第41話 次なる災難ですか?

 ダークエルフの里の救出も終わり、僕とアイリスはベータ町に戻って来た。


 いつものように皆からお帰りなさいと言われると、嬉しくなる。


 そう言えば、豚肉が大量に手に入ったので、暫く狩りをする必要すらなさそう。


 ――と皆にその話をした直後の事だった。


 慌ただしく、連邦国のギアンさんが訪れてきた。



「あ、アレクさん!」


「ギアンさん! 一人で……という事は……」


 ギアンさんは全力疾走で来たようで、ずっと息切れ状態だった。


 取り敢えず、水を渡すとガブガブ飲んで、息を整える間も無く、口を開いた。


「アレクさん! 大変だ! 英雄ヘルドが軍を率いてこちらの町に!」


「うん? 王国の方ではなくて、連邦国?」


「そうなんだよ! どうやら、Aランク冒険者の人がこの町で酷い仕打ちにあったらしくて、この町に向けて連邦国が動いたみたい!」


 もしかして、この前の……確か……ティルティだったっけ? ディルティだった気もする。


 あいつが変な噂を広めたに違いないね。


「ギアンさん、ありがとうございます。戦いの準備をしないと……」


「アレクさん! 僕は貴方が強い事は知っているよ! でも……相手は、あの英雄様! 悪い事は言わない、逃げるか、全面降伏にした方がいい!」


 落ち着かない様子のギアンさんに、僕は笑顔で首を左右に振り返した。


 例え、相手が英雄だろうと、勇者だろうと、僕はこの町を守る為に戦うと決めたんだから。




 ◇




 ギアンさんの報告から、足の速いセイくんに偵察を頼んだ。


 相手が相手なので、ぎりぎりの所で見て、ある程度規模が分かったようで、セイくんが帰ってきた。


「アレクニキ! 相手は歩兵が百人、騎兵が十人、それと、恐らく滅茶苦茶強いやつが一人いたよ」


 滅茶苦茶強い一人は、英雄ヘルドだろうね。


「このままだと、あと五時間くらいでここに着くと思う!」


 リミットは……五時間か。


 出来る事はやっておかなくちゃね。


 そう言えば、あの英雄・・さんは、残虐・・で有名だったね。


 話し合いで、どうこうなる問題ではなさそうだ。




「困ってるみたいだな、アレク」


 防壁で北東側を眺めながら、難しい顔をしていた僕に、懐かしい声が聞こえた。


「ん? 研究・・は終わったのか?」


「ああ、アレクのおかげでな。よりにもよって、こんな時に完成するとは……皮肉なモノだ」


「でも、皆を守る為の力だから、力を貸してくれると助かる――――シーマくん」


「ああ、勿論、そのつもりでいる」


 何処か、大人びた顔付きになっていたシーマくんだった。




 実は、この自由の町『ベータ』が完成してすぐに、シーマくんからある頼みがあった。


 この町にシーマくん専用の地下スペースを作って欲しいとの事で、僕は町がある程度落ち着いた頃から、地下室を作った。


 この地下室は、僕とアイリス、この場にはいないけどアースさんとリグレットさんしか会えないような場所になっている。


 何故なら、シーマくんの能力が『錬金術師』という能力だからだ。


 この能力は能力の強さを基準に作られるランク表に、最高クラスSランクと表記される程、大きな力を持った能力だった。


 シーマくんは、いずれ訪れるであろう僕達を巻き込んだ戦いの日まで、『錬金術師』としての力を蓄えてくれていた。


 時々、町には上がっていたけど、殆どを暗い地下室で暮らした。


 出来れば……シーマくんにも、のびのび暮らして欲しかったけど、彼の能力の所為でそうもいかないみたい。


 不安な僕の肩に手を置き、シーマくんが話した。




「心配すんな、俺はいつかアレク達と、のびのび暮らせる日まで、あがいてみせるさ。その英雄とやらにも一泡吹かせてやるさ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る