第4話 街へ②
夜になるまで森の木陰で息を潜め、街へ潜入後の予定を詰めておく。
まずは服。服屋を探して衣服を拝借する。異世界に来ていきなり窃盗とか情けなくなるが、すべて女神の所為だ。
次に金。やはり先立つものがなければ何もできない。
それと言葉だ。一応、この世界の言語は全て頭にある。この世界は大陸共通語と言われる共通の言語と、亜人などの他種族の扱う独自言語があるが、全て話せるし、字も書ける。これには女神に感謝だ。ただ、発音やイントネーションはどうかわからない。言語が同じでも、地域によっては発音やイントネーションが違うかもしれない。東京の人間が大阪に行けば、会話で関西の人間じゃないのがすぐバレる。それでも日本なら問題にならないが、この世界ではどうなるかわからない。外国人だとバレた時の現地の反応は未知数だ。ちなみにアフ〇カなんかの奥地だと普通に殺されたりする。人種が違うだけでも殺される。先進国の倫理観のまま行動するのは危険だ。
衣服や金を手に入れたら後は身分、職業だ。と言っても、俺はこの国の人間でもないし、何かしらの経歴があるわけではないので、就くことのできる職業は限られるだろう。どこかの店に頼み込めば働かせてもらえるかもしれないが、いずれ勇者のいる国や街まで行かなくてはならないので、なるべく身軽に行動できる立場でいたい。
女神の情報に職業や身分についての知識が意外にもあったので、その情報から『冒険者』一択になってしまった。ファンタジーものでお馴染みの職業だ。本当は商人あたりが良かったが、商人になるにはある程度の資金と信用が必要みたいなので断念する。まあこの世界の流通や商品知識などは全く分からないので、どの道無理なんだが。
『冒険者』は、身分のない孤児から貴族まで、犯罪者以外は誰でも簡単になれる職業らしい。ある程度、冒険者としての実績を積めば、国外への移動も自由にできるみたいだ。勇者達がこの国と別の国にいるかもしれないことを考えると、国を自由に移動できるのは商人でも難しいらしいので、冒険者で実績を積む方がいいだろう。
脳内にあった冒険者の知識はそれぐらいで、あとは実際に現地で聞くしかない。
…
魔法の練習をしたり、女神の知識を参照したりしていたらあっという間に夜になった。
城門は日暮れに閉まり、城壁の上から衛兵が監視するように立っている。
月を見て、深夜まで時を見計らい、光学迷彩を施す。見えていないと信じて城壁に歩いていく。一応の確認の為に、あえて監視する衛兵に近づいてみるが、こちらに気づいている様子はない。
衛兵に気づかれないまま城壁に到達。壁の表面は均一ではなく凹凸が多い。前世で仕事に役立つと思い、ボルダリング技術は習得しているので、これくらいは楽に登れる。
城壁の上から街を見渡す。街並みはやはり中世ヨーロッパ風。灯も少なく、建物の裏路地などは真っ暗だ。街灯は大通りに面した道にわずかにある程度。電球でも松明でもない。魔導具というヤツだろうか?
元から夜目は利く方だったが、この体になって、更に見えるようになっているので、暗がりは特に問題無い。
殆どの建物は、閉まっているようだが、人の喧騒が聞こえる場所もある。酒場だろうか? 人通りは殆ど無いが、たまに見かける人間は西洋風の顔立ちで、東洋人らしき人種は見かけない。
(しかし、見かける人間は少なからず武装してる者が多いな)
治安は余り良くなさそうだ。まあ、それでも日本に比べればどこも治安は良くないだろう。夜中に出歩けるだけでも日本は稀な国だし、女性一人が夜中に出歩ける国は世界中で日本だけだ。
人通りも少ないので、壁を降り大通りに向かって服屋を探す。幸いにも店の入口にはその店を表す看板が掲げられてるので、すぐに店を見つけることができた。
ガラス窓があったのは意外だったが、中を覗くとどうやら古着屋のようだ。丁度いい。建物の裏に回り、中に入れそうな出入口を探す。さすがに表のガラスやドアを壊して入るわけにはいかない。店の裏に従業員用だろうか? 表の入口と違い地味な扉があったので、そっと扉に耳を当て中の気配を探る。人の気配がしないことを確認し、身体強化した腕力で、ドアを無理矢理開ける。こういう脳筋な手法はあまり好きじゃないが、道具も何も無いので仕方ない。
店内に入り、同じような服が多いジャンルの服を選んで手に取っていく。地味な色合いのシャツにズボン、ベルト、フード付き
最初は中世ヨーロッパと思っていたが、街灯やガラス窓など近世ぐらいの文明はあるみたいだ。
店を出た後、街の地理を確認しておこうと暫しぶらつくことにした。冒険者ギルドの場所も知っておきたい。
路地の片隅に男が二人たむろしている。横目で見ながら目の前を通り過ぎると声を掛けられた。光学迷彩の魔法は、店を出た時に解除している。
「よぉ、にいちゃん、こんな夜更けに何してんだい?」
一見してザ・ゴロツキといった風貌の男二人。一人はニヤニヤしてこちらを舐めるように見ている。身長は俺より十センチ程高く、体つきは中肉中背。無精ひげに髪もボサボサだ。それにアルコールの臭いがする。酔っているようだ。二人とも腰に大振りの短剣を下げている。
無視して歩くが、再び話し掛けられる。
「無視は良くないなぁ~ なあ、お前もそう思うだろ?」
「そうだぜ~ 無視は良くねぇ。とりあえず有り金出しな」
そう言って、二人のゴロツキが近づいてきた。
ストレートな物言いで、ため息が出る。金を奪いたいならさっさと襲って漁ればいいものを、態々声を掛けるなんてとても親切な奴らだ。地球で治安の悪い地域なら、先に殺して死体から金品を奪っていく。
(案外、治安はいいようだな)
路地に入り、周りに目配りして他に人がいないか確認する。
「誰もいやしねぇよ?」
俺は瞬時に振り向き、二人の顎を掌底で打ち抜く。
ほぼ同時に白目を剥いて膝から崩れ落ちる二人の男。
「……そりゃ良かった」
男達の懐から小銭を拝借し、その場を離れる。武器は取らない。どんな犯罪に使われたか分からない武器を所持するのはリスクが大きいからだ。男達を始末しようか迷ったが、フードで顔は見られてないし、かなり酔っているみたいなのでそのまま放置した。拝借した小銭は銀貨と銅貨が数枚づつ。
この世界の貨幣は白金貨・金貨・銀貨・大銅貨・銅貨の順で価値が異なり、それぞれの価値は、白金貨一枚=金貨十枚=銀貨百枚=大銅貨千枚=銅貨一万枚だ。
物価が分からないので、それぞれがどれぐらいの価値があるかは、まだ分からない。
(そう言えば古着屋で値札は見なかったな)
また絡まれたら面倒なので、光学迷彩を発動して一旦街を出る。宿を見かけたが、この所持金で泊まれるかは分からなかったので、今日は外で野宿することにした。
(まったく、転生初日から不法入国と不法侵入、窃盗、強盗傷害か……。まあ全ては女神が悪い)
翌朝、魔法で出した水を飲み、コップが欲しいなと思いながら、昨夜と同じように光学迷彩を施して城門を抜ける。昼でも姿を十分消すことが出来てるようだ。そのまま裏路地で周囲を確認しながら魔法を解除し、昨夜調べた冒険者ギルドへ向かう。
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