一体まるごととなると、ひと財産ですよ。

 一号たちが遂にレッサードラゴンのいる第五十階層に辿り着きました。


 いよいよ竜の血が入手できるとあって、私もワクワクしながら戦果を待ちます。




 レッサードラゴンは成竜ですから、凶悪なまでに強いはずです。


 しかし三体のケルベロスを使役し、時空魔法を使いこなす一号たちの敵ではないでしょう。


 〈ディメンション・ソード〉で多分、一撃で殺せます。




 死体は丸ごと〈ストレージ〉に仕舞って持ち帰るよう指示してあります。


 ドラゴンはつま先から頭の天辺まで素材になりますからね。


 一体まるごととなると、ひと財産ですよ。




 * * *




「本体、無事にレッサードラゴンを撃破しました!」




「よくやってくれました。技の一号、力の二号、幻の三号!」




「あとは不死鳥の羽根ですね。血液はレッサードラゴン一体から取れるだけで十分な量があるはずですし」




「そうですね。ダンジョンの奥に進んでください。不死鳥の羽根の入手確率を少しでも上げるため、深い階層へ進むのです」




「分かりました」




「では竜の解体をしましょう」




「場所はどこでやりましょうか?」




「そうですね……悪魔召喚用に借りている倉庫を使いましょう」




「分かりました」




「手が必要になるので、〈加速の魔法陣〉の量産をしているドッペルゲンガーたちにも手伝わせましょう。当然、竜の血が最優先です。こぼさないように気をつけてくださいね」




「心得ています」




 五人のドッペルゲンガーたちが倉庫に向かいました。




 * * *




《ご主人さま、今よろしいですか?》




《どうしましたファミリア》




《お父上と兄上が、なにやら興味深い会話をしています》




《分かりました、視覚と聴覚を同調します》




《了解しました》




 ああ、懐かしい光景ですね。


 ファミリアが天井から見下ろす執務室では、久々に見る父上の下の兄上がなにやら話し込んでいます。


 手が完全に止まって雑談していますね。


 休憩中でしょうか。




「それでフーレリアは迷宮都市で錬金術師として成功を収めている、のですか」




「そうだ。領主であるヴェルナー伯爵家の長女の石化を治したらしい」




「噂に聞く石化したご令嬢ですね。確か一等級のキュアストーンポーションでなければ治らないと聞いたことがあります」




「その一等級のキュアストーンポーションを錬成したのが、フーレリアらしい」




「それは凄い。さすがはフーレリアだ」




「まったくだよ。ダンジョン産でない一等級のキュアストーンポーションなど、伝説の類だ。ウチの娘はつくづく優秀だな」




 おや、勘当されたと思っていましたが、娘扱いしてくれるんですね。




「それで父上、フーレリアは元気でやっているようですが、治安の悪い迷宮都市です。護衛はつけているのでしょう?」




「うむ。王太子からも手の者を派遣しているらしいし、我が家でも近所に拠点を設定してフーレリアの様子を定期的に見に行かせている」




「王太子が……さすがに気の毒になりますね」




「うむ。聖女はあのような悪女とは思わなんだ。次期王妃があれでは、この国にとっては大きなリスクになる」




 そういえば噂で聞きましたが、王太子殿下は聖女と婚約したのでしたね。


 神殿の誇る聖女とならお似合いかと思ったのですが、実はそうでもなかったのでしょうか。




「我が家からフーレリアを追放させた報いは受けてもらわねばな」




「ええ、王族とはしばらく距離を置きましょう。我が家をないがしろにしたことを後悔させてやりましょうね」




 ……なんですと?

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