第50話 浄化無双
「「勇者……」」
「私が
「どうしたリディーナ?」
リディーナの様子がおかしい。何やら思い詰めた表情だ。
「落ち着け」
「私にやらせて! でないと……」
あの制服を見て、殺されかけた記憶が蘇ったのか? 怯えずに戦う気になってるのは感心するが、はいどうぞというわけにはいかない。
「冷静になれ、リディーナ」
「……」
リディーナをなだめながら、強化した視力で馬車に目を向ける。
南星也、白石響、佐藤優子か。高橋から聞いた情報にあった三人だ。『死霊術師』、『剣聖』、『弓聖』の能力。能力が判明しているヤツらだが、どれも厄介だ。南星也は問題無いが、残り二人の女は桐生と違って武道の心得があるらしい。実力はわからんが能力で強化されてるなら、只の
(しかし、このまま逃げるという選択肢も無くなった。せめてこの場で南星也だけでも始末しないと今後厳しくなる……)
前のように投石で南星也だけでも殺そうと思ったが、前回のように真っ昼間な上、視界も開けてる。万一避けられて、三人同時に相手するのは避けたい。それに、リディーナにやらせたい気持ちもある。魔術師系のヤツならリディーナなら余裕でやれるだろう。それに、このまま逃げた場合、一人で暴走してもらっても困る。
(こんなときライフルでもあればな……。あの距離なら俺の腕でも確実に殺れる)
「
「どうして?」
「『死霊術師』だからだ。あいつがあの不死者の群れを操ってるんだろう。死体を操る以外の能力が分からないから直接の戦闘能力は分からないがな。残り二人の女は『剣聖』と『弓聖』。直接戦闘能力がありそうな二人だ。あまり魔法は使えないみたいだから、一対一ならなんとかなると思うが、揃って対峙するのは避けたい」
「リディーナ、
「十本はあるはずだけど、どうするの?」
「気休めかも知れないが、無いよりマシだと思ってな。俺があの不死者の群れに突っ込んで
「……」
「正直、状況的にはこのまま静観して逃げる方がいい。だが、問題はあの南星也があの街をどうするかだ。不死者の群れをけしかけるくらいだ、占領は考えてないだろう。最悪なのはあの街の人口が全て不死化されることだ。今のあの数ならギリギリいけるが、あの街全体が不死化したら手が付けられなくなる。南だけはこの場で始末しておきたい」
「……あの群れに突っ込むって、大丈夫なの? それに女二人がレイに向かって行ったらレイはどうするの?」
「不死者共は大丈夫だ。魔力回復薬を全部くれ。それに女二人が
「わかったわ、約束する。無茶はしないわ」
「信じるぞ? それと、
魔力回復薬をリディーナから受け取り、腰のベルトに全て差し込む。そのままリディーナの頬を両手で掴み、再度言い聞かせる。
「いいか、生きて帰ることだけ考えろ。攻撃できたとしても魔法を放ったらすぐに逃げるんだ。失敗してもいい、生きてれば次があるんだ。わかったな?」
赤面したリディーナから手を放し、光学迷彩の魔法を掛けてやる。他人に対しては、短時間しか効果が持続しないが、リディーナを死なせるわけにはいかない。
「俺はまだまだリディーナと旅をしたい。そのことを忘れないでくれ」
俺はリディーナに言葉を残して姿を消した。
…
……
………
不死者の群れの側面まで来たレイは、光学迷彩を解除し、自身に強化魔法を施す。身体強化とは別に列車内で読んだ魔導書の魔法、物理防御や魔法防御の結界魔法を展開する。
(ぶっつけ本番で、どの程度の効果があるかは検証できていないが、これも無いよりマシだろ)
馬車の方をチラリと見る。
(桐生達並みにガキだといいんだがな……)
「はじめるか……」
―『
レイは魔力を多く込めた聖魔法を発動し、目の前の不死者の群れを数百単位で消滅させた。前進しながら『浄化』の魔法を連続発動させ、レイを中心に輪が広がるように不死者が消滅し、空白地帯が出来上がった。
…
……
………
「何が起こっている……?」
城壁の上から異変に気付いたマリガンは、目を疑う光景に驚愕していた。突如現れた人物が連続で魔法を発動させ、不死者の群れを消滅させている。フードで顔が見えず、誰かは分からない。
