第52話 ヴァレンシアです

 戦場はもっと酷い状況になっていた。


 その地は真っ黒い炎に飲まれ、全て燃え尽くされた。



「へ、ヘルドさん! 戦場が!!」


「ああ、あれは王国軍の秘密兵器『ヴァレンシア』だ。戦場の怨念を吸って燃料にする最悪の兵器だよ」


「えええええ!? ヘルドさんは知っていたんですか?」


 ヘルドさんが遠い目で、兵器があるであろう方向を見つめた。


「当たり前だ。今日は、あの兵器をぶっ潰しに来たんだ。だから、お前・・を呼んだんだよ」


「僕を……?」


「お前なら、あいつを真っ二つにするがあるだろう?」


 もしかして……斬鉄剣の事かな?


「世の中にデッドリークラップのを綺麗に斬れるのは、そう多くない。お前も出来るんだろう?」


「は、はい……一応出来ますけど……」


「俺様はあれを守ってるガーディアンを相手するから、お前はその力を使って、あの兵器をボコボコにしてくれ、いいな?」


「…………分かりました」


「よろしい。グーニル!」


「はっ!」


「お前はこのまま後方部隊に行って、ダレンの息子を連れてこい」


「はっ!」


 グーニルさんは返答後直ぐに馬に乗り、後方へと走り去った。


「お前らはそっちのスレイプニルに乗れ、魔女はアレクをちゃんと守ってやれ」


「分かってるわよ! アレクは私が守るんだから!」


 残りスレイプニル二匹のうち、一匹にヘルドさんが乗り込み、もう一匹に僕とアイリスが乗った。


 スレイプニルは非常に賢いようで、人の言葉が分かるとの事。


 うちのグレンと同じだね!


 ヘルドさんを追うようにお願いすると、彼の馬の後ろを追いかけてくれた。


 アイリスの背中にしがみつき走っていると、前方から少しずつ兵器とやらが見え始めた。


 大きなお城?


 何だか長くて大きい筒が立派に立っている。


 あの筒から白い煙が立ち上っているから、恐らくあの黒い炎の爆炎はあそこから撃たれたのだろうか。



 大型破壊兵器『ヴァレンシア』。


 その姿が段々と空を埋めるように見えた頃、不思議な丸いモノがこちらに向かって沢山飛んできた。


 大きさは僕の頭くらいの大きさで、羽根もないのに飛んでいる。魔法かな?


 不思議な丸いモノから、魔法のような攻撃が始まった。


「アレク! しっかり掴まってて!!」


 アイリスの言葉に、ぐいっとアイリスに抱き付いた。


 暖かくも頼もしいアイリスの息の音が、身体を伝わってきた。



 激しい魔法の攻撃を、スレイプニルは素早く回避しつつ、アイリスが『魔女ノ衣』で魔法を打ち返した。


 僕も所々のタイミングを見て、丸いモノに向かい『剣の雨』用の刃で攻撃しつつ回収を急いだ。


 スレイプニルが速すぎて、回収が遅れちゃうと回収出来なくなってしまうからだ。



 こうして、僕達は必死に兵器『ヴァレンシア』の元に辿り着いた。


 先にヘルドさんが到着しており、『ヴァレンシア』の前には大きなゴーレムが立ち塞いでいた。



「アレク、あいつが『ヴァレンシアの守護神』だ。あいつは俺様が相手する。お前には本体を任せるぞ」


「分かりました……ヘルドさん。あいつ滅茶苦茶強そうなんで、気を付けてくださいね」


「ふっ、知っているさ。これで三度目の再戦だからな」


 そして、ヘルドさんは愛剣を抜き、『ヴァレンシアの守護神』と対峙した。

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