いいでしょう、本好きの子にしてあげますよ!
夜、優雅に読書を楽しんでいると、ホルトルーデが何やらもの言いたげな顔でこちらのことを見ていました。
「どうかしましたか、ホルトルーデ?」
「いえその……お姉さまを見ていたら、私も読書というものに興味が出ました。古代語の書物とはいわずとも、現代語の本でもいいのですが、私も読書がしたいです」
「ほほう、ホルトルーデも本に興味があるのですね。いいでしょう、今度ふたりで一緒に本屋へ行きましょう」
「本当ですか? 嬉しいです!」
ホルトルーデはどうやら私がのめり込んでいる趣味に興味を持ったようです。
いいでしょう、本好きの子にしてあげますよ!
* * *
ホルトルーデは現代語の読み書きができるので、娯楽小説をオススメしておきました。
絵本はさすがに子供っぽすぎますからね。
その点、娯楽小説ならば読んで楽しいし、没頭できると思うのです。
そういう理由で勧めた小説から、ホルトルーデの興味に任せて選ばせました。
私も小難しい本ばかりではなく小説も読んでいたことがありますので、幾つかはオススメのタイトルがあったりしますからね。
ネタバレを避けつつ幾つか提案した中から、ホルトルーデは一冊の小説を選びました。
夕食の買い物をしてから帰ると、お菓子職人のシルビーナが工房の前に立っていました。
「あら、ふたりで買い物に行っていたのね」
「お待たせしてすみません。久しぶりですね、シルビーナさん」
「こちらも忙しいのよ。迷宮都市では名のしれた店でお菓子を出しているから。それよりワッフルを頂けるかしら?」
「はい。少々お待ち下さいね」
ワッフルを作ってから結構な日数が経っています。
やはりシルビーナは忙しいのでしょう。
「はい、これがウチの工房のワッフルですよ」
「見た目は普通ね。いただくわ」
シルビーナはワッフルを上品にかじりました。
そして味を確かめるように咀嚼して……眉根を寄せました。
「蜂蜜が練り込まれたワッフル……ただそれだけなのに、なんでこんなに美味しいのかしら。錬金術で作られたから? ねえ、錬金術でお菓子を作る場合、どんな風に調理するの?」
「素材を錬金釜に入れて、魔力を流して掻き混ぜるだけです。ただしワッフルならばワッフルの作り方を知識として知っている必要がありますね」
「……掻き混ぜるだけ? いいえ、魔力を流すと言ったわね。もしかしてあなたの魔力のせいで味が変わったりするのかしら」
「魔力はあくまで錬成を進めるために消費しているので、味には関係はないかと思いますよ」
そもそも最初のワッフル以外、ホルトルーデが作っています。
属性適性が異なるホルトルーデの魔力は、私の魔力とは違うはず。
それでも出来上がりの味には差を感じなかったので、魔力の線はないですね。
それでもウチの工房のお菓子が美味しい理由を探すとしたら、やはり錬金術で作っているから、だと思います。
錬金術でのお菓子の錬成には知識が必要ですが、最適かつ詳細な知識は理想の状態を前提に錬成を進めます。
知識が詳細で正しいものであるならば、それは一流の職人が生地を練って焼くのにも等しいのです。
「今回も引き分けね。これは私のお菓子よ。じゃあまた来るから、新しいお菓子を用意しておいてね」
シルビーナは白い箱を私に渡すと、去っていきました。
また新しいお菓子を作らなければならなくなりましたよ?
ちなみに白い箱の中身はチョコレートケーキでした。
ビターなチョコレートを使ったケーキで、甘ったるくなりがちなチョコレートもくどくなく楽しめる一品でした。
どうもシルビーナはクリームやチョコレートなどを使ったお菓子を得意としているようですね。
私の方は焼き菓子ばかりです。
ここらでクリーム系を攻めてみるのも一興でしょうか。
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