あとはなるようになるでしょう。
ファミリアを通じて得られた情報をまとめると、どうやら私を実家から追放せよと命じたのは聖女だったらしいことが判明しました。
なぜそんな命令が出たのか理解に苦しみますが、婚約破棄のみならず実家から追い出された屈辱は未だに心の底に澱のように沈み込んでいます。
……聖女はどうやらかなり性格が悪いようですね。
婚約を盾に王太子殿下に無理を言っているらしいですよ。
ちょっと興味が湧いたので、ファミリアを神殿の聖女の私室に移動させている最中です。
さて、何が出てくるかな?
* * *
竜の解体が無事に終わったそうなので、素材を受け取りました。
竜の血は大量に得られたので、賢者の石の錬成には何の支障もありません。
残った素材をどうするか……。
冒険者ギルドに売却してもいいのですが、〈ディメンション・ソード〉で首を落としただけの綺麗な状態の竜の亡骸です。
剥製にするのも悪くないかもしれません。
成竜の剥製なんて王家の宝物庫にもないでしょうから、巨額の富を得られると思うんですよね。
剥製の作り方はさすがに知りませんので、冒険者ギルドに職人の仲介を頼むことになるでしょう。
そのときに〈ストレージ〉の存在がバレるのが問題といえば問題でしょうか。
悩ましいですね。
正直なところ、お金には困っていないのでしばし死蔵することにしました。
* * *
聖女の私室にファミリアがたどり着きました。
天井に張り付いて擬態するファミリアを見つけることは誰にもできないでしょう。
さっそく、聖女がお付きの侍女と会話をしているところです。
「信じられない。王太子ったら、前の婚約者に未練たらたらなのよ? この聖女であるクラウディアを何だと思っているのかしら」
「聖女様の美貌と深い慈悲のお心に触れれば、そのうち王太子も心を開いてくださるのではないでしょうか?」
「どうかしらね。まあ王妃になったらこの国は本格的に私のものよ。男児を生んだら、夫となる王太子を排して、新たなる玉座に幼い息子をつける。私は影から新国王の手助けをするという形で国政に介入するの……ふふ、今から楽しみだわ」
「誰も聞いていないとはいえ、野心は隠された方がよろしいかと。貴族や王族はその辺りの権謀術数について特別な教育を受けると聞いたことがあります」
「そうなの? 謀略なんて権力のない連中のあがきでしかないわ。王妃になれば、目障りな貴族たちを粛清して、私に従順な貴族で派閥を作ることもしたいわね」
「……聖女様は、なぜそこまで権力に拘るのでしょう?」
「物心ついたときには両親はいなくて、私は貧しい孤児院で育てられたわ。たまたま視察に訪れていた神殿長が私を見出してくれたから、今の地位があるのよ。笑えるでしょう? 孤児が今や未来の王妃なんですもの!」
あーこれは駄目ですね。
私個人への仕打ちに対しても思うところはありますが、なにより国を混乱させるのは駄目です。
まさか聖女がここまで性悪だとは思いませんでしたよ。
……始末すべきでしょうね。
腹は決まりました。
後は実行するだけです。
侍女が用事を終えて出ていったのを見計らい、私は聖女暗殺を決行することにしました。
「〈ディメンション・ゲート〉、並びに〈シャドウ・ゲート〉」
ファミリアの現在地に空間を繋げて、影から悪魔を呼び出します。
送り込むのは?
安定の戦力、ケルベロスですね。
突如天井から降ってくるみつ首の黒犬。
吠えることもなく、ただ無慈悲に聖女に喰らいつきました。
「ぎゃ、何――っ!?」
激痛に顔を歪ませる聖女クラウディア。
さあ、とっととトドメを刺してくださいな。
聖女は抵抗しようにも、みっつの首から噛みつかれた傷みで魔法どころではありません。
こうなると、歳相応の少女でしかないのです。
ケルベロスはあっという間に首筋に噛みつき、返り血に濡れました。
ガクリと力なくうなだれる聖女。
どうやら死んだらしいですね。
ファミリアを壁に移動させて、〈ディメンションゲート〉を開き直します。
そして戻ってきたケルベロスを〈シャドウ・ゲート〉に仕舞い、〈ディメンション・ゲート〉を閉じます。
蜘蛛も撤退させましょう。
移動先は我が家の執務室にしておきましょうか。
うーん、ひと仕事終えましたね。
しかしこれはこれで混乱を招きそうなので、国にとって本当に良かったのかは神のみぞ知る、といったところでしょうか。
ともかく国賊は除きました。
あとはなるようになるでしょう。
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