少しアプローチを変えてみましょう。

 インプは驚くべきことに古代語に通じていました。


 いや、驚くところじゃないのかな。


 これでも立派な悪魔の端くれですからね。




 私とホルトルーデの私室に鳥かごを用意して、インプを住まわせています。


 インプはお菓子が好物らしく、一日一枚のリンゴのクッキーをあげると大喜びで書物の解読を手伝ってくれました。




「まったく……古い言葉の通訳とはね。まあラクショーだけど」




「ええ、ありがたいですよ。インプくんが知っている古代語の知識は私にとってありがたいものですから」




 古代語の書物の解読は一気に進みました。


 暗号化されている部分も多くあり、未だに全貌が明らかではありませんが、少なくとも意味の通らない文章に出くわすことはなくなったのです。


 インプ様様ですね。




 ありがたいのは〈シャドウ・ゲート〉という影の中に悪魔を隠しておく魔法の発見です。


 これがあれば大型の悪魔を使役することができますね。


 闇属性と時空属性の複合魔法ですが、どちらも得意な私にはうってつけの魔法です。




 鳥かごに住まわせていたインプも〈シャドウ・ゲート〉に仕舞うことにしました。


 誰かに見られるのは危険ですからね。




 さて、次なる悪魔召喚の準備をしましょう。




 * * *




 呼び出す悪魔はドッペルゲンガーです。


 高位の悪魔ですから〈コントラクト・デーモン〉が通用しない危険もありますが、ドッペルゲンガーが手に入れば出来ることが増えます。


 具体的にはエリクサーの素材を取りに行かせたりすることができるようになります、これ重要じゃないですか?




 さあいざ召喚!




「〈コール・デーモン〉」




 ズモモモモ……と魔法陣から黒い煙が溢れ出します。


 同時に薄い影の刃が〈ディメンション・ウォール〉に突き刺さりました。


 ですがご安心を。


 空間を遮断する〈ディメンション・ウォール〉を物理的に破壊する手段はほぼないと断言できますからね。




 その証拠に、ガチガチと薄刃の影が〈ディメンション・ウォール〉に突き立てられますが、微塵も小揺るぎませんよ。




 黒い煙が晴れ、魔法陣に残ったドッペルゲンガーの姿があらわになります。


 薄っぺらい人の形をした影、ですかね。


 その姿からは想像もできないような濃厚な魔力を感じ取ることができます。


 果たして私はドッペルゲンガーを支配下に置くことができるのでしょうか。




「〈コントラクト・デーモン〉」




「…………」




 ドッペルゲンガーに契約魔法を試みます。


 失敗。




 ドッペルゲンガーの纏う魔力に契約魔法が中和されてしまいました。


 仕方がないので再び〈コントラクト・デーモン〉を仕掛けます。


 失敗。




 何、魔力が尽きるまでに成功すればいいのですよ。


 ドッペルゲンガーは契約を強要されるのが不快なのか、〈ディメンション・ウォール〉内で影の刃を滅多撃ちしてきます。


 無理無理、物理攻撃では〈ディメンション・ウォール〉を破壊することはできませんよ。




 少しアプローチを変えてみましょう。




 私は〈スリープクラウド〉を結界内に叩き込みました。


 途端にドッペルゲンガーの動きが鈍くなります。


 完全に意識を飛ばすことはできませんでしたが、朦朧とさせることには成功したようですね。


 あんな形をしていますが、呼吸はしているのでしょう。




 さあ三度目の正直です。




「〈コントラクト・デーモン〉」




「…………」




 成功しましたよ!?


 どうやら悪魔を弱らせてから契約魔法を使うのは有効なようですね。




 さあ、これで心強いしもべを手に入れることができました。




 ……もう二~三体ほどドッペルゲンガーと契約しておきましょうかね。

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