ここは正直に衛兵に報告するのがいいでしょう。
数日後、私はスロイス邸にやって来ていました。
今回は装丁を終えた〈テレポート〉の魔導書と、〈ディメンション・ソード〉の魔導書を携えています。
「ごめんください」
「おお、フーレリア殿。装丁はできましたかな?」
「はい。これが〈テレポート〉の魔導書です。そしてこちらが先生にお貸しする〈ディメンション・ソード〉の魔導書です」
「〈ディメンション・ソード〉!? 時空魔法の数少ない攻撃魔法にしてあらゆるものを切断するというあの!?」
「はい、あの〈ディメンション・ソード〉です」
「……はっ、立ち話もなんですので中へどうぞ」
「はい、お邪魔します」
相変わらず散らかっていた部屋に通されると、興奮を隠せない様子でスロイスは机に置かれた魔導書を手繰り寄せます。
そして迷わず両方の時空魔法を習得しました。
「ではでは、さっそくテレポートを試させてもらいましょう!」
「どこに転移されるのですか?」
「まずは隣の部屋に転移しようかと思います。いきなり遠くへ行くのも怖いですしな」
「そうですね」
「……ところでフーレリア殿は既に〈テレポート〉を試されたのですかな?」
「いいえ。偉大なる第一歩はやはり先生が踏まれるのがよろしいかと思いまして。習得はしましたが使っていません」
「なるほど! それは嬉しい心遣いですな!」
浮かれっぱなしのスロイスは、ビシっとポーズを決めて「〈テレポート〉!」と叫びました。
シュンッ!!
なんと目の前からスロイスが消え去りました。
魔法は発動したようですね。
隣の部屋に行ってみましょう。
* * *
隣の部屋は書斎なのか文机に本棚が並んでいました。
その本棚のひとつに、スロイスがめり込んでいます。
どうやら座標指定に失敗してしまったようですね。
本棚と同化したスロイスは、ピクリとも動きません。
これは完全に死んでいます。
私はため息をひとつつくと、元の部屋に戻って〈ディメンション・ソード〉の魔導書を回収しました。
あの状態では写本は無理でしょうからね。
さて死体をどうするのか、それが問題です。
普段、お客の来ないスロイス邸に出入りしているのは、近所の目があるのですぐに私にたどり着くことでしょう。
本屋が証言すれば、私をスロイスに紹介したことを喋るでしょうし。
殺人犯にされては困ります。
ここは正直に衛兵に報告するのがいいでしょう。
* * *
すぐに衛兵詰め所は大騒ぎになりました。
なにせ領主一族に連なるスロイスが死んだとなれば、ヴェルナー伯爵家に報告しないわけにもいかないでしょう。
私は第一発見者として、証言を求められることになりました。
やれやれ……面倒なことになりましたね。
まあ分かっていたことではありますが。
実はあのテレポートの魔導書、査読したところミスが見つかったのです。
あのまま使えば座標指定が上手くいかないのは明白でした。
だからスロイスが死亡したのは、ある意味で不運でした。
運が良ければ空中なりどこか離れた場所に転移するだけで済んだのに。
壁に同化するのは最悪の死に方ですね。
とはいえ正直に間違っていることを知りながら装丁して渡したとは言えません。
あくまで私は依頼された魔導書を製本して、スロイスに渡しただけなのです。
ちなみに私は自分で修正した〈テレポート〉の魔導書を作成して習得してあります。
上級時空魔法なのでホルトルーデは使えませんが、私ならば問題なく使えました。
冤罪をかけられて殺されそうになったときには、〈テレポート〉で逃げましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます