二重生活と復縁
異端、断固として存在を許すまじ。(by神殿長)
なぜこのようなことになったのだ。
聖女クラウディア様が復数の獣のような噛み跡により無惨に殺されたことは記憶に新しい。
今は国民に聖女の死を伏せてはいるものの、病気で通し続けるには無理がある。
近い内に聖女が亡くなったことを公表せねばならないだろう。
イライラとしていた私は、神殿長室の調度品に当たり散らしながら、迷宮都市に派遣した異端審問官の帰りを待っていた。
* * *
異端審問官には迷宮都市で悪魔であるケルベロスを使役している冒険者についての情報収集を任せている。
ケルベロスを使役する邪法を一体、どのように入手したのかは不明だが、この件が聖女暗殺に関わっている可能性は高いと見ている。
少なくとも、悪魔を自在に使役するなど寡聞にして聞かない。
ケルベロスを使役している冒険者か、その関係者が聖女暗殺に関わっているはずだ。
……半ば以上、私の願望が入ってはいるが。
そうであって欲しい。
下手人が特定できれば、聖女を殺した者として神殿が総力を上げて一族郎党を抹殺する大義名分ができる。
死んだ聖女は戻ってこないが、神殿の、その長である私の落ち度は少なくとも帳消しにできるだろう。
そう、今の私は聖女をむざむざ守りきれなかったことで敵対派閥から突き上げを食らっているのだ。
この状況をなんとか脱するためにも、聖女を暗殺した者を挙げなければならない。
* * *
迷宮都市に派遣していた異端審問官が戻ってきた。
その報告は驚くべきものだった。
アルトマイアー侯爵家のフーレリアが、悪魔召喚と死霊魔法を使いこなしているというのだ。
しかし【真偽判定】のスキルを持つ異端審問官は、同時にフーレリアとその周囲の人物たちが聖女暗殺に関わっていないとも報告してきている。
王都中をくまなく調べ、また迷宮都市にいる悪魔を使役する冒険者たちについても調べ、しかし結局、聖女暗殺の実行犯を見つけられない。
……私の神殿での立場は終わったか。
聖女の暗殺者を挙げられなかったのは痛恨事だ。
敵対派閥はこの一事をもって私の責任問題として追及の手を緩めることはないだろう。
私の神殿長としての最後の仕事は、聖女の訃報を発表することになるはずだ。
しかし異端であるフーレリア・アルトマイアーについては、見過ごすことはできない。
聖女の死を発表すればフーレリアはアルトマイアー家に戻り、王太子との婚約が再燃することだろう。
この国の王妃になろうという人物が悪魔や死霊を使役するなど、悪夢以外の何ものでもない。
異端、断固として存在を許すまじ。
私は神殿長を退いた後、異端審問官らに働きかけてフーレリアの抹殺を願い出るつもりだ。
これはこの国の将来を憂う国民のひとりとして当然の行動である。
おお神よ、どうか邪法に手を染めたフーレリアに天罰を!!
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