私を恨んだりしていますか?

 夜の墓地です。


 護衛には〈シャドウ・ゲート〉にケルベロスがいるので、ひとりで墓地にやって来ました。




 さてシンと静まり返った墓地。


 ちょっと怖いですが、〈ゴーストサイト〉を使ってみましょうか。




「〈ゴーストサイト〉」




 ……ってうわぁ。




 そこかしこに霊魂が漂っていますよ!!


 いやさすが夜の墓地です、この光景はインパクトありすぎですね。




 ていうかちょっと霊魂、多すぎませんかね。


 いきなり墓地はやりすぎたか?




 そんなことを考えつつ、ふと見上げたところに知った顔がいました。


 〈テレポート〉で壁に埋まって死んだスロイス先生です。




 スロイスは死んだ魚のような目で私を見下ろしています。


 いや、死んでいるのでそんな目をしているのは分かるのですが、まさか知り合いの霊魂に会うとは思いませんでしたね。


 しかしスロイス先生、私を恨んでいるのかとも思いましたが、様子は穏やかでそんなことはなさそうです。


 何か地上に未練でも残しているのでしょうか?




 知らない仲でもないですし、ちょうどいいので〈クリエイト・アンデッド〉の実験台になってもらいましょうか。


 アンデッドになったら意思の疎通も可能になるやもしれませんし。




「ええとまずは〈ディメンション・ウォール〉」




 悪魔と契約するときと同様、空間の壁でスロイス先生の周囲を覆います。


 アンデッドになった途端に襲われるのは御免ですからね、必要な措置です。


 それではいよいよ使いますよ!




「〈クリエイト・アンデッド〉」




 できるだけ意思疎通の図れる高位のアンデッドがいいでしょう。


 魔力を魔法に多めに注ぎ込み、スロイス先生をアンデッド化します。


 ふむ、どうやらスペクターになったようですね。


 ゴーストよりは魔物として格上の存在です。




 さて次は支配下に置くための契約魔法ですね。




「〈コントラクト・アンデッド〉」




 はい、スペクター程度なら問題なく契約を交わせました。




「スロイス先生、生まれ変わった気分はどうですか?」




「小生は一体……これはフーレリア殿が?」




「霊魂として墓地を漂っていたので、〈クリエイト・アンデッド〉でスペクターにしたのです。今どんな気持ちです? 私を恨んだりしていますか?」




「は? なぜフーレリア嬢を恨まねばならぬのです? 小生は〈テレポート〉の座標指定を間違えて、死んだのでありましょう」




「それなんですが、魔導書を査読したところ、先生の〈テレポート〉は座標指定にミスが見つかりました。不運でしたね、壁にめり込むとは……」




「なんと! 小生は何度も見直したつもりでしたが、そうでしたか……魔導書そのものが間違っていたとは、小生、恥ずかしくて穴に入りたい気分ですぞ」




「まあまあ。失敗は成功の母とも言います。これから新しい功績を残せばいいんですよ」




「これから? しかし小生はアンデッド……街の冒険者か衛兵が飛んできて始末することでしょう。二度も死ぬのは恐ろしいことですが、……」




「いいえ。スロイス先生は既に私の配下。ウチの工房で古代語の書物の暗号解読を手伝ってもらいますよ」




「なんと! アンデッドである小生をフーレリア嬢の工房に住まわせてくれるというのですか!?」




「住まわせるというか、こういう魔法があるんですよ。〈シャドウ・ゲート〉」




 スロイス先生を影の中に隠します。


 さて、他に知り合いもいないようですから、〈ゴーストサイト〉を解除して工房に帰りましょう。

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