第51話 レイと剣聖
俺は、白石響と対峙しながら魔力を練る。身体強化のレベルを上げ、且つ、いつでも他の魔法を放てる状態に持っていく。予想はしていたが、強化し過ぎて肉体が悲鳴を上げている。だが後の事なんか気にしてられない。白石の後ろにいる佐藤優子も視界に入れ、目を離さない。
「余所見とか舐めてる?」
またも瞬時に移動してきた白石が
直接、剣で受け、
(どう見ても普通の剣だな。受けてあっさり折れたら逃げようと思ったがこれならいけるか……)
再度、それを確かめるように細かい連撃を響に放つ。
その全てを西洋刀で正面で受ける白石。強度の差が大きく、徐々に刃こぼれが出てきたが気にする様子はなく、平気な顔で捌いている。
(間違いない。この女、自分の剣じゃないな? 縛りプレイのつもりか?)
ここは戦場だ。遊ぶつもりで本気をださないならそれを利用するまでだ。
剣の損耗も気にせず、剣速を上げながら白石も連続で剣を振るってくる。剣の強度はこちらが上だと分かってるので、軽くいなすように受けて奥義は使わない。奥義でいなして一撃で決めれる程、この女を甘く見ていない。油断すれば斬られる、それほどのスピードとパワーだ。
(確かに素人じゃない。これが『剣聖』の能力だとしたら破格な能力だ。長年鍛錬してきたような剣筋を一朝一夕で発揮してるとしたら、チートもいいとこだ。……だが読みやすい。やはり……)
「考え事かしら?」
涼しい顔をしながら十代の高校生とは思えないような剣速で連撃を繰り出す白石響。
(更に激しくなった…… だが、経験とギアを上げた身体強化でまだ対応できる。まだ
「へぇ、ちょっとは剣術を齧ってるみたいね」
この女は、俺の
実戦を経験してきた者は、一つの動作で多くの情報を無意識に得ようとする。これは剣術に限らない。銃でも射手の力量を瞬時に見切れなければ、対応を誤りベテラン兵士だろうが一発で死ぬ。よく映画や漫画で相手の銃をつかんで防ぐなんて描写があるが、相手の力量を無視してるので危険極まりない。実際は、手を伸ばして届く距離で銃を抜く時点で素人が九割、プロは一割ぐらいだが、一割のプロを見抜けなければ死ぬだけだ。この女は銃を楽に掴めるが、一割のプロを見抜けない。そんなちぐはぐさを感じる。
裏道場では手加減されてるとは言え、何度も斬られた。師匠がほんの少し力を入れてれば首は切断され、手足が斬り飛ばされるような斬撃を二十年以上受けてきた。戦場にも何度も行った。近距離での撃ち合いも数えきれない。前世の肉体には摘出してない銃弾がいくつもあった。
この女にはそんな経験が圧倒的に足りない。急に手にした強力な力で慢心してるのは桐生と同じということか。一撃で死ぬという経験が無いから、頭では分かっていても体が知らない。
(そこを突かせてもらおう)
…
二人は激しく剣を打ち合いながら、互いの隙を伺い、崩す攻防を続ける。後方にいる佐藤優子を含め、城壁の兵士達もその様子に魅入っている。響が余裕で打ち込み、レイがその剣を敢えてギリギリに受けて見せてることに気付いている者は一人もいなかった。
(確かに速さも力も技も、文句なしのいい剣だ。……だがそれだけだ)
―新宮流
レイの動きが突如変化する。身体はユラユラと揺れて、剣速が不規則になる。どことなくスローモーションのような体の動きに反した剣速の不規則性に、響の視覚が狂いだす。
「くっ! 急に……」
レイの剣に次第にタイミングがズレ、一手遅れ出す白石響。能力の恩恵か、身体強化のおかげか強引に剣を合わせて防ぐ。
―新宮流真伝『蛇突』―
しなるように伸びた腕から繰り出された刺突になんとか反応した白石だが、その後の剣自体も蛇のように動き、白石の頬を切る。
「響っ!」
佐藤優子が思わず声を上げる。
その声に合わせるように、レイが剣の間合いで魔法を放った。
―『水流』―
レイと白石の間に大量の水が発生し、白石の動きが止まる。雷属性で一気に決めないのは距離が近すぎる為だ。お互いが剣を持ち、打ち合う距離では自分にも雷撃が及んでしまう。レイは一呼吸分の間合いを空け、再び魔法を放つ。
―『氷結』―
水に濡れた白石と周囲の水が一瞬で凍結する。
「はぁっ!」
白石は上段から剣を振り下ろし、自身に纏わりついた氷を霧散させる。凄まじい剣気だ。
―『火炎』―
「くっ!」
立て続けにレイから発せられた激しい炎も同じく剣で両断される。魔法で生み出した氷や炎を剣の一振りで薙いだ力は脅威の一言だが、所々に凍傷と火傷の跡が残っており、無傷で済んではいない。
一瞬で凍る程の冷気から高熱の炎にさらされ、響の肉体は感覚が狂う。
「無駄よっ!」
一瞬で間合いを詰め、剣を振るう白石。魔法放出後の硬直を装い、慌てるようにレイは剣を振るう。ニヤリとした白石が剣速を上げレイに剣を振り下ろす。
これまでの攻防で、アドレナリンが脳内に分泌され、自身の体の状態に気付けない白石。レイにとっては白石の動きは最初に打ち合いをした時より数段遅く、余裕をもって見切り白石より速く動くことができた。
―新宮流『朧』―
レイの剣が白石の剣をすり抜ける。盛大に空振りをさせられた白石にレイの剣が届いた。
「響ぃぃぃーーー!!!」
(くっ浅いかっ!)
