あの女のおかげでもある。くれぐれも丁重に接しろ。わかったな?」
「へ~い」
先輩らしき獣人の野盗に、若い人間の野盗が返事をする。獣人と人間の混成野盗団は、ラーク王国の違法奴隷商人と密な関係を構築して、規模を大きくして生き残ってきた。拠点としているこの集落には、王国の衛兵も来ない。国境の衛兵に賄賂を渡し、融通と情報を得ているのもあの女奴隷商だった。
「しかし、ジルトロ側へ偵察に行ったヤツラがまだ帰ってこねーな」
「マネーベルで遊んでんじゃねーっすか?」
「……」
新人の発言に、そんなことをすれば、すぐに匂いでバレて、頭に殺される。そう思った先輩獣人だったが、新入りの人間が死んでも関係ないかと、無視してその場を離れた。
…
……
………
「アマンダ様、こんなに奴隷を仕入れて良かったんですか?」
「んー? 処女の女達は娼館に売る。たしか、初物が欲しいって注文があったろ?」
「確かにそうですが、ガキ共は売れませんよ?」
「そっちは
アマンダは、昨夜の余韻に浸りながら、側近の男に心配ないと伝える。アマンダは自身の持つコネクションを部下それぞれに分散して伝えている。目の前の部下には、ベック率いる野盗団との繋がり以外には大した情報は伝えていない。女だてらに長年裏社会で生き抜いてきたアマンダは、誰も信用してはいなかった。
(フフフ…… ピアーズが潰れたなら、好都合だ。あの坊ちゃんの市場はアタシが貰ってやろうかね~)
…
……
………
―『ラーク王国 王都』―
「それで? 兄上の見込みは?」
ラーク王国の王都内にある屋敷の一室で、金髪緑眼の若い男が、初老の執事に尋ねた。
「はい、国内の回復術士や薬師に至るまで、方々に手を尽くしましたが、未だ回復の見込みは立っておりません」
「そうか、ご苦労だった。下がっていい」
執事を部屋から退室させた男は、笑いを堪え切れなかった。執事の前では平静を装ってはいたものの、家督を継ぐはずだった兄が、再起不能の大怪我を負い、次期当主の座は自分に舞い込むことが確実になったからだ。
「クックックッ。どこの誰がやってくれたかは知らんが、感謝せねばな。いっそ殺してくれた方が良かったんだが、まあいい」
コンコン
「入れ」
ノック音の後に、メイドがドアを開ける。
「失礼します。エルヴィン様、旦那様がお呼びです」
「父上が? 分かった、すぐ行く」
エルヴィンと呼ばれた若い貴族の男は、ニヤついた表情を取り繕いながら、席を立った。
エルヴィン・ハルフォード。ラーク王国、ハルフォード侯爵家の次男であり、A等級冒険者、スヴェン・ハルフォードの弟である。
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