馬車が出発して、しばらくしてからようやくため息をつきます。

 たった数日でバジリスクの邪眼、バジリスクの血、竜白石を揃えて持って来る辺り、さすがは迷宮都市の領主ヴェルナー伯爵家だと思いました。


 届けに来たのはやはりオルナバス。


 彼は学院で私と同学年でしたから、折衝役として遣わされたのでしょう。


 とはいえ素材を持ち出しでの依頼ですから、取るものは技術料だけなんですよね。




「ふうん。錬金術師の工房とはこんな風になっているのか。そこの娘は……?」




「私の弟子です」




「似ているが、フーレリア。お前、姉妹がいたか?」




「いいえ。あの子とは血の繋がりはありませんよ」




「ふうん……まあいい。それで素材はこれで足りているのか?」




「もちろんです。邪眼はひとつで十分ですし、血も大量ですね。竜白石もこんなに……これだと一等級のキュアストーンポーションが二本も作れちゃいますね」




「念の為に二本作成してくれ。代金は幾らだ?」




「では金貨四十枚で」




「安くないか? 一等級のキュアストーンポーションだぞ?」




「素材が高いのですが、全て依頼主の持ち出しですからね。技術料だけで十分です。一本金貨二十枚ですからちゃんと取ってます」




「なるほど、確かに素材のことを考えるとそんなものになる、か」




「はい。条件がよろしければ承りますが――」




「もちろんだ。お抱えの錬金術師の腕前では素材を見せたところで、一等級のキュアストーンポーションの作り方を知らなかった。作れそうにない、とも嘆いていたがな。お前、どうやって錬成方法を知った?」




「学院の才女と呼ばれるほどガリ勉した結果ですよ。学院の資料を隅々、目を通した結果です」




「ふん。まあいい、一等級のキュアストーンポーション、二本。金貨四十枚。結構だ、それで頼む。いつ出来上がる?」




「そうですね。一本目は三日あれば完成します。二本目は更に三日必要です」




「分かった。三日後にまた来る」




「はい」




 オルナバスは工房を出て馬車に向かいました。


 馬車が出発して、しばらくしてからようやくため息をつきます。




「……さて、やりますか」




 一等級のキュアストーンポーション。


 私も作成するのは初めてですが、手順は知っています。


 さあ、作成しますよ!!




 * * *




 まずは竜白石の安定剤からですね。


 竜白石はドラゴンの糞が固まったものだと言われています。


 実際はワイバーンなどの亜竜の糞でも竜白石になるとされていますが、この竜白石は質が良いので成竜の糞かもしれません。


 これをすり鉢で丁寧に……いや、力づくで粉末に変えるのです。


 素材を言うときに竜白石の粉末、とでも言っておけば良かったと今更ながらに後悔しながら、ゴリゴリと擦っていきます。




 思ったより時間がかかりました。


 粉末にした竜白石を錬金釜に入れて、蒸留水と混ぜ合わせます。


 魔力をガンガン流していき、溶解を早めましょう。


 しっかり混ざったら安定剤の完成です。




 次にバジリスクの邪眼、バジリスクの血、安定剤を錬金釜に入れて、混ぜます。


 ここでもやはり魔力を全開にして流していきます。


 このくらいの素材のレベルだと、しっかり魔力を流さないとなかなか混ざってくれません。




 夕食の時間まで混ぜて、魔力が尽きたので蓋をして明日に持ち越します。


 マナポーションを飲みつつ、睡眠で魔力を回復させて翌日。


 さあ今日も頑張って混ぜましょう。


 今日は昼にマナポーションを飲んで、午後一杯かけて完成させる予定です。




 * * *




 無事に一等級のキュアストーンポーションが一本完成した翌日の午後。


 オルナバスが二名の供を連れてやって来ました。




 ひとりは鑑定のできる司祭でしょう。


 ではもうひとりは?




「では司祭、鑑定を」




「はい。オルナバス様。――【鑑定】」




 司祭が鑑定を始めました。


 予め〈アナライズ〉で一等級のキュアストーンポーションであることは分かっていますが、緊張しますね。




「間違いありません。一等級のキュアストーンポーションです」




「そうか」




 オルナバスは頷くと、もうひとりの従者に布の詰まった箱に厳重に梱包させます。


 手付きでなんとなく察しました。


 このひとがきっとヴェルナー伯爵家のお抱え錬金術師でしょう。




「ひとまず半額の金貨二十枚を支払っておく。あと三日後のもう一本はフーレリア、悪いがウチまで持ってきてくれ」




「はい。かしこまりました」




「では俺たちはこれで――どうした?」




「あ、いえ」




 工房を眺めていたお抱え錬金術師がハっと我に返りました。




「実はヴェルナー伯爵家のお抱えになる前に、ここに住んでいたのです。懐かしくてつい」




 なんと、前の住人でしたか。




「そうだったのか。それは知らなかった」




「はい。ですが以前の話です」




「懐かしむのはお前の自由だ。ではとっととコイツを持って帰ろう。親父たちがヤキモキして待っているからな」




 オルナバスたちはそのまま工房を出て馬車で帰っていきました。




 さて、もう一本のキュアストーンポーションも作成しましょう。

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