第3話 街へ①
女神がインプットしたという情報は、所謂、神の目線というヤツだ。その割に、情報の欠落が多い。地図からして航空写真まんまだ。ファンタジー感が全くないのはまあいいとして、現在地も分からないし、
脳内の地図を拡大すると、自然の風景が多く、地球のような人工物は殆ど無い。思いっきり引きで見ると、この惑星には大陸が二つしかないことが分かる。細く繋がってる部分があるが、ほぼ二つで間違いない。俺がいる現在地は、この二つの大陸の内どちらかだろうが、周りの地形と照らし合わせて探しても、何日かかるかわかったもんじゃない。この世界の地図を手に入れ、脳内の地図と照らし合わせるまで、しばらくこの地図は使えそうもない。
因みに勇者達の情報だが、顔と名前、召喚された国の名前しか分からない。
やる気あるんだろうか?
魔法についての知識も、説明が真理に近い……気がする。この世界の人は、詠唱して魔法を使うけど、ぶっちゃけいらないよ、って感じだ。鵜呑みにして詠唱せずに魔法を使えば騒ぎになりそうだ。しかしながら、詠唱に必要な呪文の文言などは知識に無い。
知らずに非常識な行動を取ってしまうことは絶対に避けたい。当分、人前では魔法を使うのは止めておこう。
魔力は誰でも生まれながらにもってるそうだが、保有する魔力量は人それぞれで、体の成長期は、魔力を使い、消費した魔力の回復の際に、総量が増えるらしい。筋トレみたいだが、ここの人達は皆知ってる常識なのだろうか? この体の年齢は分からないが、まだ十代半ばだろう。身体がまだまだ成長しているのであれば、魔力の総量を増やす訓練もした方がいいかもしれない。
ともあれ、まずは現在位置……は、わからんから、とりあえず街を探す。
そして、服! 街に行く前に服だ。
「途中で野盗に襲われてる馬車とか出会わないかな……」
あてもなく歩いていて、ふと不謹慎なことを口走ってしまった。死ぬ前に読んだラノベ定番のイベントが頭に浮かぶ。
だがこれは現実。誰かが襲われてるような気配は一切ない。しかも、仮にそういったテンプレなイベントがあったとしても、素っ裸なので、変態扱いされて終わる未来しか見えない。
(そういえば、幻術とか隠蔽の魔法があるかもな……)
頭の中の魔法の知識を探りながら、適当に森の中を歩いていく。
「水も火も魔法で生み出せるから後は食料か」
森の木々や植物をよく見ると、当然だが地球の植物とは違う。傭兵として世界中をまわったが、見知った植物は見かけない。地球の生態系とは異なるのだろう。この世界にある魔素の影響だろうか?
知識にあった『鑑定魔法』を見る。
――『人や物を鑑定することができる魔法』――
「……」
属性魔法はまだ分かり易かった。魔力を火や水に変換するのはイメージがし易かった。しかしこの「鑑定」というのは、どうイメージしたらいいのだろうか?
試しに目に魔力を集中して、目の前の花を見てみるが、何も分からない。
これはこの世界の情報を調べるしかない。女神の知識には、植物や動物の画像と名前一覧みたいのはあるが、詳細は見事に無い。ホント使えん。
この世界には動物や昆虫以外にも、魔素の影響を受けた『魔物』、『魔獣』が存在する。大きさや強さはピンキリみたいだが、『魔の森』と呼ばれる魔素の濃い森の奥では、強力な魔物や魔獣が多く生息しているらしく、人間の生息域が広がらない要因になっているらしい。
今のところ、動物は遭遇してないが、丸腰なのでなるべく会いたくない。まあ、いざとなったら身体強化を施して走って逃げるしかない。
記憶の中から『探知魔法』があったので、見てみるとこれも見事に抽象的。
――『周囲の動体反応を探知する魔法』――
……あっそ。
まるで参考にならない。
仕方ないので、地球のレーダーやソナーを思い浮かべ、魔力を薄く周囲に放出し、跳ね返った感触を感じてみる。
「少し違うな……。放出するというより広げる感じか?」
魔力を広げるのにかなりの魔力を使う。もっと薄く、極薄に伸ばしてみる。
膨大な情報に頭が混乱するが、レーダーのように断続的に繰り返すことで動くものを限定して捉えることができるようになった。
探知で動くものを複数捕らえたが、大きさから小動物といったところだろう。襲って来るわけでもなく、食べれるかもわからないので、とりあえず放置だ。
「まだ探知範囲は30m程が限界だな。これも訓練次第で伸びしろがありそうだ。魔力をもっと薄くするように今後は訓練してみよう」
…
魔法を色々試している内に、森が切れ、街道が見えた。
ほっと一安心。道をたどれば何とか人里には行けそうだ。服の問題は解決してないが……。
街道に沿って森の中を歩いていく。流石に素っ裸なので、人を見かけても声は掛けられない。街に行く前に服を手に入れたいが、このままだと最悪、盗むか襲うしかない。転生していきなり窃盗、強盗とか……。まあすべては女神の所為だ。
誰にも出会うことも無く、素っ裸のまま無情にも街が見えてきた。
城壁に囲まれた街だ。城門に衛兵が立っているのが見える。衛兵の身長から城壁の高さは三メートル程と思われる。流石に大人の身長は地球と大差ないだろう。剣と魔法の世界と聞いて中世ヨーロッパを想像していたが、衛兵の見た目は、まさにそんな感じだ。簡素な鎧を纏って、腰に剣、手には槍を装備している。城壁の上の見張りに立っている衛兵は弓を持って警戒している。銃や大砲は見えない。
(城壁で街を囲っているということは、外敵の存在があるってことか。対立している国があるか、魔物に備えたものだろうか?)
木陰に隠れながら、この後どうするか考える。まだ日は高く、日没まではまだまだ時間がある。壁の高さと表面を見る限り、クライミングで乗り越えることは難しくない。だが、なんせ裸だ。どこの世界だろうと裸で街をうろつけば、捕まるのは必至だろう。
ここまでの道中で、役に立ちそうな魔法がいくつか知識にあった。その中に『認識阻害』、『幻術』、『隠蔽』などがあるが、女神の知識の説明には効果のみで、使い方や詳細は載っていない。ホント役に立たん。
前世の知識の中で試したいことの一つを練習する。
所謂『光学迷彩』というやつだ。アニメや漫画の中で空想技術としてお馴染みだが、実はすでに実現はされている。といっても実戦使用に耐えるものはまだだが、モノとしては成功している。様々なアプローチから実用化を目指している技術ではあるが、魔法を用いて実現するとなると、光を回折させて透明化させる方式を試そうと思う。
人間の視覚は、光が物体にぶつかり、反射したものを色や形として認識している。光か闇の属性魔法で光を吸収するか、光を反射せずに体の反対側へ通すよう透過させて、自分の身体を認識できないようにする。
闇属性で光を吸収しようとしたが、よく考えるとただ真っ黒になるだけだなと思い、これは止めて光を回折させる方向でいこうと思い試してみる。全身を魔力で生成した膜で覆い、膜には光を屈折して後方に通すイメージを付与する。
手を見ると、空間が歪んで手の先の風景が見える。成功だろうか?
『幻術』や『隠蔽』は他人に確認してもらわないと成功してるかどうかの判断ができない。いずれ協力者を作って『認識阻害』などは早期に習得したいが、まだ先の話だろう。
魔力消費がそれなりにあるので、夜まで待ってから行こうと思う。出会う人間は少ない方がいい。
もしバレたら走って逃げよう。
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