「教会の人間か? いや、そんなはずはない。あんなことができる人間なんて教会にいるはずない」
教会の神官の中には、教会の指示に反し、城壁に上がり浄化魔法で不死者に対峙している献身的な者もいた。しかし、長年教会に引きこもり、碌に魔法を使ってなかった所為か、お世辞にも役に立っているとは言えなかった。
「あれは……浄化魔法か? 馬鹿な、何故あんなに連続で使用できる? それにあの凄まじい威力はなんだ? それに……詠唱をしていない? 完全無詠唱? ありえん…… 一体何者なんだ?」
千体は消滅させたであろうタイミングで、その人物が瓶に入った液体を呷る。フードがめくれ、黒髪に灰色の瞳をした若い顔が現れた。若者は再度魔法を発動させ、不死者を滅する作業を繰り返していった。
…
……
………
(魔力回復薬の回復量は殆どないな。くそっ、やはり気休めか。身体の耐性が邪魔してるな。予想より多く不死者が消えてくれてるから、このペースなら残り一、二割くらいは魔力が残せるか……ギリギリだな。あとは
…
……
………
不死者の群れが急速に消えていく。
「あん? なんだあれ……」
南星也は前方の異変に眉を顰めて呟いた。
「おーーー! なんか一人でスゴイことしてる人がいるよー」
佐藤優子は身を乗り出して前方に目を向けている。
「何してるのかしらあれ?」
「くそっ! 聖属性の魔法かっ! なんだあの威力はっ? 何者だ一体っ!」
「スゴーイ! しかもかなりのイケメーン!」
「ちょっと優子、感心しないで! というか、見えるの?」
「見えるよー なんか魔法を連続で撃ってるっぽい。すごい魔力だねー」
「何、呑気なこと言ってんだっ! もう半分近くやられてんぞっ!」
不死者の群れが跡形も無く塵となって消え去っていく。このままでは全滅も時間の問題だろう。
「仕方ないわね……。優子、宜しく」
「りょうかーい♪」
佐藤優子は光の弓を出現させ、レイに向かって高速の一矢を放った。
「うそーーー!? 避けたよ、あのイケメン! すごーい!」
「へー…… おもしろいわね。私が行くわ」
「あっ、私も行くー」
「あれだけの不死者を作るのにどんだけかかったと思ってんだ…… くそっ、ふざけやがって……」
…
……
………
連続で浄化魔法を放ち、半数近くの不死者を消滅させていたレイに、突如、光の矢が迫る。
「くっ!」
馬車にいる勇者達への警戒を怠っていなかったレイだが、あまりの矢の速さに驚いた。警戒してたおかげで辛うじて避けられたが、身体強化をもう一段階上げ、警戒レベルを上げる。
(『弓聖』か? くそっ、情報通り魔法防御は意味なかったか……しかも速い。銃弾並みだぞ……)
近づいてくる二人の少女にレイは剣を抜いて構える。
「あれー? 剣士みたいだよー響ちゃん! しかも近くで見るとすっごいイケメン!」
「魔法剣士ってヤツかしら? 珍しいわね。しかも私達と歳近くない?」
「若ーい♪」
(『剣聖』と『弓聖』が揃って来たか……)
「じゃ、私がやるわね」
瞬時にレイの目の前に移動した白石響は、そのまま抜刀しレイに斬りつける。強化した動体視力でギリギリの間合いで後ろに下がり、剣を躱すレイ。
「へー、これ避けるんだー ……おもしろい」
(瞬歩だとっ? 速過ぎる! ……それに今の一太刀で物理防御の結界が割れやがった。全然役に立たん。こりゃ本気でやらんと時間稼ぎどころじゃないな。桐生達とは次元が違う)
レイは身体強化のレベルを更に上げる。ミチミチと筋肉が悲鳴を上げ骨が軋み、魔力で無理矢理身体を動かす。
白石響が手にしてるのは、竜王国で手に入れた
周囲の
佐藤優子は後方でニコニコしながらレイと白石響の様子を見ている。観戦気分で楽しんでいるようだ。
(『剣聖』一人でやるつもりか? ……なら逃げるのは無しだな)
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