第9話 エルフと勇者
森を疾走する一人の女。
フード付き
何者かに追われているのか、女は必死に森を走っている。深く被ったフードの下からは大粒の汗が流れ落ち、相当な距離、時間を走っていたことが伺える。
突如、炎の塊が女の目の前に落ちる。
女は慌てて足を止めるが、直後に襲った真上からの衝撃に体を吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
激しく地面に打ち倒されるも、すぐに起き上がった女の目には、三人の男達の姿があった。一人は『
「ひゅー! おい、あれエルフじゃね?」
「やっぱ、リアルに見ると耳がキモいな」
「えー? 僕は気にならないけどなー。それよりすごい美人じゃん!」
揃いの服装、黒髪黒目、見るからに若い三人の少年がエルフと呼ばれた女に軽薄な笑みを浮かべて近づいていく。
「こりゃここまで追ってきて正解だったな」
「何がだよ? すげー疲れたぞ?」
「やっぱいいなー エルフ! エルフってテイムできるかな?」
「エルフは亜人だろ? 亜人ってテイムできんのかよ?」
「いや、人は無理だけどサ、ひょっとしたらと思ってね~」
「テイムできたら奴隷はいらないだろ。耳もキモいし、俺は勘弁だけどな」
「でもめっちゃ美人だよ?」
「まあ顔は、な」
「それに結構胸デカくね?」
吹き飛ばされた衝撃でフードが捲れ、女の美しい顔と豊満な胸に、一人を除いて下卑た顔を見せる少年達。
女は咄嗟に自身の顔に触れ、自分の顔が露わになったことに気付く。捕まったら碌なことにならない、そう察したエルフの女は、瞬時に腰の
『勇者』。
当初、女は少年達を甘く見ていた。エルフ族と違い、人族は見た目通りの年齢だ。十代半ばに見えるこの少年達が、こことは異なる世界から召喚された異世界人、『勇者』であることはこの者達を調べる過程で聞いていた。だが、故郷に伝わる『勇者』とは到底思えなかった。伝えられている『勇者』は、人々を悪しき者から退け、導く力を持った存在として、それに相応しい力と共に語られている。長い寿命を持つエルフ族には、実際に過去の勇者と行動を共にした者もおり、強大な力と優れた人格者だったとして語られていた。
だが、その時代を知らない女は、故郷の老人達が語る話は、誇張されたモノだと思っていたし、勇者だと名乗るこの者達は、偽物だとも思っていた。自惚れた人間が良く口にする称号だからだ。実際の勇者を知るエルフ族に、勇者を名乗る者はいない。それに百にも満たない人生だが、それなりに大陸を巡り、自身が強者であるという自信が少なからずあった。女には目の前の少年達に強者の雰囲気を感じなかったのだ。
だから油断した。
自分の全速に追いつき、追い詰められるなど思ってもいなかった。
『風よ!』
短縮した詠唱で、風の属性魔法による風刃を生み出そうとするも、発動前に魔力が霧散した。身体強化もいつの間にか解除されていた。エルフとバレたのは偽装魔法も解除されていたからだろう。
女には何が起こっているのか分からなかった。
理解できたことは、魔法が使えないということ。
細剣を構え、剣のみで戦う姿勢を見せた女を見て、少年の一人が呟く。
「面倒臭ぇな」
「えー? 何?」
「いや、コイツ捕まえて、またあそこまで戻るんだろ? 面倒臭くね?」
「うーん、わからなくもないかも。でもハヤトは捕まえろって言ってなかったっけ?」
「別に殺したって良くね?」
「それにこの女、エルフだよ? あの奴隷の仲間なんじゃない?」
「んー、とりあえずボコってから考えるか……」
そう言って、一人の少年が女の前に出る。拳を鳴らし、どうやら素手で相手をするようだ。
「舐めるなっ!」
