第78話 本当に勇者様ですか?

 へ、ヘルドさんが!?


 僕は無意識で、ヘルドさんと勇者の間の『城壁』を召喚した。


 突如出現した壁に勇者も驚いて、一旦距離を取る。


 僕は急いでヘルドさんの元に急いだ。



「へ、ヘルドさん! け、怪我が……待ってくださいね。今すぐ『特性回復ポーション』を――――」


 『自由国』が始まり、シーマくんが領主の仕事に就いてくれてから『特性ポーション』の制作は必要最低限な分だけ作って貰っていた。


 そんなシーマくんだったが、レベルが八となり、最後のスキルを覚えた。


 『錬金術師』の最高スキル。


 それがスキル『回復ポーション制作』である。


 『錬金術師』がレベル八までこき使われ、八になると更にこき使われる理由は、この『回復ポーション制作』にあるとの事だ。


 いつか大きな戦いがまたあるかも知れないから、念の為と言いながらシーマくんが数十本作ってくれた『回復ポーション』。


 しかもシーマくんが作る『ポーション』はどれも効果が高くて、普通の回復ポーションの比ではない効果だった。



 僕はそんな高性能の回復ポーションをヘルドさんに急いで掛ける。


 淡い青色の光がヘルドさんを包み込み、次第に傷が癒えていった。



「なっ! 回復ポーションだと!? 貴様もヘルドと同じゴミ虫だな! 貴様も許せない! 俺が成敗してやる!!」


 向こうの勇者が何やらお怒りになっている。


 それにしても、勇者様については昔から憧れのようなモノを抱いていたのに、この勇者は僕が思い描いていた勇者様とは、あまりにもかけ離れている。


 どうして、こんな人が勇者様になれたんだろう?


「はあはあ……アレク」


「ヘルドさん! 気が付きましたね! 勇者は僕が相手しますから、少し休んでてくださいね?」


「あ、ああ……あいつの剣……聖剣には特別な力が込められている……あいつの剣には気を付けろ……」


「分かりました!」


 ヘルドさんの為に、リサイクルした超高級ソファーを召喚し、座って貰った。


 苦笑いのまま座っているヘルドさんは、どこか王様っぽくて似合っている気がする。


 そして、僕は勇者と対峙した。




「ねえ、勇者様?」


「ん? 何だ? 今更、命乞いしても許さないぞ!」


「……どうして貴方のような人が勇者何ですか? 勇者なら……その聖剣を――――に向けたりしないはずです」


「くっ! 貴様に指図される筋合いはない! 俺の敵は全員敵だ! 人も魔族も関係ない! みんな斬るだけだ!」


 あ……この勇者、本当に救いのない人だね。


 寧ろ……貴方が許さなくても、僕が許したくないね。


「勇者様、僕は貴方を許しません。もしかして……本当は魔族側が被害者・・・なのかも知れないと、貴方を見ているとそう思えて仕方ないんです」


「ん? 魔族が被害者? 何だそれは?」


「王国では魔族の襲撃の所為で僕達の生活が脅かされるから、魔族を討伐しようと言われてましたけど……ここまで来る途中の町々はどうしてもそう思えないんですよ。もしかしたら、貴方が魔族・・と言いながら一方的に敵視しただけじゃないですか?」


 僕が更にそう思える理由は、ダークエルフの里の件もあった。


 ヘルドさんも驚いていたけど、ダークエルフの里は人間と大して変わりはなく、お互いに生きるのに必死で、他人を傷つけようとはしていない。


 他の獣人族の人々もだ。


 今のベータ領では大半の人が獣人族だ。


 今まで人間に虐げられてきた獣人族が多かったけど、彼らは皆口をそろえて「ベータ領は天国」と話していた。


 ――――僕は、本当の悪はこういう……勇者のような、自分勝手で、全ての事を自分の尺度でしか見極められない人ではないのだろうかと思っている。


 ――――父親のように。











「あーははははっ! そんなの当たり前じゃないか! 魔族なんてモノが生きているだけで罪なのだ! 僕は勇者! 聖剣『グランドクロス』が認めたのは僕だけなんだ! 僕が正しいと言えば、全て正しいのだ! 魔族は、俺に斬られる為に存在しているのだから!」


 そうか。


 やはりお前が元凶・・だったか。


 うん。


 お前だけは絶対許さない!

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