第2話 転生
鈴木改めレイと名乗ることにした俺は、気づけば木々に囲まれた森にいた。
「くそっ! やっぱり裸かよ……」
女神にはまだ聞きたいことがあったが、一瞬で異世界に下ろされてしまった。まさかとは思ったが、全裸に手ぶらだ。まずは服探しからとは先が思いやられる。
とりあえず、服のことは後で考えるとして、まずは新しい肉体と、女神がインプットしたと言っていた情報の確認をしよう。
肉体年齢は十代半ばぐらい。両手を見つめて拳を握り開き、新しい肉体の感触を確かめる。当然だが、以前と大分違う。体が軽く、力もかなりある。女神が自信もって言うだけはある……のか? 確かに自分の全盛期の身体に比べて力は強そうだが、女神が最強と言ってた割にはそれほど際立った肉体とは思えない。しかし、ついさっき死ぬまで、病気でかなり体が弱っていたから健康な身体に感動は覚える。ただ、若干のズレのようなものを感じる。不具合があるという訳では無いが、馴染んでいないというような妙な感覚だ。
「まあ、そのうち慣れるか……」
ふと、体の中に前世では感じられなかった感覚に気づく。ひょっとしてこれが『魔力』だろうか?
目を瞑り集中して意識を向けると、胸の中心、心臓辺りから湧き上がる未知の力を感じる。女神の情報を思い出すように記憶から探り、これが『魔力』というものだと理解できた。
全身に巡らすように意識して魔力を流してみる。内なる力が思うようにコントロールできるのは不思議な感覚だ。前世で『気功』というものを体験したことがあったが、似たようなものだろうか……。
「女神の情報によるとこれが『身体強化』か?」
頭の中にある情報を見て、魔力による『身体強化』というやつを試してみる。体内に魔力を循環させ、肉体の強度と運動能力を向上させる強化魔法だ。巡らせた魔力を拳に集中させ、近くの木を殴ってみると、直径三十センチほどの木があっさり折れた。
「おいおいマジか……。威力ヤバいな。これは加減を練習しないとな」
しばらく腕や足に魔力を流し、色々試してみる。中々おもしろい。目を強化すれば視力が、耳に意識すると聴力も強化される。流す魔力の量とイメージで効果の度合いも変わるみたいだ。
続いて『魔法』の発現に挑戦してみる。女神の情報によると、『魔法』とは発現させたい事象を、『魔力』というエネルギーを糧に具現化することにあるらしい。この世界の一般的な魔法使いや魔術師といわれる者達は、呪文の詠唱により、イメージと魔力量を定量化して現象の発現を安定化させているようだ。他にも魔法陣や魔導具と呼ばれる魔法の道具を用いて、発動の簡略化や消費魔力の節約など、他にも様々な発動方法があるみたいだ。
しかし、女神の情報に呪文や魔法陣の情報は無い。
「……」
肝心な部分が無い。
「どうやって魔法を使うんだ?」
ダメ元で、身体強化のように、魔力を手に集めて『火』をイメージしてみる。
……何も起こらない。
もう少し『火』のイメージを具体的にしてみる。ライターの火を強くイメージして再度挑戦する。
指先程の火がライターのように灯った。
意外と簡単だ。インプットされた女神の情報のおかげか、新しい肉体のおかげか、或いはその両方だろう。簡単に魔法が使えて嬉しい反面、戦闘ではもう少し訓練しなければとも思う。人を殺傷し得る威力をイメージするのは簡単だが、それを思い描いてイメージを固定化するのに集中する時間が結構いる。それに、いざ実践するとなると、周りに被害が出ないように、場所や状況を考慮する必要がある。まだこの辺りの地理も把握してないし、火事でも起こしたら大変だ。
しかし、今ので魔法には呪文の詠唱は必要無いことが分かった。肝心なのは明確なイメージと魔力コントロール。体内の魔力をイメージ通りに変換する。呪文の詠唱はそのプロセスをルーティーン化して発動を安定させているに過ぎない、と思われる。なんにせよ、戦闘中に魔法を使用するなら、まだまだ練習が必要だ。息を吸うように魔法を扱えなければ戦闘で使うのは難しい。女神の知識には無いが、詠唱を覚えるのもいいかもしれない。
ただ、詠唱を知ったとしても人前で発声するのは勇気がいる。大の大人が「ファイヤーボール!」とか叫べるか? いや、恥ずかしくて叫べない。
女神の知識にある、魔法における火・水・風・土・光・闇の六属性魔法は土と闇属性以外は普通にできた。何故か土属性だけ上手くいかない。
土の壁を生み出すとしよう。
土の組成ってなんだ? ってなる。漠然と土の壁をイメージするとしても、土の成分や組成が気になって、単なる「土」としてイメージが固まらないのだ。
頭の中で元素周期表が散らかる。
試しに『鉄』をイメージし、鉄の塊を生み出すと、生み出せることは生み出せるが、他の属性より魔力がごっそりもっていかれる。まだまだ魔力に余裕はあるが、これではコスパが悪い。
この世界の土魔法は皆どうやってるのか非常に気になる。
因みに闇属性魔法は、主に生き物への状態異常を引き起こす魔法らしいので、今は試せない。
他にもいろいろな魔法があるみたいだが、今はまず、街を探そうと思う。いつまでも森に素っ裸でいる訳にはいかない。
ここがどこかもわからないので、頭の中の地図を探る。
グー〇ルマップの航空写真のような地図が出てきたが、まず現在地が分からない。
「……」
目隠しされて飛行機に乗せられ、連れてこられた森の中で目隠しを取り、渡されたのは世界地図。
そんな感じだ。
「くそっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます