第12話 勇者の尋問②

 少年、高橋健斗タカハシケントは、知る限りのクラスメイトの能力を話した。


 高橋君によると、約半年前、この世界に高校の一クラスが丸ごと転移してきて、それぞれが特殊なチート能力に目覚めたらしい。だが、ラノベのように神様的な奴に出会うことも無く、いきなり召喚されてこの世界に来たみたいだ。なんでもクラスメイトの一人が『鑑定』の能力持ちで、一人一人の能力を鑑定して教えたらしいが、全員を鑑定した訳じゃなく、鑑定を受けなかった奴もいたようだ。


 召喚を首謀したのは、この国の若い王様らしい。他国との戦争に使うための戦力として召喚の儀式を行ったらしく、召喚したコイツらを奴隷として縛るつもりだったようだ。『鑑定』の能力持ちが、ネックレスに偽装した奴隷の首輪を見抜き、クラスの中心人物達がネックレスを奪って国王を含めた国の主要人物に嵌め、実質この国の実権を奪ったとのことだった。


 中々逞しくて感心する。


 召喚された三十二名のうち、生徒が三十名で教師が二名。教師二人は召喚直後から軟禁され、生徒が国の実権を握って軟禁から解放されるも、生徒達を引率することなくそれぞれ勝手に行動しているらしい。


 こいつらもこいつらだが教師も教師だ。


 教師一人の能力と、女子の半数、男子の一部は能力が不明。召喚者達、約半数の能力が分からないが、分かった能力もなんとも信じられない能力ばかりだ。


(まったく、ゲームかよ……)


 中でも『称号』スキルとコイツらが呼んでいる能力が面倒そうだった。



「信じてくれ! いや下さい! 自分で言うのもなんだけど、僕らはクラスでは下っ端なんだ。クラスの上の連中はヤバくて……、特にハヤトの『勇者ブレイブ』なんて能力スキルは反則なんだよ。いつでも手元に召喚できる『聖剣』と、それを操る『聖剣技』はマジで強すぎるし、聖属性の攻撃魔法なんて生半可な防御魔法じゃ防げないんだ。僕の『魔物使い《テイマー》』なんてそれに比べたらしょぼい能力だし、魔法だって身体強化以外はあんまり使えない。最初は魔物をテイムできてわくわくしたけど、どんな魔物をテイムしたってクラスの戦闘職には敵わない。苦労して飛竜ワイバーンをテイムしてもハヤトのタクシー扱いだったし、クラスのカーストは全然下なんだよ……。うっうっうっ……」


 泣きながら話す高橋君。後半は愚痴か?


 ハヤト? 桐生隼人キリュウハヤトか。『勇者』の能力。なんともファンタジーな能力だ。この世界にいた過去の『勇者』と何か違いはあるのだろうか?


 念のため、殺した二人の能力も聞く。


「この二人の能力は?」


 殺した二人の死体を顎で指し示す。


雄一ユウイチは『金剛力』って体がめちゃくちゃ固くなって、力も強くなる能力だよ。魔力を使わないで剣も矢も弾くし、力も身体強化より強くなるらしいけど、火や水攻めされると弱いから、雄一も魔術師組には脳筋スキルって馬鹿にされてた。マナブは『絶対魔法防御結界アンチマジックシェル』と『中位魔法ミドルマジック』。『絶対魔法防御結界』は、半径五十メートルの魔法を自分も含めて全て無効化する結界を作れる能力だったんだけど、展開したら自分も魔法が使えないから、魔力に因らない能力持ちとか、近接戦闘組には無力だったんだ。魔法を使えても中位までで、上位の魔術師には及ばなかったし、僕や雄一と同じように皆からは下に見られてた……」


(中位まで? 魔法を使うのにそんな制限あんのか? 個人によって使える魔法の上限があるなんて聞いたことないな。ギルドの資料室に魔法についての本が何冊かあったがそのような制限の記述は見てない。女神の知識にも無い。……ただの練度不足じゃないのかそれ?)


