第7話 冒険者ギルド②

――『冒険者ギルド ロメル支部』――


「よし、今月の初期講習をはじめるぞ。全員席に着け」


 五十代半ばぐらいの大柄な男が、室内にいる『冒険者見習い』達に向けて、大声を上げる。


「俺はこのロメル支部のギルドマスター、ガルシアだ。まずは、ようこそ冒険者ギルドへ!」


 学校の教室程の広さの部屋に、十数人の男女が講習を受けに来ていた。十代半ばだろうか、皆若い。それぞれ連れ合いで来ているらしく、いくつかのグループで固まって座っている。ぼっちは俺だけだ。


「最初に冒険者の規則が書いてある用紙を配る。字が読めない者は、読める者に後で聞け。用紙は後で回収するから汚すんじゃないぞ?」


 そう言って、ガルシアは用紙を配りながら説明を続ける。


「冒険者にはA~Fまでの等級があるが、今この場にいる者は全員G等級、見習いだ。これは受付で聞いたと思うが、G等級の依頼を十件達成して、晴れて正式な冒険者として登録できる。元々『冒険者ギルド』は、大陸中にあった『狩人ハンターギルド』や『傭兵ギルド』、古代遺跡の発掘をしていた者達などが、かの『勇者』達を中心に統合して生まれた組織だ」


(勇者ね……。昔もいたのか? この辺りも調べないといけないな)


「多くの者が『竜』を討伐するような英雄願望や、大金を求めて冒険者を志望するが、ギルドの依頼は魔物の討伐から飯屋の皿洗いまで多岐に渡る。街の雑用はやりたくない、魔物を討伐をして英雄になりたいという者は、是非、騎士や兵士の門を叩いて欲しい。自分のやりたい仕事を選り好みして生計を立てられる冒険者は極一部の者だけだ。なお、特例として騎士や魔術師、然るべき教育機関で学んだ学者などは、D等級からスタートできる。それなりの実績が必要で、審査もあるので、経歴がある者は、後ほどカウンターの受付まで申し出ろ」


 どうやらスキップできるらしい。それに、地球の傭兵とシステムが似ている。傭兵なんて、車の運転と英語が話せれば誰でもなれる。勿論、先進国での話しだ。途上国や紛争地域に行けば、子供でもなれるぐらいに敷居はもっと下がる。だが、経歴や実績でその待遇と報酬はガラリと変わる。何も戦闘だけが傭兵の仕事じゃない。傭兵と言っても運転手や給仕の仕事、事務仕事もある。戦闘の可能性のある仕事には、経験と実績がないと配置されないが、経歴によって報酬は何倍も変わる。


「まずは簡単な依頼をこなしながら、ギルド内の資料室や訓練場などで知識と技術を身に付け、冒険者としての技量を培って欲しい。ギルドでは有料で各種技能の講習も定期的に行っている。こちらも是非利用してくれ。……ここまでで何か質問はあるか?」


 規則ルールを読んでいた俺は、気になる部分を質問する。


「F等級以降の昇級基準、条件が知りたい。C等級まででいい」


「フンッ、生意気なヤツだ。だが残念ながら昇級基準は非公開だ。大陸共通の基準に従い昇級が決定されるが、依頼達成の件数や内容、パーティー人数や適性が判断材料とだけ言っておく。等級は個人とパーティーの二つに分けて与えられるが、パーティーの等級は、所属する人員の平均等級がその等級になる」


(昇級基準が不明瞭とは、冒険者から不満は出ないのか? このオッサンの匙加減でどうにでもなるなんてことがあるなら、やる気が失せそうなもんだが……)


「パーティーについて良い機会だから話しておこう。パーティー人数は何人でも組むのは自由だ。だが依頼料は一件毎の固定料金と一人頭に出る場合がある。ギルドの依頼は圧倒的に前者が多い。人数が多ければ依頼の成功率は上がるが、一人当たりの収入は下がる。かと言って、少人数がいいのかと言えば、お勧めしない。少人数での依頼は失敗の可能性が上がり、それはすなわち、メンバーの死に繋がるからだ」


