そんな態度には見えませんでしたよ!?
「それにしてもクリスが迷宮都市で私のことを守っていてくれたとは知りませんでした」
「本当ならば姿を見せるつもりはなかったのですが、神殿が何を言ってくるか分からなかったもので。同席して正解でしたね」
「はい。感謝しています。ありがとうクリス」
「いえ、感謝は王太子殿下に」
「……そうですね」
婚約破棄と実家追放の件については、両方とも聖女が原因だと分かっています。
もともと婚約破棄の件で王太子を恨んではおらず、納得してしまった私ですから、ただ感謝だけを捧げたいと思います。
――ありがとうございます、殿下。
さて問題は明日、一号たちへの質疑応答ですね。
異端審問官がどのような質問をしてくるのか分かりませんが、【真偽判定】のスキルは厄介です。
今晩だけで対策を練られるのか、と思っていると、クリスが両手を組んで机の上で微笑んでいます。
あ、この笑顔は怒っているときの顔ですよ。
「フーレリア様。私はこの工房の出入りも見張っていました。仮面を被った三人の冒険者が出入りしていないことを、私は知っています。どういうことか説明していただけますか?」
「あー……そうですね。クリスには味方でいて欲しいので、私の手の内を見せておきましょうか」
私とホルトルーデは奥の工房にクリスを案内します。
窓のない工房。
内部は今、スロイス先生とインプが古代語の書物を読みふけっているところです。
そしてふたりのドッペルゲンガーが〈加速の魔法陣〉の量産に集中しています。
「なっ――!?」
「そちらのスペクターはスロイス先生です。ヴェルナー伯爵家に縁ある方の霊魂をアンデッド化したもので、私の支配下にあり、知識を借りています。そしてその小さいのはインプ、悪魔です。その机で作業しているのはウチの工房の手伝いをしてくれている部下です」
「アンデッド、それに悪魔。窓のない工房を増設していたのは、これを見られないため、でしたか」
「そうですね。あとそろそろ戻ってくるはずですよ」
「え?」
ちょうど〈ディメンション・ゲート〉が開き、一号たちが戻ってきました。
「本体、戻りました。……あれ、クリス?」
「おかえりなさい。ちょっと面倒なことになっているので、クリスに全部バラすことにしました」
クリスは「時空魔法……」と呟き、呆然としています。
「これが私たちの秘密です。時空魔法、悪魔召喚、死霊魔法……どれも古代語の書物から得た知識で復活させたものばかりです」
「知りませんでした、フーレリア様がこれほどまでに魔法に堪能だったとは」
「秘密ですからね? それで、一号たちのことなんですが……」
〈ディメンション・ゲート〉を閉じた一号たちと、〈加速の魔法陣〉を描いていたドッペルゲンガーたちに仮面を外すよう命じました。
すると髪型こそ違えど、私と瓜二つの顔がいつつ、並ぶことになります。
「こ、これは一体――!?」
「この五人はドッペルゲンガーという悪魔です。私のことを写し取っているのですよ」
「ドッペルゲンガー……高位の悪魔ですね。聞いたことはありますが、見たのは初めてです。この五体とも契約を?」
「そうです。契約している以上は、私の命令に忠実ですよ」
「ドッペルゲンガー、それに加えてケルベロスもいるのですよね?」
「はい。影の中に悪魔を仕舞う〈シャドウ・ゲート〉という魔法があります。その中に私たちはケルベロスを飼っています」
「フーレリア様の影の中にもいるのですか?」
「はい。護身用に」
聖女暗殺に使ったのですが、そこまで言う必要はないでしょう。
「さて、問題は明日をどう乗り切るかですね。一号たちに仮面を取れ、と言われるのは想像がつきます。そうしたらドッペルゲンガーであることがバレますが……」
「バレても問題ないのでは? 彼女らは冒険者としてまっとうに活動しているのでしょう?」
「……そうですね。確かに。悪魔を実際に使っている点を突かれると痛いかと思いましたが、今日の話だとそれだけでは異端にならないらしいですし」
「オルナバスは味方ですよ。王太子殿下よりフーレリア様を守るよう仰せつかっておりますから」
「……え? オルナバスが? それはいつからですか?」
「フーレリア様が迷宮都市に着いて割とすぐだったかと」
そんな態度には見えませんでしたよ!?
「ともかく事情は分かりました。一緒に対策を練りましょう」
「そうですね。一号たちにも情報を共有して、明日を乗り越えましょう」
夕食をともにして、明日への対策会議を開きます。
さあ、正念場ですよ!
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