女は素早い刺突を少年に放つ。身体強化を使っていないとは言え、目にも止まらぬ速さだ。その正確で素早い刺突が、少年の胸を突く。
ガキンッ
女の細剣は少年の胸には刺さらず、固いモノに阻まれた。裂けた衣服から見える肌には傷一つついていない。服が裂けたことから何らかの障壁ではなく、肉体の強度が尋常じゃないことを瞬時に悟ったエルフの女は、目を見開いて驚いた。
「なっ!」
そして次の瞬間、驚愕して動きの止まった隙を狙われ、女に劣らない速さで迫った少年は、女の顔を殴りつけた。
「あー 顔は止めようよー」
「うるせーな。女を黙らすのは顔が一番なんだよ」
「サイテーw」
飛竜に乗っていた少年はニヤニヤしながら、女が殴られているのを見ている。関心が無さそうなもう一人の少年は、やれやれといった様相で成り行きをただ見ていた。
「くっ!」
殴られた女は、すぐに起き上がり、刺突をなおも繰り出す。先程から魔法が全く発動しない。にもかかわらず、少年の体に剣が刺さらない理由が分からないでいた。斬れるのは服だけだ。
「あーあ、服が……。どうすんだよコレ。一着しかねぇんだぞ?」
少年は、女が繰り出す刺突が体に当たるもそれを避けようともせず、体に当たる刺突を無視して下段蹴りを放つ。
「いぎっ!」
女の左足があっさり折れ、激痛に足を抑えて女がその場に沈む。
少年は足を抑える女にすぐさま馬乗りになり、何度も顔を殴打する。
「や、やめっ……がっ やっ……」
防御した腕も拳で圧し折られ、美しい顔が無残に潰れていく。少年とは思えない尋常じゃない膂力。女の鼻が潰れ、歯が何本も折れる。顔全体が歪に腫れ上がり、皮膚が裂ける。女の意識は徐々に薄れていった。
「あーあ、美人が台無し~」
飛竜から降りてきた少年は、そう言いながらもズボンのベルトに手を伸ばしていた。馬乗りになっていた少年も同じく、息を荒くしてズボンのベルトに手を掛けている。このまま凌辱する気だ。
「俺は
「えーマジで? エルフだよ? もったいない」
「いや、無理だわ。てか顔見ろよ? グチャグチャじゃねーか」
下劣な会話をした後、凌辱することを拒否した少年は木陰に座り、懐から小さな本を出し読み始めた。助ける気も止める気も全くないようだ。
馬乗りになった少年が、鼻息を荒くして女の胸当てを強引に剥ぎ取る。金属プレートが革ベルトで胸部に装着されてた防具だが、少年の尋常ではない力でいとも簡単に引き千切られる。続いて衣服も力任せに破り始めた。白い肌と形の良い大きな乳房が露わになる。女は殴られ過ぎて意識が混濁しており、抵抗する素振りはない。
ボッ
木陰で座っていた少年の頭が突然吹き飛んだ。頭を失い、力を無くした体がゆっくりと倒れる。女に夢中の少年二人はそれに気付いていない。
先に異変に気付いたのは、少年が乗っていた飛竜だ。
グシャッ
しかし、飛竜が鳴く前にその顔面が潰れた。
ボッ
再度、衝撃がワイバーンの顔面を襲い、その頭に風穴が開いた。
ドシンッ
飛竜が地面に倒れ、その振動でようやく二人の少年が異変に気付く。
「ん? なんだ?」
ボッ
馬乗りになっていた少年が振り向いた瞬間、その頭が吹っ飛ぶ。
「僕の飛竜がっ! ……え?」
飛竜に乗っていた少年が気付いた時には、馬乗りになった少年は、頭の無い首から大量の血を噴き出しながら、女に倒れ込んでいた。
ゴッ
「がはっ!」
少年の腹部に衝撃が走る。
「な、なん……?」
腹部の衝撃の正体は、拳ほどの大きさの石だった。
「い、石?」
少年は、口から血を吐き、腹に当たった石に困惑した次の瞬間、首筋に何かが巻き付く感触の後、意識を失った。
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