前の人、評判良さそうなのになんで引っ越したのかな?

 まずはスーザンちゃんの家から行きましょう。


 なぜか店の入り口でソワソワした様子のスーザンちゃん。




「あ! こんにちは、フーレリアお姉ちゃん!」




「こんにちは、スーザンちゃん。そんなところでどうしたの?」




「え? ええとね……その……お姉ちゃんの家から凄くいい匂いがしてね、それでここにいたの」




「あらあら……」




 どうやらクッキー作りの匂いが漏れていたようですね。


 照れくさそうにしているスーザンちゃんに、ラッピングしたクッキーを渡します。




「スーザンちゃん、これお引越しのご挨拶に。ご両親に渡して貰えるかな?」




「うん! 中身はなに?」




「それはご両親と一緒に開けてみてのお楽しみ」




「……ふうん。分かった! ありがとう、お姉ちゃん!」




 スーザンちゃんは紙袋を持って店の中に戻っていきました。




 さてクッキーはまだまだあります。


 向こう三軒両隣には配って余るだけ作ってありますから、さっさと配りに行きましょう。




 お次は右隣の薬屋です。




「ごめんください」




 お店に入るとプンと薬の苦い匂いが鼻をつきます。


 いい匂いではありませんが、クセになるものがありますね。




「はーい。あら、見ない子ね。どこの子かしら」




 カウンターにちょこんと座っているおばあちゃんがこの店の主のようです。




「あ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は今日、隣の工房に引っ越してきたフーレリアと申します。こちらはお近づきの印にどうぞ」




「あらあら、これはご丁寧に。……中身は何かしら?」




「クッキーです。食べ物ですからお早めにどうぞ」




「まあ、もしかして錬金術でお菓子を作ったのかしら?」




「そうです」




「まあまあ……懐かしいわね。前の錬金術師もお菓子を錬金釜で作って売っていたわ」




「そうなんですか。お菓子、売れますか?」




「それはあなたの腕前次第よ。錬金術工房なら薬の作成を依頼することがあるかもしれないけど……」




「はい。一通りは学んでいますから、依頼してくださっても大丈夫ですよ」




「まあ、まだお若いのに。それじゃあ用事ができたらお願いしようかしら」




「はい、是非に」




 長居してはご迷惑だろうから、そそくさと出て来ました。


 次は左隣の服屋です。


 古着屋ではなく仕立て屋さんのようですね。




「こんにちは」




「はい? あら可愛いお客さんだこと」




 店に入ってきた私を振り返ったのは、綺麗なお姉さんでした。


 トルソーに布を当てて仕事の最中だったようです。




「あ、ごめんなさい。客ではなく、今日隣の工房に引っ越してきたフーレリアと申します」




「あらお隣の……そう、新しい人が入ったのね」




「これはお近づきの品です。どうぞ」




「これはご丁寧に。……いい匂いがするけど、もしかしなくてもお菓子かしら?」




「はい。クッキーです」




「錬金術で作った?」




「そうです」




「まあ。前の人もお菓子を作ることがあったわ、懐かしい」




 前の人、評判良さそうなのになんで引っ越したのかな?




「ねえ、工房に住むってことは錬金術師なのよね?」




「ええ、そうです。錬金術を使った雑貨屋を開くつもりです」




「糸から布を作れる? もしくは糸そのものを作れる?」




「どちらも出来ますよ」




「まあ! 素晴らしい腕前の錬金術師ね。いずれ仕事を依頼しに行くわ」




「ありがとうございます」




「クッキーありがとうね」




 お仕事が忙しそうなので、早々に退散しておきました。


 さあ後は向かいの二件です。

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