一週間で引っ越しの準備を整えますよ。

 神殿から正式に聖女死去の発表がなされると、国民は喪に服するかのように黒い装飾品をつけたりすることが流行っています。


 正式発表では聖女は病死となっています。




 同時に、王太子と聖女との婚約が解消されて、私のもとに下の兄であるエドガー兄さんがやって来ました。




「フーレリア。聖女の死去に伴って、アルトマイアー家に戻ってこいと父上が仰られた。それと王太子殿下との婚約話が再燃しているそうだ」




「そうですか。でも私には私の生活というものがあるのですよ」




「……? 何を言っているんだ。王太子殿下との婚約だぞ。迷宮都市にいられるわけないじゃないか」




「あー……そうなりますね。しかしこちらも仕事を抱えているのですが……」




「そんなもの、ウチの錬金術師にでも肩代わりさせればいい。なんでもいいから、王都の屋敷に戻ってくるんだ」




「はい。でも錬金術師の派遣は必要ありませんよ。弟子がいますから、仕事はそちらに引き継ぎます。準備期間として一週間ほど貰えますか?」




「分かった。それでいいだろう」




 エドガー兄さんはどうやら私の工房に泊まるつもりだったようですが、ドッペルゲンガーやスロイス先生について説明するのが面倒なのでヴェルナー伯爵家で引き取ってもらうことにしました。


 オルナバス宛てに手紙を書くと、すぐに馬車で本人がやって来ます。




「エドガー様。フーレリアと学院で同級生だったヴェルナー伯爵家の次男、オルナバスと申します」




「エドガー・アルトマイアーだ。同じく次男坊だから、気軽に接してくれ」




「はい、エドガー様。迷宮都市滞在中はヴェルナー伯爵家でもてなさせていただきます」




「ああ。よろしく頼む。……それじゃあ一週間後に来るから、支度をしておくんだぞフーレリア」




「分かっていますよ」




 オルナバスにエドガー兄さんを預けた私は、奥の工房に向かいます。


 そう、〈加速の魔法陣〉の量産をしているドッペルゲンガーの片方に私の変わりを務めさせる気です。




「私は王都に戻らなくてはならなくなりました。そこでドッペルゲンガーのひとりに、私の代わりをしてもらいたいと思います」




 奥の工房についてきたホルトルーデが心細そうに「お姉さま、私は……?」と言ってきたので、頭を撫でてやりながら「安心してください」と告げます。




「〈ディメンション・ゲート〉でできるだけ毎日様子を見に来る予定です。もちろん多忙でこちらに戻れない日もあるでしょうけど」




「分かりましたお姉さま。では私はいつもどおりにしていればいいのですね」




「はい。ホルトルーデにはいつもどおり、お菓子の量産を頼みます」




 ドッペルゲンガーの片方には仮面を外させて私のフリをしてもらうことにしました。




 仕事は風耐性の紙の量産と適時やってくるお客さんの依頼をこなすことです。


 私のコピーですから、何の心配もしていません。




 さあ、私は二重生活のために家具などを揃えなければ。


 一週間で引っ越しの準備を整えますよ。




 * * *




 実家であるアルトマイアー家の屋敷から家財一式を持ち去ったため、私の部屋はがらんどうです。


 とりあえず家具を迷宮都市で用意して、〈ストレージ〉に放り込んでいきます。


 またドレスも売り払ってしまったので、迷宮都市で仕立てを依頼しておきます。


 一週間では仕上がらないでしょうから、迷宮都市に来たときに受け取ることになるでしょう。




 そんな引っ越しの雑事をしているとあっという間に一週間が経過してしまいました。

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