第48話 首都マネーベル

 三日間の列車の旅は何事も無くあっという間に終わり、無事にジルトロ共和国の首都『マネーベル』に到着した。


 高い城壁に囲まれた城塞都市というのは他の街と変わらないが、四方に延びる線路が他の街には無い特徴だ。駅もまるでターミナル駅といった様相で、同じような車両が所狭しと並び、人も多く混雑している。今まで訪れた街で一番の人混みだ。


 列車を降りると、そのまま乗り継ぎの為に受付まで向かう。事前にドワーフの国『メルギド』までこのまま列車で向かうことをリディーナと決めていたので、あとは運行予定を聞いて予約するだけだ。


「『メルギド』までの列車は、三日後に出発予定です」


 受付からそう聞くと、すぐに席の予約を入れた。メルギドまでの列車は商人や冒険者の利用が多く、満席になるのも珍しくないと聞いていたからだ。東京では分単位で電車が運行しているが、大陸では隔日、週一などはそれほど珍しいものではない。


「また少し日が空くわね」


「丁度いい。身体が鈍ってるからな。三日間は体を動かそう。新しい魔法も試したいしな」


「そうね。それじゃあギルドへ行って、ついでに依頼も見ておきましょ」


 ここからは旅や鍛錬の合間にギルドの依頼をこなし、冒険者の等級を上げる作業も同時に行う予定だ。


 …


 マネーベルの冒険者ギルドは冒険者で溢れていた。今までの支部に比べて規模が大きく、掲示板にも依頼の張り紙が所狭しと貼られている。


 冒険者も様々な人間がいる。獣人もちらほら見かけるし、頭に角の生えた人間や、背の低いドワーフも見かけた。装備も様々だ。新人らしき冒険者からベテランまで幅広い。


 E等級の掲示板を見ながら、他に常時掲出の依頼もチェックする。俺達『レイブンクロー』は俺の等級が低い所為で、E等級までしか依頼を受けられないが、常時掲出の魔物討伐に関しては制限は無い。鍛錬のついでに狩れる魔物がいれば討伐してギルドへ持ち込めば、昇級実績に加算される。



不死者アンデッド……?」


 常時掲出の依頼に不死者の討伐依頼があった。初めて見る魔物の掲出だ。


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、不死者が出るの?」


 リディーナも気になったのか掲出されてる依頼について受付嬢に尋ねる。


「最近、目撃情報と遭遇報告が増えてるんです。皆さん不死者には消極的な方が多くて、常時掲出の依頼になってます……」


「無茶するわね。……種類は?」


腐乱死体ゾンビ骸骨スケルトンです。一応、複数の高等級冒険者パーティーに、原因調査と討伐依頼を同時に出してますので、そのうち落ち着くとは思いますが、出没数が多いのでまだ常時依頼で掲出しています」


「そう、わかったわ。ありがと」


 …


「不死者ねぇ……」


「何か気になるか?」


「おいしくないのよねぇ。討伐証明が魔石くらいしかないんだけど、小鬼ゴブリン並みに小さくて価値が低いのよ。おまけに聖属性か火属性の魔法、もしくは打撃系の武器じゃないと面倒だし。骸骨はともかく、腐乱死体にかすり傷でも負わされれば不死者の仲間入りよ?」


(そう言えば、ギルドの資料にもあったな。不死者アンデットの一部は嚙まれたり爪で引っ掛かれると伝染うつるんだっけか。……まるでゾンビ映画だな)


「そりゃ、皆さん消極的になる訳だ」


「それに臭いわ」


「そっちか……」


 …


 ギルドを後にした俺達は、城門を出て森に入った。街を出る前に市場で食料の補充をしたが、流石に貿易都市というだけあって香辛料や調味料の種類が多かった。リディーナはこれでもかというくらい砂糖を買っていたが、俺は胡椒とカレー粉に似た調味料を購入した。米もあるらしいので、帰ってきたときに探して購入しようと思う。楽しみだ。


「マネーベルか、好きになりそうだ」


「メルギドへ出発する前に一日買い物しない? もっと買い貯めしたいものがあるのよね」


「そうだな、もっと見てみたいからな。魔導書も探してみたい」


 マネーベルは街のあちこちの区画に市場があり、食材や武具、雑貨などのエリアに分かれてるらしい。森での鍛錬は早めに切り上げて、市場の散策に費やしてもいいかもしれない。


「「ッ!」」


「早速、探知に引っかかったな。人間らしい反応、数は十」


「冒険者か腐乱死体ゾンビね。十人のパーティーなんて殆どいないから多分後者だと思うわ」


「厄介だな……。探知魔法じゃ人間と見分けがつかない」


 少し改良が必要かもしれない。動体反応をメインに判別してる魔法だが、人間大の大きさと形の腐乱死体ゾンビは人間と区別できない。


(死体ってことは体温は無いのか? 温度感知と併用できるか、後で実験してみよう……)


 

 反応があった場所まで近づくと、肉が腐った臭いですぐに腐乱死体ゾンビだとわかった。はじめて見るが死体が歩いている。まるで映画のような光景だ。着ている衣服は所々破れて、血と泥で汚れているが、体からは血は流れていない。裂けた傷口や、腐って無くなってる部分からは血が流れ切ってしまっているのだろう。臭いさえなければ作り物のようだ。


「レイ、ちゃっちゃとやっちゃって」


「リディーナは?」


「風魔法じゃあんまり効果ないし、切り刻んだらもっと臭いが酷くなるわよ」


 試したい魔法があったので「雷魔法があるだろ?」と突っ込もうと思ったが止めておいた。確か、ロメルの教会で覚えた『浄化魔法』が対不死者用だったと思い出したのだ。


 ―『浄化ピュアフィケーション』―


 腐乱死体ゾンビ達が瞬く間に塵となって消えて行く。魔石だけ残して跡形も無くなってしまった。


「なんかすごいな……」


 あっさりし過ぎて、まったく現実感が無い。ファンタジー現象過ぎる。


「すごいわねー。聖属性魔法なんて教会関係者ぐらいしか使える人いないのに……。実戦で使える人はほとんど教会から出てこないから、戦闘で見るのは初めてだわ」


「あっけなさ過ぎてまったく倒した気がしない」


「おまけに完全無詠唱だしね。臭いも無くなって最高よ。使用魔力ってどれくらいなの?」


「あれぐらいだったら全然大したことない。『風刃』の半分以下だ」


「レイなら未探索の不死者だらけの遺跡にも潜れるわねー」


「遺跡? 」


「そう、古代遺跡。不死者だらけの遺跡って探索困難で未踏破な遺跡が多いのよね。不死者は実体のある腐乱死体ゾンビ骸骨スケルトンならともかく、実体の無い幽霊ゴースト系は、魔法か専用の武器がないと倒すのが難しいのよ。魔法は魔力を回復するのにまとまった休息が必要だし、専用の武器は耐久性があまり良くないからどちらも長期の探索に向かないの。だから不死者の遺跡は手つかずの遺跡が多いから、まだまだお宝が残ってるって言われてるのよ」


「お宝ね~ 子供じゃないんだ、あまり興味が湧かないな」


魔法の鞄マジックバックとかあるかもね」


「ウソです。行ってみたいデス。古代の遺物オーパーツ、見たいデス」


「この国には無いわよ」


「くっ……」


「メルギドには確かあったはずよ」


「メルギドに行ったら是非行こう!」

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