第8話 冒険者ギルド③

 冒険者ギルドの初期講習を受けてから十日ほど経った。


「おめでとうございます! 本日よりレイさんは、F等級冒険者です。こちらの冒険者証と、この魔水晶に魔力の登録をお願いします。それと、登録料として銀貨一枚頂きます」


 そう言って、冒険者ギルドの受付嬢が鉄製のプレートがついた首掛けを渡してきた。軍人が付けるドッグタグみたいだ。裏には俺の名前と等級が彫られている。



 G等級の依頼は、一週間であっさり終わった。スライムの間引きは、焼いて小さくするだけの簡単な仕事だった。長い棒状の先端から火が出る魔導具を使うので、大した手間ではない。便所ということもあって銀貨一枚の報酬の割に人気がなく、依頼が多かったことと、一度で一泊分の宿代になるので、最終的にはこればかり受けていた。残りの時間は資料室で過ごした。女神の知識もあるので補足資料を読む程度の量で済み、大体の資料の内容は頭に入れてある。新しい体のおかげか頭に情報がすんなり入ってくれたので助かった。


 便所スライムの仕事で、街のあちこちの施設に入る機会があったが、驚いたのは教会だ。


 なんとあの女神、マジでこの世界で信仰されていた。『アリア教』といって、この大陸で最も信仰されている神らしい。説明してくれたシスターには申し訳ないが「アンタが信仰してる神、結構ヤバいよ?」と言ってやりたかった。


 素っ裸に無一文の恨みは忘れてない。


 ちなみに教会は治療院としての機能もあるらしく、教会の神官になるには『回復魔法』を習得せねば就くことができない。治療には結構な金額を請求されるらしいので、大抵の怪我や病気は、薬草を原料にした回復薬ポーションと呼ばれる薬や、薬師の調合した薬を使って治すみたいだ。ただし、品質はピンキリな上、それほど安くも無い。回復魔法を使ってもらうよりは安い程度だ。


 教会には孤児院も併設されており、多くの子供達がいて昔を少し思い出した。元から父親はおらず、母親も子供の頃に亡くした俺は、数年だが孤児院で暮らしていた時期があった。当時は昭和の終わり、体罰や虐待が当たり前のように行われ、学校でのいじめは今より暴力的だった。いじめなんて自然界の動物だってやるんだ。いじめを無くす努力は必要だが、無くなることなんてないだろう。


 幸いにもここの孤児院では笑顔の子供が多かった。食生活は厳しいものが窺えたが、今の俺には何もしてやれることはない。便スー(便所スライムの略)のにいちゃんと呼ばれ、鼻を摘ままれて揶揄われたが許してやった。



 カウンター上のボウリング玉のような水晶、『魔水晶』と言われた聞き慣れない素材の玉と、冒険者証に魔力を流す。


「これでレイさんの魔力を登録できました。今日からF等級の依頼を受けられますので、今後の依頼は掲示板から依頼書を取って、こちらにお持ちください。『常時依頼』の印がある物はお持ち頂く必要はありません。依頼の納品物や討伐の証を直接お持ち下さい」


 銀貨一枚を支払い、冒険者証を首に掛ける。万一紛失して他人が使おうとしても使えないらしい。さっきの魔水晶も含めて一体どんな仕組みか気になるが、調べるのは後でいいだろう。


 まずは依頼だ。F等級から街の外に出られるらしい。まあ、光学迷彩の魔法でいつでも外には出れるが、堂々と門をくぐれるようになったのは嬉しい限りだ。


 F等級の依頼の中で、薬草採取の依頼を受ける。これは常時掲出の依頼だ。主に回復薬ポーションの原料に使われる薬草を採取し、受付に持ち込むだけで、採取した量と品質に応じた金額が支払われる。この薬草、魔素の濃い森でしか育たないらしく、人が住むような場所では栽培できないものらしい。必然的に森に採取しに行かなくては入手できないので、常時依頼があるという訳だ。他には小鬼ゴブリン大狼ダイアウルフ大猪グレートボアなどの、ファンタジーらしい魔物の討伐依頼も常時掲出の依頼で、魔物の体内にある『魔石』と死体の一部、もしくは素材を持ってくる内容だ。中々興味を惹かれる内容だが、今はやるつもりは無い。態々、魔物を森で探すのに時間が掛かるし、今は他に優先することがあるからだ。


 勿論、薬草を採取するのが目的では無く、街の外で魔法や肉体の鍛錬をしたくて森に行きたかった。ギルドの訓練場は、絶えず人の目があるので利用はしたくない。


 本来はギルドに併設された酒場や訓練場で、他の冒険者とコミュニケーションを取り、情報を収集したり、パーティーに勧誘したり、されたりして活動するのがセオリーらしいが、俺には関係が無い。


 依頼の薬草は資料室の本にのっていたし、脳内にも画像がある。とっと採取して、空いた時間で鍛錬しようと思う。この十日間で考えてた魔法も試したいし、何より運動不足だ。


 俺は、掲出された依頼を確認し、ギルドを後にした。


 …

 

 衛兵のいる城門を潜り、街から出る。城門を出る時に『冒険者証』を衛兵に見せ、目的を告げる。出るのは簡単だが、帰って来る時には簡単な荷物検査を受けるので、なかなか面倒だ。


 街を出て森に入ると、身体強化に魔力を注ぎ、肉体を強化する。同時に探知魔法を展開し、動体反応を見ながら人や魔物の反応がない場所、且つ、街から十分離れた場所まで森を走る。


 二つの魔法は自然に展開できるようになっていた。この魔法は、街にいる間も練習はできたし、身体強化に至っては、極薄くだがほぼ常時展開している。探知魔法の欠点は、室内など壁に隔たれた場所では効果がないことだ。便利な魔法だが、屋内では殆ど意味が無い。今は他の探知方法も考えている。


 勇者達を狙う上で、他の勇者に気づかれずに全員を始末できればいいが、それは難しいだろう。理想は全員揃ってるところを爆弾などで一気に仕留めることだが、あまり現実的ではない。一か所に勇者達を集めるのも出来るか分からないし、一度にチート共を殺す手段もまだ無い。核兵器の構造は知っているが、魔法で生み出せるかというと現段階では難しいし、一般人を巻き込むつもりも無い。やはり一人一人暗殺していくのがベターだ。


 恐らくどこかのタイミングでこちらが狙われることになる。その対策もしておかなくてはならない。 プロの殺し屋は、殺す技術と同時に、殺されない為の準備ができてはじめて一人前だ。

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