第15話 勇者と殺し屋
「おい、お前何してる?」
「それはお前がやったのか?」
本庄と須藤の死体のことか、それとも高橋のことか、少年はレイに向かって言う。
少年は三人と一緒にいたという
(コイツが『勇者』の桐生か。中々鍛えているようだが、あんまり勇者って顔じゃないな)
桐生は、二人の死体や高橋を一瞥するも、それに気遣う様子もなく、レイにも興味が無さそうに呟く。
「ったく、なにやられてんだよお前等。女はどうし……ってあれか? 勝手しやがって。まあいいや、とりあえずそこのオマエは死んどけよ『
「ッ!」
少年は手をかざしたかと思うと、短縮した詠唱で、光の槍を生み出し、レイへと投擲してきた。
(速いっ!)
慌てて避けるレイだったが、回避が間に合わず、高熱の飛翔体が左腕に擦る。左腕の袖が瞬時に焼け焦げ、皮膚が爛れる。速い上に眩しい。レイは身体強化のギアを上げ、目に魔法でフィルターを掛ける。
このフィルターは『遮光』をイメージして発動しているが、他にも可視光線を増幅した『暗視』など、状況に応じて視界を確保する為に開発した身体強化魔法の一種だ。
(太陽光? そのイメージがしっくりくる。しかし、いきなり攻撃してくるとか、倫理観どうなってんだ? たまたま居合わせた人間かもしれないとか、少しも思わないのだろうか? それに仲間の死体や怪我して動けない高橋のことは気にならないのか? ……捕縛は無しだな。
レイは、桐生を捕獲から殺害へと思考を切り替えた。
「おいおい、何避けてんだよ? 『
桐生が続けて撃ってきたが、それはさっきレイに見せたばかりだ。飛んでくるスピードは確かに速いが、来るのが分かっていればレイにとって避けるのは難しいことではない。
(飛竜が邪魔だな)
―『
レイは無言で直径二メートルほどの大きな火球を瞬時に生み出し、上空に放つ。
桐生は突然の魔法攻撃に驚き、目を見開く。回避しようとするが、飛竜と連携が取れておらず、まともに火球を浴びる。飛竜の翼の皮膜が瞬時に焼け落ち、少年を乗せたまま地上に落下してきた。
「うおおおおおぉぉぉーーー『聖鎧召喚』んんん!!!」
炎に包まれ、飛竜ごと地面に落下した桐生だったが、黒焦げになった飛竜を押し退けて、光り輝く白金の鎧に包まれ立ち上がった。鎧の隙間からは煙が燻っており、炎によるダメージは少なからずあったようだ。兜の隙間から覗く表情は怒りに歪んでいる。
「てめぇ、魔術師か? 舐めたマネしやがって! ぶっ殺してやる! こいっ! 『聖剣召喚』!」
桐生の手に、神々しい装飾の施された白金の大剣が現れた瞬間、
―『
またも無言で放ったレイの魔法が、一瞬で少年の目の前に立ち昇る。
「ッ! クソがぁ!」
聖剣を袈裟斬りに振り抜き、炎を払う桐生。聖剣の力か、魔法で作った炎の壁をいとも簡単に切り裂いた。
聖剣の振り終わりに合わせるように、桐生の斜め右後方の死角から、レイが短剣を一突き。少年の片目を突いた。
「ぎゃああああ! 目がっ! 目がぁぁぁ! 」
突かれた目を押さえ、頭を下げた桐生に密着するようにして裏からレイが迫り、逆手に持ち替えた短剣を脇、膝裏の順に、鎧の隙間を縫うような流れる動作で斬りつける。最後に反対の脇に短剣を深く刺し入れ、脇下の動脈を断ち斬る。
―『新宮流 流水演舞』―
「ぎゃっ!」
悲鳴を上げ、地面に転がる桐生。両脇を斬られて腕が上がらず、聖剣も手から離れた。
…
最後の脇下への斬撃で動脈は断っている。何もしなければ、数分後には死ぬだろう。コイツも呆気無い……。これが『勇者』?
大体、なにカッコつけてんのか知らんが、仁王立ちして何ごちゃごちゃ言ってたんだ? 殺し合い中にお喋りに付き合う訳ねーだろ……。
「せいけんしょうかんっ!」とか、言わなきゃ出せないのか? ウソだろ?
