第124話 作り直し
翌日。
ユマ婆とカインは、レイの姿を見て絶句していた。
「「な、なんで身長が……?」」
「……成長期だ。気にするな」
「「や、やり直し……。いや、無理じゃ(だ)」」
ユマ婆とカインが両膝を付き、項垂れる。レイの身長が急に伸びていたことで、『闇の衣』と『黒の杖』を含む、服や装備の仕立て直しを余儀なくされたのだ。おまけに『闇の衣』とカインに頼んだ『黒の杖』は、レイの体格に合わせて縮小化してしまった。削ったモノを元に戻せと言われても無理に決まっている。
レイがチラリと石像を見ると、『闇の衣』が以前のレイの体格に合わせた丈で仕上がっていた。
「あの素材を仕立てるのにどれだけ大変だったか……」
ユマ婆が床を見つめながらブツブツ呟き、カインは立ち尽くして呆然と天井を見つめている。
(裸体像を複製したり、色々食えない婆さんだが、可哀そうになってきたな……)
「ば、婆さんに頼んだ物はともかく、「杖」は別に大丈夫だろ? 小さくしてくれていいんだから……」
「何を仰ってるんですかっ! 我々職人を舐めてるんですか? 体格に合わせた完っ璧なサイズに仕上げるのに、どんだけ魂込めてると思ってるんですかっ!」
「すみません」
「「……」」
真摯に頭を下げるレイに対して、リディーナとイヴは終始真顔だ。理由は二人の石像にあてられた服なのだが、……露出が多すぎるのだ。
リディーナの像には、ミニ丈のプリーツスカートに谷間と胸を強調した布面積の少ないトップス。イヴの像には、ローライズ過ぎて、尻が半分出てるようなパンツに、背中が丸空きのアメリカンスリーブのトップスがそれぞれ着せられている。
「ちょっと、何よコレ! なんでこんなに布が少ないのよっ!」
「こ、こんなの着れませんっ!」
「あー? ウチの店で下着を持ってったんじゃなかったのかい? どれ着ても合うように作ったんさね。文句あるのかい? それに、限りある素材で何着も作ったんだ。節約さね。なに、きっちりどれも『龍』の皮も使ってるし、魔法の効果も付与してあるから、そんじょそこらの鎧なんか目じゃない防御力があるさね。心配いらないよ」
不貞腐れたようにユマ婆が二人に吐き捨てる。
「はぁ……。レイ殿の服も作り直しさね」
そう言いつつ、レイの身体をまさぐるユマ婆。
(果たして、股間を触るのは本当に必要なのか?)
頬をひく付かせながら、されるがままのレイ。服を作り直させる後ろめたさか、文句は言わない。
『……その二つなら、わっち が直せんす けど?』
「「「「「は?」」」」」
レイの腰にある黒刀、『魔刃メルギド』から『黒源龍クヅリ』が声を発する。
「「刀が喋ったっ!」」
手で顔を覆い、天を仰ぐレイ。ユマ婆とカインが揃って目を見開く。
『アレもわっち の一部なんで 形を変えるぐらい簡単でありんすぇ』
『レイさんに合わせればいいのでありんしょう?』
「「「「「……」」」」」
『魔刃メルギド』、もとい『黒源龍クヅリ』は、そう言うと、レイの石像にあった『闇の衣』と『黒の杖』のサイズを変える。
呆気に取られるユマ婆とカイン。二つの武具とレイの腰にある黒刀を交互に何度も視線を送り、困惑を隠しきれない。
レイは、何事も無かったように、『魔刃メルギド』、『闇の衣』、『黒の杖』を魔法の鞄にさりげなく仕舞う。
「リディーナ、イブ、俺はマルクとちょっと話を詰めて来るから、昼にまたここで合流しよう。午後は森で鍛錬するからな。……それと、もう捕まるなよ?」
「もう! 次は大丈夫よ! 今度はちゃんと始末するから!」
「それでいい。イヴも遠慮するんじゃないぞ。後始末は俺がやるから遠慮しなくていいからな」
「はいっ!」
「「ちょっと! 待てぇぇぇ!」」
レイはユマ婆とカインを無視して、迎賓館を後にする。
昨夜リディーナと話したレイは、朝起きたイヴと話をした。憔悴した顔をしたイヴに、レイは今後も一緒にいていい旨を伝え、昨夜の発言を撤回した。その上で、イヴの気持ちを確認したレイは、リディーナとイヴに、今後は邪魔する奴は容赦しないでいいと、自分の考えを伝えた。今まで目立つ行為を避けていたレイだが、この世界じゃ自らの力を誇示することも、身を守ることに繋がると考えを改めたのだ。
イヴは涙して喜んだが、レイが今まで以上に鍛錬を厳しくすると伝えると、リディーナと共に顔から表情が消えた。
(今までそんなに厳しくしたつもりは無かったんだがな……)
レイは、マルクのいる地下施設に向かいながら、朝の会話を思い出し、午後に行う予定の鍛錬メニューを考えていた。
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