第114話 男の浪漫

 ――ドワーフ国『メルギド』――


 レイ、リディーナ、イヴの三人は、メルギドの城壁の地下にある『魔操兵ゴーレム隊』の施設に見学に来ていた。


 レイ達の武具の製作には、まだまだ時間が掛かるということで、暇を持て余したレイが「メルギド」の各施設の見学を希望したのだ。


 『魔戦斧隊マジクス』による一連の拉致事件は、生き残った隊員達の取り調べと、アクス家の家宅調査を現在行っている。「メルギド」の代表達からは、土下座の謝罪を受け、事件の詳細が分かり次第、改めて賠償を含む謝罪をしたいとの申し出があった。レイ達はそれを固辞し、代わりに「メルギド」の各施設の見学と、街にある三人の裸体像を破棄する約束を取り付けた。


 …


 「これが『魔操兵ゴーレム』か……」


 レイの前には、全長八メートル程の、鉄色の騎士のような装甲に覆われた、『試験型』の魔操兵が鎮座してあった。先の『鬼猿オーガ』との戦いで、破壊されずに残った一機だ。


 「はっ! 試作機でありますので、実戦にはまだまだ課題を残した機体であります!」


 敬礼して説明するのは『魔操兵隊』の隊長、バルメだ。バルメは『鬼猿』との攻防の際、間一髪逃れて助かっていた。同じく怪我は負ったものの、助かっていた衛士隊長のゼンも、包帯を各部位に巻いてこの場に同席していた。二人はレイが『鬼猿』を葬った映像を代表達から見せられており、レイに対して畏敬の念を持って接している。


 「あのデカい魔獣との戦闘は、俺も少し見ていた。『魔導砲』だっけか? あれを使っていた衛士と連携してれば十分仕留められてたと思うけどな」


 レイは『魔操兵』を見上げながらバルメに言う。


 「勿体ないお言葉を頂き恐縮です」


 「「「……」」」


 こんな畏まったやり取りに、レイ達はいい加減ウンザリしていた。「メルギド」の街で至る所でこうである。原因はユマ婆の作った石像なのだが、ユマ婆を問い詰めた所、石像の製作は僅かニつのセットのみで、迎賓館と、「ファッションセンターめるぎど」の二か所にしか存在しないらしい。だが、高名なユマ婆が百年振りに製作した石像とあって、若い職人たちがこぞって模倣し、複製したらしい。全身像ではなく胸像ではあったが、それらがあっという間に街に広まったのだ。加えてこの国の代表達がレイ達への全面協力の指示と、レイの活躍、S等級冒険者パーティー『レイブンクロー』の情報も合わせて周知され、レイ達がどの店に行っても丁重な扱いを受けることになってしまったのだ。


 因みにリディーナとイヴは、ユマ婆の言葉を信じておらず、そこらの店に入る度に裸体像が無いかチェックしている。


 (それにしても『魔操兵』か……。まるでガン〇ム、いやロボットだな。動力である魔力の容量不足で稼働時間が短いのが欠点らしいが、兵器として十分将来性がある。……一機、欲しいな。個人的に)


 ロボットの開発は地球でも盛んだ。軍事用に限っては、一部、実戦投入されている。だが、巨大ロボットに関しては現実的ではなく、開発を行っているのは極一部の浪漫を追う者達だけだ。理由は様々だが、一番の理由はサイズを大きくする意味が無いからだ。大型化するなら航空機や戦車などで十分で、ロボットである必要も、人が乗り込み操縦する意味も無い。それに、二足歩行による直立姿勢では、その大きさが目立つ標的になる。誘導兵器の発展した現代では、ミサイルやロケット砲などで長距離から簡単に狙撃されてしまうのだ。