態々、魔法はこれ! 剣出します! って、これからこれで攻撃しますって予告するようなもんだ。舐めてるのか?
せめて最初から剣も鎧も装備してから攻撃してこいよ……。
折角、魔法も撃てるんだから、もっとこうさぁ……。
チラリと寝ている高橋を見る。
「何がヤバいだ……」
まあいい。
倒れた桐生をじっと観察する。魔法を使う様子はない。
(回復魔法は使えないのか?)
脇から夥しい量の血が流れている。魔法以外の動脈の止血手段は桐生には無いだろう。ただの高校生に、傷口に手を突っ込んで、切れた血管を探して塞ぐのは専用の器具があっても無理だろう。
本来なら間髪入れずに止めを刺すところだが、もう少しコイツの能力が知りたい。漫画みたいに復活して、本気の力があるなら見てみたい。決して戦闘狂という訳ではないが、今後の為に自分の力を試しておきたかった。
(「やったか?」とか言ってみようかな……)
だが、暫くすると桐生は動かなくなった。
流れた血の量を確認し、警戒して近づく。桐生の剣と鎧に興味があった。
短剣で鎧をつつくとかなり硬い。しかも、弾くような反応がある。ファンタジー素材だろうか? しかし、鎧の隙間もファンタジー効果で弾かれたらどうしようかと思ってたが、構造は普通の鎧だ。
『新宮流 流水演舞』。レイが前世で学んでいた古武術の技の一つだ。戦国時代から伝わる古武術の中には、鎧の隙間を狙う技がいくつかある。鎧の構造や人体の急所を正確に把握し、超近距離で繰り出す技だ。
『
暫くすると、剣と鎧は消え、青白い顔した桐生隼人が現れた。服は焼け焦げており、所々火傷を負っている。すでに大量の血が地面に池を作っており、残った片目にも力はない。もうすぐ死ぬだろう。
(コイツのチートで生み出した剣と鎧か。鎧はともかく、剣は欲しいと思ったが、消えちゃうのか……)
敵の武器を奪って使うのには何の抵抗もない。使える物は何でも使う。戦場で相手の弾薬や爆薬を奪うのは当たり前だ。それに、武器を放置して誰かに使われ、それが自分や友軍に向けられるかもしれない。奪わずとも余裕があれば処分する。
…
桐生隼人は、ぐったりと倒れ、流れ出る大量の血を見ながら、自分に何が起こったのか分からなかった。
(痛い…… 寒い…… 身体が動かない……)
いきなり火球が現れ、いきなり目の前に炎が上がった。魔法? 無詠唱? 発動の
無敵の聖鎧も全く役に立たなかった。
(なんで斬られた? 今までどんな斬撃や魔法も防いできた。無敵だったはずだ! 俺は最強だっ!)
薄れ行く意識の中で、桐生隼人は思う。
エッ? オワリ?
(ちょっ……)
目の前の視界が黒く染まり、桐生隼人はあっさり死んだ。
…
レイは桐生隼人の死亡を確認し、黒焦げで動かない飛竜の死体を見る。
(結局ただの空飛ぶ大トカゲだったな)
レイが使った火属性魔法はこの世界のスタンダードな魔法だが、イメージする火力、温度がこの世界の魔術師がイメージするものとは雲泥の差があった。
レイは現代兵器の『ナパーム弾』、約二千度の燃焼温度をイメージして放っている。温度を上げる毎に魔力も比例して消耗し、魔力を練る時間も増える。戦闘中に使えるレベルではまだこの辺りが限度であった。
勇者の鎧には阻まれたが、飛竜を一撃で葬る威力の火属性魔法。だが、レイは自分の魔法に威力ではなく、発動プロセスに不満があった。
(今回は、コイツがバカで魔力を練る時間がたっぷりあったが、多対一だとこちらに隙が出来るな。もっと直感的に撃てるようにならんと使えんな……。しかしながら、拘束して情報を聞き出す魔法とか魔導具が欲しい。口を塞げば魔法は使えないかもしれないが、それだと話が出来ない。この世界の罪人はどう拘束してんだ? これも後で調べてみよう)
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