なんと言って返せばいいのか困りますね。

 三日後。


 私はヴェルナー伯爵家にいました。


 二本目の一等級のキュアストーンポーションを届けに来たのです。




 応接室で待っていると、オルナバスがひとりの女性をエスコートしてやってきました。


 女性は長年石化していたヴェルナー伯爵家の長女でしょう。




「あなたが一等級のキュアストーンポーションを錬成したという錬金術師かしら?」




「はい。フーレリアと申します」




「フーレリア。あなたのお陰で私は長い眠りから目が覚めました。礼をいいます。ありがとう」




「もったいないお言葉です」




 女性は向かいのソファに座ると、ため息をつきました。




「まるで私だけが時間の止まった世界に取り残されていたみたい。こんなに小さかったオルナバスが今や立派に私をエスコートできるんですもの」




「姉上……」




 オルナバスが困ったように狼狽えます。


 なるほど、オルナバスが幼い頃に石化して、今ようやく石化が解かれたというわけですか。




「お父様もお母様もお年を召されて……周囲の使用人たちも入れ替わっている者がいて……婚約もなかったことになっていて……これからどうしたらいいやら」




「…………」




「ねえ、あなたも婚約を破棄されたって聞いたわ。しかも王太子殿下からの婚約を。でも今は立派に錬金術師として独り立ちしている。……私にはきっと無理だわ」




「…………」




 なんと言って返せばいいのか困りますね。


 下手なことを口走っても無礼になりそうなので、黙するしかありません。




「命の恩人なのに愚痴を聞かせて悪かったわね。ねえ、私と友達になってもらえないかしら? 私の友人たちとは年が離れてしまって、話し相手に困っているのよ」




「分かりました。ご友人になるに際してお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」




「ああ、ごめんなさい。名乗るのを忘れていたわ。私はカミーリアよ」




「カミーリア様ですね。友人として、よろしくお願いします」




「もう、友人なんだから気安く喋ってよ。元は侯爵家のご令嬢だったのでしょう? 身分はあなたの方が上よ」




「しかし勘当されましたもので……今は平民に過ぎません」




「でも気にせずに喋って。私が求めているものは気安く話せる友人なのよ」




「分かりました。カミーリア、私たちは友人同士ということで」




「ええ。たまに遊びに行くから」




「歓迎します」




 ゴホン、と咳払いが聞こえた。


 オルナバスだ。




 応接室の入り口から新たに二人の男女がやって来ました。


 オルナバスとカミーリアの両親、ヴェルナー伯爵家の当主とその妻だ。




「君がアルトマイアー侯爵家のフーレリアか。娘を助けてくれた錬金術師だそうだね。私からも礼を言わせて欲しい。本当にありがとう」




「今はただのフーレリアです。それにポーションは依頼で作ったものですから……恩に着せるつもりはないのです」




「ふむ? そうなのかい。正直なところ手頃な褒美が思いつかなくてね。直接、聞こうかと思っていたのだけど」




「不要です。できれば迷宮都市でこれからも工房を続けさせて頂けるなら、それに勝る褒美はございません」




「それでは褒美にはならないのだが……。とはいえ下手に褒美を与えてアルトマイアー侯爵家の不興を買いたいとは思わない。今回のことは借りにしておくよ」




 貴族の貸し借りは非常に大きなものです。


 出来る限りのことをしてくれる、と言ってくれました。


 頼もしいですね。




 領主夫妻はそのまま退出していきました。


 忙しい中をわざわざやって来てくれたのでしょう。




 二本目の一等級のキュアストーンポーションを納品して、カミーリアと二、三言葉を交わしてから、お暇することにしました。




 正直、伯爵邸から出るまでは殺されたり軟禁されたりしないか、ヒヤヒヤしていました。


 向こうは権力者ですからね。


 まず殺されたりすることはないだろうとは思っていましたが……カミーリアが無事に治って良かったです。


 カミーリアの石化が解けなければ、どうなっていたことか。


 帰途の足取りが早くなるのも仕方のないことなのです。

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