素材は予め厳密に量ります。
やや古ぼけた家屋ですが、工房を兼ねている物件がこれしかなかったので選択肢はありませんでした。
というわけで迷宮都市の職人街に工房を構えました。
数奇なことにスーザンちゃんの家の向かい側です。
王都から引っ越して友達がまだいないスーザンちゃんは、私がお向かいさんだと知って大はしゃぎ。
私も知り合いがお向かいさんだと心強い気がしますから、大歓迎です。
結果から言っていい物件でした。
さてまずは錬金釜を設置して、と。
錬金釜はひとかかえほどある大きさの巨大なものです。
携帯用ではなく備え付けの業務用ですから、これから工房を経営していく上で心強い相棒になります。
まずはお菓子から作りましょう。
ご近所付き合いは大事にしたいですから、引っ越しの挨拶の手土産にするつもりです。
市場で本日採れたてのリンゴと、小麦粉と卵を購入しましてきました。
作るお菓子はお手軽にクッキーにしましょう。
まずは天然酵母の錬成からですね。
リンゴと〈ストレージ〉に保管してあった蒸留水を錬金釜に投入し、魔力を流しながらよくかき混ぜます。
魔力が馴染んだと思ったら、予め〈ストレージ〉に用意していた〈加速の魔法陣〉を投入します。
〈加速の魔法陣〉は紙に描かれた時空魔法の一種で、錬金術の素材のひとつです。
数日かかる天然酵母の作成をたったの一時間に短縮する効果をもつ便利アイテムなんですよ。
コンパスで描いた正確な円の中に古代文字を配置したものですが、これを作るのに一時間から二時間くらいかかります。
集中力が必要な作業ですが、日々、読書で鍛えた集中力を発揮すればあっという間に一枚作れます。
すっごく疲れますけどね。
〈ストレージ〉から砂時計を取り出しました。
今回は一時間を計る大きめのものですね。
砂が全部落ちきっているのを確認してから、ひっくり返します。
さて素材をすべて投入し終えた錬金釜、これに再び魔力を流しながらかき混ぜます。
腕が痛くなりますが、そこは我慢。
砂時計の砂が落ちきったら、天然酵母の完成です。
錬金釜からお玉ですくって〈ストレージ〉に保管されている清潔な瓶に移し替えます。
続いて井戸で汲んできた水をミネラル水に錬成します。
井戸水はそのままだと雑味が多すぎてクッキーの繊細な味を壊しますからね、余分な成分を除去してやる必要があるのです。
これには〈原質分解〉の錬金術を使います。
錬金釜に井戸水を入れて、〈原質分解〉用のまぜ棒を使って魔力を注ぎながら混ぜます。
三分ほどで錬金釜の中からカラコロと固形物を掻き混ぜる音がし出したら、混ぜるのを止めてトングで雑味となる成分を取り出していきます。
このときミネラル分は適度に残すのが美味しい水を作るコツです。
ミネラルを残した水を、今度は普通の混ぜ棒でかき混ぜていきます。
すると〈原質分解〉で水から分離したミネラルが、再び水に溶け込んでいくのです。
そうすればミネラル水の完成です。
さあ材料が揃いました、いよいよクッキーの錬成です。
素材は予め厳密に量ります。
卵を割って、黄身だけを選り分けてから、錬金釜に投入します。
小麦粉とミネラル水と天然酵母、そしてフレーバーにするリンゴを投入します。
そうしたら混ぜ棒でひたすら魔力を流しながらかき混ぜます。
時間は注ぐ魔力に比例して短くなりますから、気合を入れて魔力をガンガン流していきましょう。
ああ、リンゴのいい香りが工房に漂い始めましたよ?
しばらくすると香ばしい香りがしてきます。
そうしたら出来上がりですね。
錬金釜の中には、リンゴの芳香を放つクッキーがザックザックと出来上がっていました。
一枚取り出して食べてみましたが、問題ない味ですね。
成功です。
出来上がったクッキーを紙袋に包んで、細いリボンで袋の口を留めます。
さあ、ご近所に配りに行きましょう!
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