 何人かの唾を飲み込む音が聞こえる。失敗すれば死ぬような仕事なんて、大人でも躊躇するだろう。十代の子供なら尚更だ。冒険者ギルドか、地球なら人権団体が騒ぎそうな業態だ。


「また、偏った編成もお勧めしない。全員の特技が『剣術』と記入したパーティーがここにいるはずだが、誰かは『斥候スカウト』の技能を習得しなければ目当ての魔物は見つからないし、『弓術』や『魔法』などの遠距離攻撃の手段がなければ、護衛の依頼は受け難くなる。荷を安全に運びたい商人が、荷物の目の前でしか戦えない者と、先制したり離れた距離から交戦できる者がいるパーティーなら、依頼は後者に頼むからだ。心当たりのあるパーティーは、『斥候スカウト』と『弓術』の習得を強く勧める。ギルドでも有料で講習があるのでそれを利用してほしい。『魔法』に関しては、残念ながら誰かに弟子入りするしか、習得の機会が無いのがここの現状だ」


「残念ながら、新人の生存率は著しく低い。友達同士だから、同郷だからと安易にパーティーを組み、パーティーの構成や技量差の問題を先送りにしてる者が多いからだ。バランスの欠いたパーティーは、危機的状況での生還率が恐ろしく低い。普段は仲良く誤魔化していても、予期せぬ危険にはボロが出る」


「今現在、パーティーを組んでいる者は、自分達の技量や適性を早期に見極め、解散や脱退、パーティーメンバーの入れ替えも視野に入れておけ。生死に関わることだ、決して後回しにはするなよ? 薬草採取の依頼でも魔物に遭遇しない保証は無い。あの時ちゃんと考えれば良かったなんて、誰かが死んでからじゃ遅いんだからな。それと、一人の者は掲示板で仲間を募集したり、募集に応募してパーティーを組むことだ。一匹狼を気取るヤツが毎年いるが、単独ソロでの冒険者活動は自殺行為とだけ言っておく」


「パーティーの適正人数は概ね四~六名。斥候、前衛、補助や支援、魔術師や弓使いがいるのがバランスがいい。詳しくは資料室で資料を見たり、酒場や訓練所で他の冒険者に聞け。自分で情報収集するのも冒険者に必要な技量だ」


 ガルシアは、部屋にいる全員を見渡して言う。全員、互いに視線を合わせないが、それぞれ何か思うところがあるのかもしれない。


(こりゃソロのままだと確実に目立つな。かと言って誰かと組む気は全くない。C等級に上がったらさっさと街を出よう)


「他に何か質問が無ければ用紙を返却して帰っていい。G等級の依頼は、貼り出さんから受付で選んで受注するように」



 俺は用紙を返却し、一足早く部屋を出た。室内では字の読める者に集まるようにして皆、用紙を見て話し合っている。読み書きができる人間は少ないようだ。


 後に知ったことだが、この読み書きがC等級の条件の一つだったりする。この時ガルシアは忘れていたのか、敢えて言わなかったのか、理由は分からないが、個人は勿論、最低でもパーティーに一人は読み書きの出来る人間が居ないとパーティー単位でのC等級には上がれないらしい。どんなに強くても文字が読めなきゃ、一生D等級止まりだ。


 部屋を出て、G等級の依頼を受付嬢から見せてもらうが、見事に雑用ばかりだ。依頼料は大銅貨二枚〜銀貨一枚まで色々ある。酒場の掃除からゴミ処理、荷下ろしなどの力仕事、書類整理などの事務作業まで、街のお手伝いレベルの仕事内容ばかりだ。変わったものだと、便所のスライムの間引きなんてのもある。


(やっぱアレ増えるのか……)


 短時間で終わりそうなものをいくつか選んで、空いた時間は資料を見ることに時間を使うことにする。仕事の内容は何でも良かったが、当然スライムは受けた。実に興味深い。


「資料室はどこにあるんだ?」


「地下にあります。利用の際は、受付で記帳をお願いします。利用時間は朝の鐘から夕方の鐘が鳴るまでです。持ち出しは厳禁なので、ご注意下さい。飲食も禁止です」


「了解した。早速だが利用したい」


 依頼は明日からなので、今日はこのまま資料室に籠る。


(さて、とりあえず冒険者の身分は得られたな)

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