作ることのできるお菓子の幅が広がりました。

 よくよく考えるまでもなく、ウチの工房は錬金術の工房です。


 そこが何を間違えてクリームを使った生菓子を取り扱うのか、理解できません。


 ええ、一晩経って冷静になりましたよ。




 とはいえ今までのお菓子とて日持ちするかと言えば、そうでもないんですよね。


 私とホルトルーデの〈ストレージ〉があるからこっそりと在庫をもてるのであって、なければ毎日の売上予測を立てて錬成する数を決めて販売するという難易度の高いことを要求されるわけでして。




 ただ魔法具の冷蔵庫を導入すれば、クリームを使ったお菓子を少量限定で扱える事に気づきました。


 斜向いの魔法具屋で冷蔵庫を購入するのがいいでしょう。


 あそこの店主は定期的にリンゴのクッキーを買いに来てくれる常連さんです。


 一度くらいは客として利用するのもいいことでしょう。




 * * *




 私はホルトルーデに工房を任せて、斜向いの魔法具屋に来ていました。


 内装はとても優雅で、扱っている魔法具も貴族向けのものから冒険者向けのものまで幅広く取り扱っています。


 冒険者向けのものも高機能かつ高級路線のようで、高い品質の魔法具を扱っていました。




「フーレリアさんがお探しの冷蔵庫はこの辺りですね。大きさが違うだけで、効果のほどは変わりません」




「なるほど。大きさは中くらいのものがちょうど良さそうですね。お値段はどのくらいになりますか?」




「こちらの中型冷蔵庫は金貨七十五枚になります」




 ほほう、なかなかいいお値段ですね……。


 渋い顔になったのが見えたのでしょう、店主は苦笑しながら「金貨七十枚までならご近所のよしみでまけられますよ?」と仰ってくださいました。




「ありがとうございます。では金貨七十枚で購入したいと思います」




「お買い上げありがとうございます。店の者に工房まで運ばせましょう」




 古代語の書物が七十冊も買えますよ?


 一体、私は何をしているのでしょうか……。




 * * *




 その日のうちに冷蔵庫を設置してもらいました。


 さてこれでクリーム系のお菓子を扱うことができるようになりましたね。




 作ることのできるお菓子の幅が広がりました。


 今回はとりあえずシュークリームを作ろうかと思います。




 卵、牛乳、ミネラル水、バター、砂糖、塩、小麦粉、バニラエッセンスを用意します。




 まずはカスタードクリームから作りましょう。


 小麦粉、砂糖、卵、牛乳、バニラエッセンスを計量してから錬金釜に投入し、かき混ぜます。


 ぼってりとした黄色いクリームが出来上がります。


 これがカスタードクリームですね。


 カスタードクリームを錬金釜からボウルに移しておきます。




 次はシュークリームの生地作りです。


 牛乳、ミネラル水、バター、砂糖、塩、小麦粉、卵を錬金釜に入れてかき混ぜます。


 製法がややこしいためか、魔力をそれなりに多く注がなければなりません。


 逆に言えばややこしい製法をすっ飛ばして生地が完成するという利点が錬金術にはあります。


 幾つかの生地が焼き上がりました。




 さあカスタードクリームを詰めていきましょう。


 焼き上がった生地の入った錬金釜にカスタードクリームを投入。


 かき混ぜます。


 すると均等にシュークリーム生地の中にカスタードクリームが入るので、これで完成ですね。




 完成したシュークリームを冷蔵庫に仕舞います。




 ホルトルーデの休憩がてらお茶にしましょう。


 もちろんシュークリームの試食のためです。




「お姉さま、このお菓子は美味しいです」




「そうですね。美味しくできましたね」




 上から粉砂糖をまぶして飾り付けをしても良さそうですが、手間なのでそのままでいいでしょう。


 一日限定十個のシュークリーム、売れるかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る