袈裟気味に胴を薙いだレイの剣だったが、白石は瞬時に身体を捻り、大きく胴を切り裂さかれたものの、致命傷には至っていなかった。白石は必死な形相で西洋刀を投げ捨て、『白刀』を腰に出現させる。
レイは『白刀』を見た瞬間、全身に鳥肌が立った。瞬時にその特性を本能で理解し意識が切り替わる。聖剣とは異なる『斬る』ことに特化した剣。
あれは
片手剣を正眼に構え、レイの顔から表情が消える。
白石響は自分が斬られてようやく本気になったが、レイの術中に嵌り、感覚を狂わされ、傷つき、冷静ではない。
居合の構えを取り、素早く柄に手を掛け抜刀。
それと同時に無表情のレイが同時に呟いていた。
『我 新宮背負イシ
驚き目を見開いた白石。
レイは袈裟斬りに剣を振る。
白石の居合一閃。
白石の抜いた剣は本来の剣速ではなかったが、白石には十分だった。『白刀』は最強、斬れぬものなし。剣で受けようが、魔法を撃とうがこのまま剣ごと両断するつもりだった。
―新宮流
レイは響の『白刀』に対して、自身の剣から右手を離し同時に差し出した。自身の腕で白刀をいなすが、白刀の威力でレイの右腕は千切れ飛ぶ。それでも響の斬撃は十分殺せた。
左手で握ったレイの剣が白石の首に迫る。
「うわああああああああああああ」
刹那に響いた佐藤優子の叫びと同時に、レイの振り下ろされた剣に光の矢が刺さり、その剣が砕けた。半身になった剣をなおも離さずレイは振り抜く。
レイの剣は、白石響の両目を横一文字に斬り裂いた……が、
(くそっ…… 届かなかった…… それより拙い。『弓聖』が来る。あのタイミングで攻撃されるとは…… 剣聖に集中しすぎた)
―『雷……
光の矢が響の脇の隙間から浮き上がるような曲線を描き、レイの腹部に突き刺さる。瞬時に身体をひねり、貫通はしなかったものの、威力は殺せず腹部が大きくえぐられた。撃とうとした『雷撃』の魔力が霧散し、レイは激しく吐血する。
ガハッ
「響ぃぃぃぃ!!! うわぁあああああ!!!」
狂ったように叫び、崩れ落ちる響の背後から光の矢を無数に放ってくる佐藤優子。先程までの余裕の表情が一変、錯乱していた。
至近距離で放たれた無数の高速の矢に、避けられないと瞬時に判断したレイは『
「は?」
なんで矢が消えたか分からないといった表情の佐藤優子。だが、逆にそれで我に返り、間髪入れずに上空に矢を打ち上げる。上空で一本の矢が無数に枝分かれし、レイの頭上から広範囲に高速で降りかかった。
(くっ!)
回避不能と判断したレイは、魔力を振り絞るように『歪空間』を再度展開して矢を防ぐが、上空の矢に気を取られたその間に佐藤優子は白石響を抱え、その場を離脱していた。
(ガキの癖になんて状況判断だ。逃げてくれて助かったが…… 拙い、魔力がもう…… 回復…… 止血……しなけれ……ば……)
魔力を使い果たし、腹部と右腕からの大量の出血により血の海を作ったレイは、その場で崩れ落ちた。
…
……
………
「一体何してやがんだ……」
南星也は、事の成り行きを遠目で見ていたが、詳しい状況までは見えなかった。いつものように白石が軽く相手を瞬殺して戻ってくるとばかり思っていたが、大量の水や炎が上がっている。魔法を使われて長引いているようだ。
「あー?」
光の矢が無数に発生している。どうやら佐藤優子が参戦しているようだ。珍しい。
「一人相手に何やってんだよ、遊んでんのか?」
突然、南の視界が空に向いた。
「へ?」
南星也は、音も無く胴体を両断され、上半身が仰向けに倒れていた。
「ごふっ な、なに…… が……?」
「勇者は全員殺すと決めたの。私の為にも……彼の為にも」
「ま、待てっ」
―『
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