よしそうと決まれば、明日は不動産屋へ行くとしますか。
「お姉さま……これは一体?」
「ドッペルゲンガーという悪魔ですよ」
部屋には私をコピーしたドッペルゲンガーが五体います。
つまりホルトルーデからしたら部屋に私が六人いるようにしか見えません。
「髪を括って……仮面を付ければ誰だか分からないでしょう。うん、よろしい」
ドッペルゲンガーの一体を変装させた私は満足して、残り四体はそれぞれに変装を任せます。
まあ髪型を変えて仮面を被るだけなんですけども。
「それじゃあドッペルゲンガーたち。これからは正体を見破られないように気をつけながら、エリクサーの素材を集めてもらいますよ」
「命がけじゃないですか」
「自分は安全なところで生活しておきながら……」
「さすが私、鬼畜」
「マジですかー」
「万事了解」
「行くのはひとまずひとりでいいでしょう。ケルベロスを〈シャドウ・ゲート〉に潜ませておけば何かあっても大丈夫ですし。残りの四人はここで〈加速の魔法陣〉の量産に取り組んでもらいます」
「凄いことを言われましたね」
「定期的に〈テレポート〉で戻らせるつもりですよこれ」
「魔法陣描くの疲れるのに……」
「そのうち錬金釜も増えそうですね」
「もう何でもありか」
「じゃあアナタ。これからドッペルレリアと名乗りながら旅をしてもらいます」
「ネーミングセンス悪すぎませんか私?」
「分かりやすくていいじゃないですか」
「ていうか私もドッペルレリアって名付けるとこでしたよ」
「私も私も」
「ねー」
「定期的に〈テレポート〉で戻ってくるんですよ。進捗の確認は大事ですしね」
「それさっき誰か言ったよね?」
「私だから考えることは同じかあ」
「工房の拡大は必須じゃない?」
「それぞれに錬金釜が欲しいですね」
「工房、増築しませんか?」
「……そうですねえ。ちょうど裏手の家が空き家なので、そこを買い取るのもアリでしょうか」
工房を増築してドッペルゲンガー用の作業場を増やすのは手ですね。
ちょうど保存食量産の件で金貨も大量に入手できたので、資金はあります。
私とホルトルーデの部屋にドッペルゲンガー用の机を入れるとなると手狭なので、工房の拡張は必要でしょう。
よしそうと決まれば、明日は不動産屋へ行くとしますか。
「じゃあドッペルレリアにケルベロスを与えますね。〈シャドウ・ゲート〉」
私の影の中からみつ首の巨大な黒犬が現れます。
魔界の門番、ケルベロスです。
「護衛用です。何かあれば遠慮なく呼び出してください」
「分かっていますよ。ではホルトルーデが目を回していますから、仕舞いますね。〈シャドウ・ゲート〉」
あ、ホルトルーデがケルベロスを見てガタガタ震えています。
よほど怖かったのでしょうね。
「大丈夫ですよ。ちゃんと契約してありますから、私の言うことを聞きます」
「は、はいお姉さま。それでも恐ろしいものは恐ろしいのです」
「ごめんなさい。ホルトルーデにとっては恐ろしい悪魔でしたね。ドッペルゲンガーも部屋が手狭になるので、仕舞っておきましょう。〈シャドウ・ゲート〉」
私はドッペルゲンガーたちを〈シャドウ・ゲート〉に仕舞いました。
* * *
翌日、私はホルトルーデに留守を任せて不動産屋で裏手の家を購入し、その足で建築屋に行って工房の拡張をお願いしました。
家を改装して、机と錬金釜を運び込んで、ドッペルゲンガー四人の作業場にします。
一階部分は窓も扉もなくして壁にしてもらい、外側から見えないようにする必要もありますね。
二階はドッペルゲンガーたちの休憩用に窓のある部屋にしてもらいますけど。
そして忘れてはいけないのが、ドッペルレリアの旅立ちです。
お金を〈ストレージ〉に持たせて、迷宮都市から海港都市に向けて旅立たせます。
まずは海竜リヴァイアサンの元へ行って、無限水環を入手してもらいましょう。
「大丈夫です。私ならできます」
「……まったく、人使いの荒い私ですねえ」
ドッペルレリアはブツブツ文句を言いながら海港都市に向かう馬車に乗り込みました。
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