とうとう来るべき日が来た、といった感じですね。
ヴェルナー伯爵家にやって来ました。
とうとう来るべき日が来た、といった感じですね。
衛兵隊長に連れられて、私たちは応接室で待たされることになりました。
「それで? スロイス氏は魔法を使って……隣の部屋の壁に転移してしまった、と」
「はい。偉大なる時空魔法の第一歩を踏み出したというのに……おいたわしい事です」
「時空魔法〈テレポート〉か……にわかには信じられんが、現場を見てしまったからな」
伯爵家に来る途中でスロイス邸にも寄って、現場を見た隊長は頭を抱えています。
そこへひとりの青年が入ってきました。
「やあ、フーレリア。久しぶりだね」
「御機嫌よう、オルナバス。学院以来ね」
「そうだね。まさか君と王太子殿下の婚約が破棄されて、侯爵家から勘当されるとは……学院の才女のたどる道は波乱万丈だ」
学院の才女と言えば聞こえはいいでしょうけど、ただガリ勉を綺麗に言い換えた嫌味です。
常に座学でトップの成績を取り続けた女への当てこすり。
久々に聞きました。
「それで? スロイスおじさんが死んだんだって?」
「はい。私の目の前で〈テレポート〉を使って……それで隣の部屋の壁に埋まりました」
「なんで君がスロイスおじさんの家に?」
「魔導書の装丁を依頼されていて、持っていったんですよ。その場で魔法を習得されて、そして――」
「なるほどね。しかし転移は一応、成功したってことか。時空魔法の復活の礎になったわけだね」
「そうとも言えますね」
「ところで君、今はどうしているわけ? 魔導書の装丁なんて仕事をしているということは、皮革職人に弟子入りでもしたのかい?」
「いいえ。錬金術師として職人街で工房を開いています」
「錬金術? 錬金術なんて使えたの、君」
「はい。趣味でして」
「ふうん。たくましいなあ」
まったく興味もなさそうにオルナバスはため息をつきました。
「スロイスおじさんは度々、ウチに来ては研究費をせびってきた道楽学者でね。しかし研究結果が出ていたとは思わなかったよ。本当に道楽だと僕たち家族は信じていたんだからね」
「はあ」
「……今日は帰っていいよ、フーレリア。おじさんの死はどうやら魔法実験の失敗ということで片付くから」
「そうですか。それでは私は失礼します」
「そうだ。君、キュアストーンポーションは何等級まで作れる?」
「……素材さえあれば一等級が作れます」
「へえ! そりゃ凄い。ちなみに素材というのは?」
「バジリスクの邪眼。それからバジリスクの血。さらには竜白石が必要になります」
「ふうん。揃えたら君の工房に持ち込むから、よろしく」
「分かりました」
「じゃあ帰っていいよ。衛兵隊長。君にはスロイスおじさんの死体の処理について打ち合わせをしたいので残るように」
私は綺麗にお辞儀をしてから、伯爵家を辞去しました。
……なんとか無事に生きて帰れましたね。
オルナバスの機嫌ひとつで私の首は物理的に飛ぶこともあり得たので、内心、気が気ではありませんでしたよ。
ともかく今は工房に戻ってホルトルーデの顔が見たいです。
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