第115話 魔操兵

 リディーナの魔法の鞄マジックバッグから、『炎古龍バルガン』を討伐した際に手に入れた財宝が取り出される。魔銀ミスリル魔金オリハルコンの塊や魔石、宝石類、それに大量の金貨の中から、マルクが必要量を取っていく。


 「ちょ、ちょっと、そんなに持ってくの?」


 「リディーナ殿、これは必要な量ですじゃ。(フフフ……。これでイケるぞい!)」


 血走った目をしながら次々と鉱石を選別し、金貨を取っていくマルクと、それを見て引き攣った顔をしているリディーナ。バルメとゼンは、大量の財宝に目を丸くして驚いている。


 「爺さん、あの『魔操兵ゴーレム』、乗ってみたいんだが……」


 「ん? ああ、バルメ、案内してやりなさい」


 「承知しました。レイ殿、こちらへ。ご案内致します」


 

 鎮座している『魔操兵』にバルメが近づき、腹部の魔法陣に手を触れる。すると、胸部と腹部の装甲が上下に開き、操縦席が現れた。ロボットアニメの様な内部を想像していたレイだったが、椅子があるだけの簡素な造りで拍子抜けする。


 「レイ殿なら大丈夫だとは思いますが、『魔操兵』の操縦には繊細な魔力コントロールが必要です。我らドワーフ族は魔法を扱うのが苦手な者が多く、誰でも操縦できる訳ではありませんが、人間の魔術師程度の能力があれば動かすことは可能です」


 バルメが椅子の手摺りの先端に付いた水晶球、『魔水晶』に手を置き、魔力を流す。すると、『魔操兵』が起動し、操縦席内部の壁が周囲の景色を映し出した。


 (うおっ! めちゃくちゃハイテクじゃないかっ! 全天周モニターとか、マジかよ……)


 モニターに変わる技術として機体を透かして外部の映像を映す装置はロボットアニメでは定番だが、現実でも使われはじめている技術だ。と言っても現実はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)によるAR拡張現実が主流だが、最新鋭の戦闘機や、車の分野では既に実用段階だ。


 「レイ殿、どうぞこちらへ」


 バルメに案内され、操縦席に座り手摺りの魔水晶に手を置く。魔力を軽く込めると『魔操兵』の動かし方が感覚的に伝わってきた。片腕でも問題なく動かせそうだ。


 (おーーー。こりゃ、身体強化と同じだな……。マジか、こんな簡単なのか?)


 普段レイが、身体強化で行う魔力操作と似ている。魔水晶に魔力を通した途端、『魔操兵』が身体の一部になったような感覚になった。目に魔力を集中させて視力を強化するように、体内に巡らす魔力をコントロールして機体を操ることができる。


 レイは軽く手を挙げるイメージで魔力をコントロールし、『魔操兵』の腕を動かしてみる。手を開き、指を動かす。


 (なるほど……。こりゃ凄い。殆どタイムラグが無くダイレクトに反応するな。地球の技術と遜色ない、いや、それより上だ……。でもこれシートベルトとか無いんだな。これで動いて大丈夫なのか?)


 グシャ


 「「「「「あっ……」」」」」


 レイが少し強めに握りこぶしを作ると、『魔操兵』の手が潰れた。指の関節がパワーに耐えきれずに潰れてしまったのだ。


 「……申し訳ない」


 「い、いや、大丈夫ですよ……。ハハッ」


 乾いた笑いで大丈夫と言ってくれたバルメだが、後ろのマルクが追加で金貨を取っていった。


 「こんなに繊細だったとは……。なかなか難しいな。こんなに敏感で、良く剣なんて振れたもんだ」


 「レイ殿の魔力が強過ぎるのかと。我々ではそこまで壊れるほど、パワーは出ません」


 「そうなのか? ……しかし、これじゃあ、結構なストレスだな。まるで卵を掴むつもりで剣を振らなきゃならないのか……」


 「その手摺りの『魔水晶』の調整でなんとかなると思います。本来、一機づつ操縦者に合わせた調整をしますから、レイ殿に合わせた調整を行えば、もう少し操作し易くなるのではと」


 「やっぱりポンコツじゃない……」


 ガッツリ財宝をマルクに取られたリディーナがご立腹だ。


 「あ、あの……。私も乗ってみていいでしょうか?」


 イヴが恐る恐るレイに尋ねる。意外にも興味があるのか、イヴが積極的なのは珍しい。


 「いいんじゃないか? まあ片手は壊しちゃったけど、他は大丈夫だし」


 「どうぞ。構いませんよ?」


 バルメの許可をもらい、イヴが操縦席に座る。


 …

 ……

 ………


 「マジかよ……」


 『魔操兵』に乗ったイヴは、施設内を飛んだり跳ねたりして、自在に『魔操兵』を操っている。おまけに立て掛けてあった大剣を手にし、滑らかな動きでそれを振って見せた。


 「はじめて……ですよね?」


 バルメが唖然とした顔で呟く。マルクも目を丸くして驚いている。


 「そりゃそうだ」


 (おいおいアニメかよ。まるでニュー〇イプ……。天才か?)


 「おい、爺さん、もう一機追加だ。イヴにも作ってやってくれ」


 「……」


 マルクが無言で指を輪っかにし、金を要求してくる。この世界でも同じジェスチャーがあるようだ。鏡があったら自分の顔を見せてやりたい。守銭奴ってこんな顔をしてるんだな。支援はどうした?


 「ちょっと待ってよっ! 私もっ! 私も乗るっ!」


 リディーナも触発されたのか、自分も乗ると言い出した。


 イヴと交代で『魔操兵』に乗り込んだリディーナだったが、乗り込んだっきり、機体は動かない。


 「リディーナ、どうした? 身体強化の応用だぞ?」


 「何なのこれ! 全然動かないわよ? やっぱポンコツじゃないっ!」


 「「「……」」」


 「うーん、エルフ族は精霊の力が邪魔しとるんじゃないかのう……」


 「そうなのか?」


 「いや、知らんけど」


 「「「ジジイ……」」」

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