良かった、この工房には幽霊はいないようですよ。
一号、二号、三号は順調にダンジョンを踏破しているようです。
彼女たちはミスティックトーチでトラップを避けながら、魔物をケルベロスで蹴散らして、どんどん進んでいるようですね。
時折、発見した宝箱は時空魔法の〈シースルー〉で中身を透視して罠を解除しつつ、ダンジョン産の武具や魔法具、金貨や宝石などを入手して持ち帰ってきます。
装備などにお金がかからないので、そのまま収入になっているのが恐ろしいところで、工房の売上を軽く超えていたりします。
冒険者って儲かるんですね。
* * *
「本体、遂に宝箱から不死鳥の羽根が出てきましたよ!」
「え、本当ですか!?」
「ええ、これでエリクサーの素材が揃ったのではないですか?」
「不死鳥の羽根、乾きの石、無限水環、永久氷片。確かにすべてひとつずつ揃っていますね」
「……やっぱり不死鳥の羽根も四枚、集めさせるつもりですか」
「え? そりゃそうですよ。あと三枚、頑張ってください。あと竜の血もお願いしますよ」
「分かりました」
さあ、それではエリクサーの錬成に取り掛かりましょう!
ホルトルーデも手を止めて歴史的な瞬間に立ち会ってもらうことにします。
一号、二号、三号も固唾を飲んで見守ってくれています。
さあすべての素材を錬金釜に投入し、……ひたすら魔力を流してかき混ぜます。
ええこれだけですよ、工程としては簡単なのですが、膨大な魔力を必要としますね。
へとへとになるまでかき混ぜたら、一号に交代してもらいました。
私はマナポーションを飲んで休憩です。
一号も魔力を使い果たし、二号も続きます。
そして三号も膝をつき、ホルトルーデまで順番が回りました。
さすがにお菓子の量産をしているホルトルーデの魔力残量では錬成が終わりませんでした。
ホルトルーデの後は休憩を終えた私が、かき混ぜます。
おっと、ドロリとした手応えがサラサラになりましたよ!?
これでエリクサーの完成です。
〈アナライズ〉した結果、ちゃんとエリクサーだと鑑定できました。
最終的に出来上がったのは小瓶によっつ分のエリクサーです。
小瓶ひとつで〈レストレーション〉と同等の効果がありますが、賢者の石に必要な分量は小瓶よっつ分です。
ひとまずエリクサーの状態でよっつ、私の〈ストレージ〉に保管しました。
いやあ伝説の霊薬エリクサーをこの手で作ることが出来る日が来ようとは。
人生、何が起こるか分かりませんね。
* * *
「ん? ご主人、なんか機嫌がいいな?」
「あ、分かります? 実はエリクサーの錬成に成功しまして」
「は? エリクサーって……あのエリクサーか?」
「そうですよ」
口を開けたまま「マジかよ……」と呟くインプ。
ふふふ、どうだ驚いて声も出まい。
いや出てるか。
「じゃあ賢者の石の錬成まであと少しじゃねえか。凄いぜ、ご主人」
「あとは竜の血ですね。とはいえ何かのときのためにエリクサーのままで持っておきたいのが本音です。賢者の石はもうひと揃い、エリクサーの素材が集まってからでからでいいと思うのですよ」
「なるほどな。薬としては最高級だからな……そのままの方が使い勝手が良さそうか」
「そうですね。……さあ、今日も暗号解読を頑張りましょう」
「はあ、俺を頭脳労働担当にしたことを後悔させてやるぜ」
いや、インプは結構使える奴ですからね?
古代語に通じていて、私にはない発想力もあります。
暗号解読のお供にピッタリなんですよ。
* * *
あーでもない、こーでもない。
試行錯誤した午前中、遂にひとつの暗号文が解けました。
なるほど、これは失伝した闇属性の魔法、死霊魔法の魔導書ですね?
死体やこの世に残った霊魂をアンデッドとして復活させ、使役する外法です。
これことによっては、悪魔召喚よりも邪悪ですね。
幸い、闇属性は得意中の得意ですから、恐らく死霊魔法も習得できるでしょう。
しかし習得したところで、使い道がないのが現状ですが。
まあそれはそれとして、新しい魔法は習得しておくものです。
使わないにしろ、面白い魔法もあるので、さっそく魔導書を書きましょうかね。
書いた魔導書は〈ゴーストサイト〉〈クリエイト・アンデッド〉〈コントラクト・アンデッド〉のみっつです。
〈ゴーストサイト〉はこの世に残った霊魂を視認できるようにする闇属性の下級魔法ですね。
〈クリエイト・アンデッド〉は死体か霊魂を素材にしてアンデッドを作り出す闇属性の中級魔法です。
そして〈コントラクト・アンデッド〉はアンデッドを支配下に置く、闇属性と契約属性の複合魔法です。
私は契約属性もどうやら使えるようなので、これら三種の魔法すべてを行使できるはずです。
さあ、習得しましょう。
魔導書に手を置いて魔力を流し、無事にみっつの魔法を習得できました。
まずは〈ゴーストサイト〉から試してみましょうか。
「〈ゴーストサイト〉」
…………。
何の変化もありません。
良かった、この工房には幽霊はいないようですよ。
ひとまず今晩あたり、墓地にでも行ってみましょうかね。
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