 だが話を聞く限り、コイツら三人は決して弱くない。実戦をあまり経験していないのか、強敵と戦った経験が無いのか、あるいはその両方だろう。まあ普通の高校生なら当たり前だが、戦技を指導する人間はいないのかもしれない。


 魔力を必要としない能力の存在は脅威だ。本庄学の『絶対魔法防御結界』を展開されて、須藤雄一の『金剛力』で攻撃する。中々良い組み合わせだ。もう一人、盾役か攻撃役がいれば、かなりやっかいなパーティーだ。コイツの『魔物使い』の能力にしても、空を飛べる乗り物があるだけで、この世界じゃ物凄いアドバンテージだろう。小動物をテイムして諜報や偵察に使えるし、毒蛇でもテイムしたら一歩も動かずに人を簡単に殺せる。大型の魔獣をテイムすることにロマンを感じるだろうが、発想が子供だな。


(コイツらがガキで良かったな……)


 信憑性はともかく、他にも聞きたいことはある。だがあまり時間は無い。


 エルフの女を横目で見る。


 早いとこ治療しないと死ぬかもしれん。あの女にも聞きたいことはあるし、あのまま死なれても寝覚めが悪い。


 ということで、高橋君には『再生魔法』の実験台になってもらう。エルフの女も実験台だが、実験をする前の実験だ。コイツは別に死んでもいい、というか殺すけど。ただ、あの女は治療してやりたい。


 コイツら、街でエルフの奴隷を買った挙句に殺したらしい。それをあの女に目撃されたから追ってたらしいが、なんともクズ過ぎる。自分は殺してない、ったのはハヤトだと、高橋は訴えるが、さっきまで女を襲ってズボンを下ろしてた奴に情状酌量の余地は無い。



 高橋に猿轡をはめて、悲鳴が出ないようにしてから、唇を捲り、短剣の柄頭で前歯を折る。


「ンーーーッ!」


 涙を流して悶える高橋だが、強化した力で頭を押さえつける。


 生前、偶々見たヒトの細胞の再生に関する論文を思い出し、イメージする。一部の爬虫類や両生類のように、欠損した部位の再生能力は人には無いと思われがちだが、実はある。髪や爪などだ。抜けた髪が毛根から元の髪が生えるプロセスはまさに『再生』だ。


 残念ながら再生しない中年男性の毛根の研究は今なお続いているが……。


 元々、細胞にはその形の記憶があって、なにかしらの要因で再生を阻害されているのではないか? という感じの論文だったと思う。正確な理屈は覚えていないが、イメージには大いに役立つ内容だ。細胞の遺伝情報まで詳細にイメージが必要だったらアウトだったが、どうやら大丈夫だったらしい。


 高橋の歯が再生し始めた。かなりの魔力を消耗したが、一本綺麗に再生できたところで魔法の効果が止む。際限なく歯が伸び続けなくて一安心だ。内心、ビーバーのように伸び続けたらどうしようと思っていた。


(この依頼が終わったら、ハゲの治療で食っていけそうだな……)


 続いて透視スキャンだ。CTやMRIのように人体の内部の構造を把握できるようイメージを浮かべる。高橋の砕けた肘に魔力を放出、目にも魔力を集中する。探知魔法の応用で、エコーのように魔力を断続的に放出し体の内部を感じ取れるよう意識する。


 結果から言うと成功した。かなりの集中力と魔力を使うが、これであのエルフの女は治療できそうだ。


 ついでだから他にも指を切断してくっつけたり、色々実験させてもらった。中々狂ったマッドな行いだとは思ったが、コイツら女を襲うのは、恐らくこれが初めてじゃない。殴られてる女をニタニタして見てたんだ、他にも色々下種なことをやらかしてるだろう。今後、俺が人を治療する際の糧になってもらうことに何の躊躇いもない。


 気を失っている高橋君には、まだ聞きたいこともあるので猿轡をはめてとりあえず放置する。魔法はほとんど使えないらしいが、使えたとしても、もう何もできまい。連れてきた魔獣もあの飛竜だけだと言っていたし、周囲に他の反応も無かった。


 次はエルフの治療だ。

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