第140話 突撃

 全裸の赤毛の女を餌に、偽者を殺せと神殿騎士達にけしかける白金の騎士。全員ではないものの、それに興奮して雄叫びを上げる神殿騎士達。奥に佇む少女は笑顔でそれを黙って見ていた。


 「まるで野盗だな……」


 「酷いわね」


 「あ、あれはアンジェリカ様? そんな……。し、信じられません……。こ、こんな行い……。あの神殿騎士達が……」


 「イヴ、あの女を知ってるの?」


 「アンジェリカ・ローズ様です。……代々『聖女』様の護衛を務める名家の騎士様です。どうしてあんな……」


 姿は見えないが、イヴの困惑が伝わる。イヴでなくても目を疑う光景だ。あれが教会の騎士? 冗談だろ? それに、自分の護衛があんな姿で晒されて笑顔でいる少女、あれが『聖女』なんだろうが……。


 (気に入らないな……)


 「もう、全員殺しちゃっていいんじゃないかしら?」


 「「……」」


 だがどうするか……。邪魔な騎士達は、魔法でまとめて始末してもいいが、多少はまともそうな奴もいるみたいだ。少なからずこの行為を良しとしない連中は、なるべく生かしておきたい……保険として。まあ結構な人数を斬っちまったから今更だが、皆殺しにした後で、やっぱ女神は味方でしたってパターンだった場合、気不味いからな……。


 理想は『聖女』だけ拉致して話が出来ればと思っていたが、あの様子じゃ、ちゃんと話ができるかも怪しい。この状況を容認してるなんて、とてもまともな女とは思えない。聖女が聞いて呆れる。


 「レイ様……。アンジェリカ様だけでもお救い出来ないでしょうか?」


 「知人か?」


 「いえ、そういう訳ではないのですが、ローズ家は代々『聖女』様にお仕えする騎士を排出している一門です。お救い出来れば教会全体を敵に回すことは回避できるかもしれません」


 「そんなに影響力がある女なのか……」


 「それって『聖女』よりも? 同じ女としてあれは放っておきたくないけど、聖女と敵対したら、その家も敵になるんじゃない?」


 「「ローズ家」は高潔で知られる一族です。私の知る限り、不正や汚職の影も無く、粛清の対象に挙がったことは過去に無かったはずです。アンジェリカ様が、あのような仕打ちを受けるなんて、信じられません。何かまともでは無い理由があるかもしれません」


 「まあ、とりあえずはあの白金の騎士だ。あれが『勇者』の一人、伊集院力也ならヤツが何かしてるのは間違いないだろうな。どうやって俺の名前を知り得たのかも気になる。女神から聞いたのなら、女神は俺にとって敵確定だ。逆にそれ以外なら…… 」


 (俺の存在を勇者達に流してるヤツが、女神以外にいるってことだ。……あまり考えたくないがな)


 「「……」」


 「ねえ、レイ、あれちょっと死んじゃうんじゃない?」


 赤毛の女をよく見ると、小刻みに痙攣し、顔が真っ青だ。猿轡も血で赤く染まっている。だが周囲の騎士達はそれに気にする様子も無い。女の裸体を舐めるような視線で見ているだけだ。


 「窒息か?」


 「レイ様っ」


 「はぁ…… 仕方ない。俺が魔法を放ったら突撃する。合図したら下に降りるぞ。近づいてくるヤツ、魔法を放とうとするヤツは殺していい。外にも騎士達が大勢いることを忘れるな。あの白金の騎士と聖女は捕縛、あの裸の女もついでに連れてく。確保したら場所を変えるぞ。魔力はなるべく温存して、いつでも『飛翔』ができるよう余裕を持っておけ」


 「捕縛ってどうするつもり?」


 「これを使う」


 レイは自分の魔法の鞄マジックバッグから手錠を二つ取り出して見せる。


 「それって……」


 「魔封の手錠だ。メルギドのマルクにこっそり貰った」


 「呆れた。いつの間に?」


 「まあ、ちょっとな……。とりあえず行くぞ。準備はいいか?」


 「大丈夫よ」


 「私もいつでも行けます」


 「二人は姿が見えないからな。リディーナは俺の右、イヴは左だ。後ろは任せたぞ?」


 「「了解!」」



 (あー、やだやだ……。作戦もクソも無い、こんな行き当たりばったりな突撃とか……。このファンタジーな刀と魔法が無きゃ絶対やらないぞ……)


 レイは、黒刀を抜いて、魔力を練る。



 ―『水球』―


 フロアにいる騎士はおよそ三百人。レイは、無言で放った巨大な水球を礼拝堂のフロア中央に落とした。


 「「「「「「――ッ!!!」」」」」」


 ―『雷撃』―


 「「「「「「あがががががががが」」」」」」


 突然、大量の水を浴びた直後に、眩い光がフロア中央に落ちた。水を浴びた騎士達が感電し、体中から煙を上げて百人以上の騎士がその場に倒れる。


 「よし、行くぞっ!」


  レイは、身体強化のギアを上げてフロア中央に飛び降りた。自身に光学迷彩を施さなかったのは、二人に対する目印になる為で、全員が透明になったら同士討ちの危険があるからだ。


 フロアに降り立ったレイに、白金の騎士が慌てて叫ぶ。


 「ッ! オ、オメーラ、そいつだっ! そいつが偽者野郎だっ! 殺せっ!」


 レイは、近寄る神殿騎士を無視して、白金の騎士に向かって一直線に『雷撃』を放つ。話を聞きだす為に、殺さないよう威力を抑えた電撃だ。


 「何っ?」


 レイの電撃は、白金の騎士から十メートルほどの距離で、その紫電が霧散する。


 「バカがっ! 魔法なんぞ効くかっ! オメーら、早く囲めっ!」


 (また魔導具か……)


 レイは目の前に迫った神殿騎士を、黒刀の一閃でその胴体を斬り裂く。宿で相対した騎士達と同様、レイの黒刀にとって、神殿騎士達の剣や鎧は紙同然の強度でしかなく、その刀を受けることも出来ずに騎士達が両断される。


 「ア゛ッ」


 「カハッ」


 「ギャッ」


 襲い掛かる騎士達を一刀の元に次々と斬り捨て、白金の騎士に向かって前に進んでいくレイ。


 その後方では、透明化したリディーナとイヴが、レイの後ろから接近する騎士に気付かれることなく、その首を刎ねていた。


 ((このコウガクメイサイって魔法、凄すぎ……))

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