 逆に人間サイズの小型ロボットは大きなメリットがある。人間が装備できる以上の、ほぼ全ての武装が装備でき、人間用のインフラもそのまま利用できるからだ。それに人間には厳しい過酷な環境でも生命維持に必要な装備を省略し、安定した軍事行動ができる。製造の低コスト化と、電波妨害やハッキングに対応した自律行動AIが発展すれば、訓練不要で人に必要な食料や睡眠、メンタルケアなども不要な兵士が大量に量産できる。ター〇ネーターのような軍隊ができるのはもうすぐだ。


 しかし、この世界では巨大ロボットは有効だ。先の『鬼猿』のように、この世界は『竜』や『巨人』など、巨大な魔物の存在があるからだ。それに、航空機も発達しておらず、地表も整備されていない。この『魔操兵』の運用が軌道に乗れば、巨大で強力な魔物にも、少ない人数で対抗できるだろう。量産化できれば、高い等級ランクの冒険者など、一部の強者に頼らずに済むのだ。


 (二足歩行の巨大ロボットは、只のロマンであって実用的ではないと言われるが、俺はそうは思わない。操縦するのが人間という前提ではあるが、直感的に機体を操作するには人型が望ましいと思うからだ。人間が操縦するなら、脳の機能上、腕が四本あっても同時に操作できるのは左右二本までしかできない。それに、直感的に操作できることが多いほど、操縦者の育成が短期間で済む。いくら高性能、高機能のロボットがあっても、扱える人間がいなければ意味は無い。戦闘機やヘリコプターなどの飛行機の操縦には膨大な訓練時間が必要で、コストも掛かる。ここの『魔操兵』のように魔力操作で、自分の手足のように操縦できるのであれば、操縦者の育成は容易だ。無論、自律行動のできるAIが無ければの話だ)


 「これって、一機、譲って貰うことってできる……かな?」


 「わ、私の一存では、ちょっと……。その件は、責任者のマルク様に直接言って頂けないでしょうか?」


 「ちょっと、レイ、こんなの貰ってどうするのよ! 大き過ぎてどこで使っても目立つわよ? いつも目立ちたくないって言ってるじゃない!」


 「(男のロマンってヤツなんだよ……。いやこれがあれば勇者もワンパン……)」


 「何ゴニョゴニュ言ってるの?」


 「いや、なんでもない」


 

 「ハッハッハッ、お気に召しましたかな? レイ殿」


 レイ達の後ろから、白衣を着た老人、マルク・マジク・メルギドが歩いてきた。七家代表の最年長の老人で、あのユマ婆よりも年上らしい。だが、そうは思わせないほど言動と物腰がはっきりしている。


 「これ、一機貰えないか? 勿論、金は払う」


 「申し訳ないのじゃが、これはまだ「試作機」。このような未完成品をお渡しする訳にはいかんのでのう。完成するまで待ってくれぬか?」


 「完成したら譲ってくれるのかっ!」


 「勿論ですじゃ! 是非、レイ殿に使って頂きたいっ!」


 「「……」」


 レイの嬉しそうな顔に、リディーナとイヴは理解できないと呆れた表情だ。


 「ただ、完成には色々問題が……。魔石とか……、鉱石とか……、予算も……」


 「リディーナっ! 火口で見つけた財宝あったろ! 魔石とかもあったはずだ、ちょっと出してくれ! 爺さん、ちょっと待ってろ。使えるモノは使ってくれ」


 「いやよっ! なんでこんなオモチャに財宝使うのよっ!」


 「オ、オモ…… いや、そこをなんとか……」


 「こんなポンコツ役に立たないでしょ!」


 「「「ポ、ポンコツ……」」」


 レイとマルク、バルメが揃って呟く。


 「いや、大丈夫だ! 俺がちゃんと監修する! 絶対役に立つからっ!」


 頭を下げて、お財布担当のリディーナに懇願するレイ。後ろでマルクも同じように頭を下げる。


 「んもーーー、しょうがないわねぇ……。無駄遣いは今回だけよ?」


 「「む、無駄…… いや、有難う御座いますっ!」」


 レイとマルクが、リディーナに深々と頭を下げた。

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