今回はこれに一手間加えたいと思います。

 粘土を錬金釜に投入して、自分の魔力を注ぎながらかき混ぜます。


 十分に私の魔力に馴染んだら、魔力の籠もった粘土の完成です。




 今回はこれに一手間加えたいと思います。


 擬態の形質を魔力の籠もった粘土に付与するのです。


 〈原質分解〉を使ってパパっとやりましょう。




 さて準備は万端ですので早速、〈クリエイト・ファミリア〉を使いましょう。




「〈クリエイト・ファミリア〉」




 粘土がウネウネと動き出し、――蜘蛛の形をとりました。


 手のひらに乗るくらいの大きさの蜘蛛です。




「ほほう、猫や鳥ではなく蜘蛛を選びましたか」




「ええ。情報収集をさせるには蜘蛛が最も適していると思ったもので」




 スロイス先生が蜘蛛を舐めるように色々な角度から覗き込んでいます。


 いや、形状は普通の蜘蛛ですよ。




 ただし蜘蛛は壁や天井を歩くことができ、擬態の形質を持っているため保護色になることができます。


 天井に張り付いて擬態すれば、見つかることはまずないでしょう。




「して、フーレリア殿。どこに送り込むのでありますか」




「実家よ」




 具体的には父の執務室です。


 父は王城で宰相をつとめていますから、この国の中枢に関わる情報を持っています。


 その補佐として下の兄が手伝っています。


 彼らの会話から、王都や実家の様子を伺うことができます。




 ちなみに次期当主である上の兄は、領地で采配を振るっています。




 ふたりの兄には可愛がってもらっていたので、元気にしているといいのですが。




「〈ディメンション・ゲート〉」




 実家の私室に蜘蛛が通れるだけの小さな穴を開けます。




「それではファミリア、父の執務室の天井に張り付いて擬態していなさい。何か会話で気になることがあれば、私に連絡してくるのですよ」




《了解》




 念話でファミリアが返事をします。


 ファミリアの知能は人間並みであるため、臨機応変に対応してくれることでしょう。


 魔力パスが通っているので、どんな遠方であれ念話が届くのも凄いところです。




 ファミリアは空間の穴を通って、屋敷へ侵入を果たしました。


 後は任せておけば勝手に執務室の天井にスタンバイしてくれるはずです。




 さあ、どんな情報が得られるか、楽しみですね。




 * * *




 ドッペルレリアたちが帰還しました。


 みっつの乾きの石とみっつの永久氷片を携えて、です。




「よくぞ任務を果たしてくれました。後は冒険者組が不死鳥の羽根と竜の血を得てくるのを待つだけですね」




 久々に帰ってきたドッペルレリアは、自分たちの工房にスロイス先生のスペクターがいることに戸惑っています。




「ほ、本体? これは一体……」




「スロイス先生はスペクターとして蘇ったのです。今は暗号解読を手伝ってもらっています」




「なるほど……」




「あ、ふたりには〈加速の魔法陣〉の量産をしばらく頼みたいのです。流石に在庫が減ってきたので、この辺りで沢山、作ってください」




「「本体の人使いが荒い!!」」




 はいはい、そのためのドッペルゲンガーですからね?

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