第123話 決意

 「風邪引くぞ、リディーナ」


 「レイ……」


 森から戻り、迎賓館のバルコニーに降り立ったレイは、バルコニーでレイの帰りを待っていたリディーナに、静かに話しかける。


 「寝てなかったのか?」


 「(レイがいないのに先に寝られるわけないじゃない……)」


 「何だ?」


 「何でもないわ……。それより、レイ、イヴのことだけど、本気なの?」


 「イヴはまだ子供だぞ? これ以上巻き込めるか」


 「あら? 人間で十八歳ってもう大人なんじゃないの?」


 「それ、ホントに信じてんのか?」


 「え?」


 「はぁー……。マジかよリディーナ……。大人っぽく見えるが、イヴは恐らくまだ十代半ばだぞ? 十八歳ってのは嘘に決まってんだろ……。気づいて無かったのか?」


 「う、うそでしょ?」


 額を抑えて、ため息を付くレイ。


 前世でのバー経営では、未成年の見極めは厳しく行っていた。アルバイトの応募から、来店する客まで、男女問わず、年齢には敏感にならざるを得なかった。万一、未成年を深夜に従事させたり、未成年の客に酒を飲ませたりして何かあれば、警察に目を付けられるからだ。都会の繁華街では、年を偽る人間は後を絶たず、トラブルも多い。


 それに、鍛錬で手合わせすれば嫌でも分かる。いくら幼い頃から鍛えていようが、未成熟の子供の身体は、柔らか過ぎるのだ。筋肉の質というべきか、見た目で判断できなくても、やり合えば大人か子供ぐらい、レイにはすぐに判別できる。


 「大人ぶってはいるがな……。間違いないだろう。まあ、俺も気づいたのは稽古をつけていた時だが……って、なんだその顔は」


 リディーナがジト目でレイを見る。


 「なんでそんなに女の子の年齢なんて詳しい訳? しかも、稽古で? まさか触って分かったとか? ひょっとしてレイって若い子が好き……「おい」」


 「前世でバー……飲み屋を経営してたと話しただろ。俺がいた国じゃ、未成年に関する法律が厳しいんだ。特に女の未成年者を見極められないと、色々大変なんだよ(下手すればニュースになるしな)……。それに、成人と未成年じゃ筋肉の質が違う。体術の稽古中に気付くのは当たり前だ。あと、誤解無いように言っとくぞ、俺はロリコンじゃない!」


 「ろ、ろり?」


 「なんでもない。忘れろ」


 「……あやしい」


 「……」


 「とにかく、「教会」が敵になるかもしれないんだ。子供を巻き込めるかよ」



 「……じゃあ、その子供を見捨てるの?」


 急に真剣な眼差しでレイを見つめるリディーナ。


 「なんだと?」


 「イヴは孤児よ。身寄りはいないの。育ての親ともいえる教会には捨てられて……、虐待までされてたのよ? 冒険者ギルドにも『魔眼』を利用されて道具扱い、……帰る場所なんて無いのよ?」


 「虐待? ……道具だと?」


 「イヴの背中には鞭で打たれた傷があるわ。古い物から新しいものまで、……無数に。それに「S」認定されるような人間を鑑定するのに、あんなクズを護衛に着けるなんてあり得ないわよ。まるで一緒に殺されてもいいみたいじゃない。レイじゃなかったら、あの時イヴも一緒に皆殺しにされててもおかしくないのよ?」


 迂闊。気づけたはず。リディーナに今言われるまで、イヴをまともに見ていなかったのは俺の方だと気づかされた。それに、結果的に倒しきれていなかったとは言え、吉岡莉奈に、イヴが山本ジェシカを倒したところを見られている。ここで遠ざけるなら、確かに見捨てると言われても仕方ないことだ。


 「……イヴはどこだ」


 「今は泣き疲れて寝てるわ。それに、傷のことは自分で話すまで待ってくれって、あの子にお願いされたから、イヴに言われるまで治してあげるのは待ってあげて。……レイ、お願い。あの子を置いて行かないで」


 レイはリディーナから目を逸らし、眼下に広がる夜景を見て、大きく息を吸う。


 「……勇者以外に始末するやつが増えたな」


 「レイ! それじゃ……」


 「ごちゃごちゃ考えるのはもうやめだ。俺がもっと強くなって、邪魔するヤツを殺せば済むことだった。勇者だろうが教会だろうが、まとめて相手してやる」


 「レイッ!」


 後ろから飛びつくように、レイに抱き着くリディーナ。


 「リディーナ、これからもう少し厳しく鍛えるぞ。イヴにもそう言っておけ」


 「えっ?」


 「それと、講義の時間も増やす」


 「うそ~~~~~」

 



 そう、邪魔する奴は殺す。

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