第128話 新装備
レイ達は、場所を迎賓館に移し、新しい装備の確認を行っていた。
ユマ婆が持ってきた、三人共通の
(この認識阻害の機能は凄いな……。あのリディーナの顔が全然目立たない)
外套を羽織り、フードを被ったリディーナを見てレイは思う。どう表現したらいいか言葉が見つからないが、顔の特徴が捉えられないのだ。耳の一部を変えたリディーナの偽装魔法とは違い、印象の残らない効果があるようだ。
その他にも『炎古龍バルガン』の素材をふんだんに使った衣服を、何着も確認していくレイ達。リディーナとイヴの服は、相変わらず露出が多いモノばかりだったが、外套を羽織れば、まあ何とか許容できる範囲だった。
「ウフフッ どう? レイ、似合うかしら?」
「ああ、綺麗だ」
自然と出た言葉だったが、リディーナのスタイルを強調するタイトなデザインと、決して目立つ色ではなかったが、華やかな印象の姿に、思わず見とれて呟いてしまった。
「わ、私はどうでしょうか……」
イヴが恥ずかしそうにレイに自分の姿を見せる。ミニスカートと胸を強調したデザインのリディーナに対して、イヴはローライズのホットパンツにノースリーブのトップスだ。出会った時に着ていたスーツも良かったが、こういった快活な格好も、イヴに良く似合っていた。
「いいと思うぞ。かわいいじゃないか」
レイに褒められ、二人して頬を染めながら身を捩っている。
その後もファッションショーのように、二人のコーディネートを見せられた。女性を褒めるのは苦ではないが、露出の多い服が多く、一抹の不安もよぎる。
(しかし、こんなんで戦闘なんかできんのか……?)
地球の常識では、素肌の部分は無防備が当たり前だが、どうやら衣服から発せられる魔法力? のようなもので、周囲が守られているのを感じる。物理的な攻撃には無力でも、炎など外的影響は受け難い仕様のようだ。
(ホント、ファンタジーだな……)
俺の服は、ユマ婆に注文していたとおり、野戦服ベースだ。無論、迷彩柄ではなく、外套に合わせた濃紺一色だ。四六時中、森にいるならともかく、迷彩柄など街中では目立って仕方ない。他にも何着か、リディーナが俺用にと頼んでいた普段着などがあったが、中々どうして、地球でも街を歩けそうなオシャレなデザインだった。
(うん。こういったシンプルなのが一番いいな)
本気で剣を振るなら、袴などのゆったりした服装の方が、足運びを読まれ難いのだが、流石にそんなもの履いている者など見たことがないので、かなり目立つだろう。リディーナのセンスを褒めつつ、自分の注文した物を確認する。
「それと、レイ殿に頼まれていた鎧だ。確認してくれ」
大柄なガルド・アマ・メルギドが一着の鎧を持ってくる。
俺が頼んだのは、「プレートキャリア」と呼ばれる、本来は防弾プレートを胴体の前後に入れたタクティカルベストだ。現代のボディーアーマーの一種だが、身体を守る部分が最小限の代わりに、小型軽量で機動力が損なわれない。プレートには
通常は、銃の弾倉を仕舞う為のベスト前面のポケットには、投げナイフとしても使える短剣が、四本取り付けてある。短剣も
「しかし、こんなに防御面積が少なくて、本当にいいのか?」
「問題ない。全身鎧のように、硬い素材を多く使えば動きが制限されるし、音も出る。爺さん達の技術である程度解消されるかもしれないが、俺には向かない。それにこれの利点はプレートが外せる点だ」
「「「?」」」
「金属鎧を着けたまま、水には入れないだろ? これなら全部脱がなくても水の中に潜れるし、万一落下しても、すぐにプレートを外せば溺れずに済む。……まあそんな事態にはならないことを願いたいがな」
「そうねー、いくら
「普通、そんなこと考えるヤツぁいねーぞ……」
結構これがバカにできない。海や深い河に落下して溺れる事故は普通に起こる。現代兵士の装備は脱着が容易になってるとは言え、フル装備で水に落ちれば、あっという間に底に沈むからだ。全身鎧なんぞで落ちれば、脱げずに溺れ死ぬのは間違いない。
普通に考えれば、そんな万一のことより、地上で防御力を高めることを優先するべきだが、『龍』の素材のおかげで金属素材の使用は最小限で済むので、こうした装備の注文にしたのだ。まあ、前世で使い慣れてる装備というのも少なからずあるが……。
リディーナとイヴの防具は、純度の高い
純度の高い魔銀も魔金と同様に染料が付着しない特性があり、光り輝く無垢の銀色がかなり目立つが、こればかりはどうにもならなった。
「まるで
俺が気になったのは、リディーナとイヴに用意された、
「これ、何で出来てんだ? (まさかガラスじゃないだろうな?)」
「フッフッフッ。それはじゃな、『炎古龍バルガン』の角じゃよ。我が一門、秘伝の製法でな、削り出して磨いたものじゃが、普通はそこまで加工できん。それに、角は一体で二本一対しかない。とても貴重な部位で、国宝もんじゃぞ?」
「どうして私たちの剣と同じ形なの?」
「二人がゲンマから譲られた魔法剣と、その龍角剣を、相手に応じて使い分けられるようにじゃ。普通は、二本の別々の剣を使い分けるなんてせん。勝手も変わって来るし、意味もあまりない。しかしじゃ、その二つの剣は形も重さも同じにしてある。使い勝手は全く変わらんはずじゃ。魔法剣の方は、魔法を併用するには適した剣じゃが、龍角剣は、その点だけが劣る。切れ味や硬さは魔金以上じゃがの。相手が
リディーナとイヴは、龍角剣と言われたその透明な剣をそれぞれ物珍しそうに確認している。
「いいな……それ。俺もそれで刀を作って……」
『ダメでありんす』
「くっ……」
これである。俺が、ニコラにコイツの代わりの刀を注文したところ、この『魔刃メルギド』もとい、『黒源龍クヅリ』の大反対にあったのだ。他の刀に浮気すれば、肉体の封印解除には協力しないとダダをこねられた。こっちも負けじと亜空間に捨てると脅したが、コイツがいないと封印が解けずに一年で死ぬことになるので、足元を見られてしまった。鋼以上の硬度と斬れ味のある剣は、剣士なら一度は夢想する理想の剣だ。間合いが掴み難い透明の剣など、考えただけでも恐ろしい。
正直、『黒源龍クヅリ』との関係は良好に保たなければ、『黒のシリーズ』が揃った途端に裏切られる可能性もあるので、悩ましいところだ。
『レイには わっちがいるでありんしょう?』
いつの間にか、「レイさん」から「レイ」と呼び捨てになっている。あまり調子に乗られるのもムカつくので、なんとかしないといけない……。
「「「「「……」」」」」
腰の刀と会話するシュールな光景。俺に向けられる全員の視線が痛い。
(……リディーナ、イヴ、そんな目で見ないでくれ)
「オホンッ、レイ殿、頼まれていた例のモノだが、用意したのでこちらも確認してくれんか」
クヅリとのやり取りをスルーし、マルクがいくつか木箱を持ってきた。
この刀がしゃべった時に、代表達はこぞって調べさせてくれと懇願してきたが、クヅリは拒否した。俺以外が手にして調べようとすれば、命を吸うと脅したのだ。『黒のシリーズ』の負の効果を知る代表達は、その言葉にそれ以上言って来ることは無かった。だが、やはり職人として気になるらしく、スルーしながらもチラチラ視線がクヅリに向く。
(用が済んだら、コイツはこの街に捨てに来よう)
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